救済の方法 31
「そういえばユーリさん、”禍憑き”について私も調べてきたんですけどね」
「あぁ、その話は仕事終わったらローズたちも含めてしようぜ」
「え、ローズさん!? ローズさんたちもいるんですか?」
またまた驚くアゲハに、ユーリはさらに驚くであろうことを告げる。
「なんと、今ならレイリス付きだぜ」
「ええええぇーっ!?」
思わずアゲハは叫び、そして店内の客に怪訝な表情で見られた彼女は慌てて口を閉じた。そして彼女はまだ驚きつつ、今度は小声でユーリにこう問いかける。
「れ、レイリスさんがいるって本当ですか?」
「あぁ、マジだぜ。多分今は家ん中にいるんじゃねぇか?」
「うわー、うわー、ほんとですかぁ?」
アゲハは何かわくわくした表情で目を輝かせ、「あの、私レイリスさんに会ってきていいですか?」とユーリに聞く。
「ん? あぁ、別にかまわねぇけど」
「ありがとうございます! じゃ、早速会ってきますね!」
とても張り切った様子で家の中へと入っていくアゲハの後姿を眺めながら、ユーリはぼんやりと思う。
「……あいつ、そんなにレイリスのこと好きだったのか?」
おそらくは、ユーリの思うとおりだろう。
ただし彼女がレイリスを相変わらず”同性”として好意を抱き、憧れの目で見ている事を彼は知らなかった。
「レイリスさーん!」
アゲハが心躍らせながら家の中に向かうと、彼女は居間でくつろぐイリスたちの姿をすぐに見つける。
「あ、アゲハ」
「うわぁ、ホントにレイリスさんだー! 髪長い! なんか可愛いですー!」
アゲハはイリスの姿を見るや否や、彼に抱きつかん勢いで接近する。それにイリスは若干驚きながら、久しぶりの再会に喜ぶアゲハに声をかけた。
「ひ、久しぶりだね……」
「はい、お久しぶりです!」
「元気……そうだね、相変わらず」
「元気だけが取り柄なんで! レイリスさんはどうでしたか?」
「まぁそれなりにね……」
アゲハの若さ溢れる元気さが眩しいイリスは、苦笑交じりに彼女の問いに返事を返す。アゲハは余程イリスとの再会が嬉しいのか、いつにも増してハイテンションとなって いた。
そしてハイテンション過ぎてイリスしか見えていなかったアゲハは、今気づいたといった顔で周囲を見渡して不思議そうな表情をする。
「あれ、えぇと……すみません、よく見たらたくさんお客さんがいたんですね。なのに私ってば……」
アゲハにとって初対面のジュラードとラプラの二人は、急にテンション高く部屋に入ってきた彼女を怪訝な表情で見返していた。ついでにうさこも興味津々といった様子でアゲハを凝視している。
「えっとぉー……」
アゲハが説明を求めるようにイリスやエルミラに視線を向けると、イリスが彼女に説明する為口を開いた。
「詳しい事は夜にでも話すことになるだろうけど、とりあえず彼らを紹介しとくね。こっちの彼がジュラードで、今私が働いてる孤児院で一緒に暮らしてる子。これでもまだ彼はギリギリ未成年だから、私は保護者的な感じで一緒にいるんだ」
イリスがそう言ってジュラードを紹介すると、彼の頭の上にいるうさこが自分を紹介してもらおうとアピールするように震えながら鳴き始める。イリスは慌てて「と、頭に乗ってるのがうさこっていうゼラチンうさぎね」と、アゲハにうさこも紹介した。
イリスに紹介されたジュラードは、戸惑い気味な表情で「どうも」とアゲハに挨拶をする。ついでにうさこもアゲハに手を振って自分をアピールした。
「それで、こっちの彼が……」
イリスはジュラードたちを紹介し終えると、今度はラプラに視線を向ける。
今は普通に顔を出している状態のラプラは一目で魔族とわかる状態だが、アゲハは気にする素振りも無くイリスの紹介を待ちながら彼を見た。
「ラプラって言って、前に魔界に行った時にお世話になった人なんだ。ウネの友人で……」
イリスがそう紹介を言うと、ラプラが「よろしくお願いします」と口を開く。
「私、イリスのフィアンセでして……」
「違う! アゲハにそういうこと言うのは本当にやめて!」
アゲハは妙な方向に純粋なので、ラプラの発言を心から信じてしまう可能性がある。そのためイリスは即座にラプラの発言を否定したが、しかし残念なことにもう遅かった。
「えええぇ、そうなんですか!」
「だから違うって! ただの友人!」
何故か期待と好奇心に満ち溢れた眼差しでこちらを見てくるアゲハに、イリスは物凄い疲労感を既に感じながら否定を叫ぶ。だが女性の多くが”そういう話題”が大好きな傾向に、アゲハも漏れなく当て嵌まる。
すっかりラプラの言い分を信じたアゲハは「レイリスさんってば照れてるんですか?」と、否定するイリスに楽しげな笑顔で言った。
「ち、違うんだよ、アゲハ。本当になんでもなくてね、彼はただ……」
相手がアゲハなので強く言う事も出来ず、イリスは引きつった笑顔で何とか彼女に誤解だと理解してもらおうと説明する。しかし可哀想なことに、それは無駄な努力に終わってしまう。
「ただの友人だなんて……一緒に朝ごはんを作ったり、同じ部屋で二人きりで寝たりしたじゃ ありませんか」
「えええぇーっ!? うわあぁ、やっぱりレイリスさんってオトナだー! それってつまり、そういうことですよねー?!」
ラプラが寂しげな表情で余計な事を呟くと、アゲハが顔を真っ赤にして驚く。そしてイリスは最悪な方向に進み始めている現状にげっそりとしながら、「だから違うってば……」と力なく呟いた。
「って言うかジュラードにも変な誤解されたら本当に嫌だから、もう余計なこと言わないでねラプラ……」
怒る気力も失いつつあるイリスは、そうラプラに脱力した様子で告げる。だがラプラはわざとなのか何なのか、「余計な事とは……?」と真顔でイリスに聞いた。
「あの口付けのこととか、でしょうか? あの時のあなたからの口付け、今でもあの柔らかい感触は鮮明に覚えて……」
「いやああぁぁっ! だから言うなぁっ!」
確かにそれはしたが、だがあのときの自分はまた軽く精神状態がアレしてたからであり、まともな状態なら絶対にそんな恐ろしい行動になんて出ない。
そんなことを考えながら叫んだイリスは、直ぐにはっとした様子で周囲を見渡した。そして自分に向けられる様々な意味の視線に、彼は凍りつく。
「レイリス、やっぱりもうその人とそういう関係に……うわぁ、ホントに引くわー……」
「先生、孤児院でそんなことしてたなんて……ショックだ……」
「レイリスさんってやっぱりオトナな人で、私憧れます……っ!」
一人何か目を輝かせているアゲハは置いといて、エルミラとジュラードにドン引きな眼差しを向けられたイリスは心に物凄いダメージを負う。