救済の方法 30
「だからさ、そのマナを抽出出来ればそのマナから水を作ることが出来るんじゃ無いかって思って 」
「それは……」
エルミラの話を聞き、ラプラは何か難しい顔をして考え込む。エルミラは笑顔で「ねぇねぇ、どう? オレのこの考え」と、ラプラからの返事を待った。
「……不可能ではないかもしれませんが、しかしこちらでそれが実現できるのか私には謎ですね」
そう答えたラプラは、こう言葉を続ける。
「まず、アトラメノクのマナ水の製造方法はこうです。あちらの世界で作られたミスラやフラと言った四元素のマナ水には、元々アトラメノクのマナが僅かながら含まれています。それらを特殊な機械によって精製して、マナ水からアトラメノクのマナのみを抽出したものをアトラメノクのマナ水として実験機関などでは利用しています」
「じゃあオレの考えもそれと似たようなもんだよ。マナ水からアトラメノクのマナを抽出出来るなら、他の物質からもそれは出来るんじゃない?」
「えぇ、確かに……ですが、あなたの話では生物からアトラメノクのマナを抽出する考えのようですが、生きているものから基礎となるマナを奪うわけですよね? マナを抽出された対象がその後どういう状態になるのか、何となく想像がつきます。勿論良くない方向にですよ」
ラプラが言わんとしている事は、エルミラの考えを実際に行えばマナを抽出された対象の生物は無事ではすまない可能性が高いということだろう。
そしてこちら側の世界でアトラメノクのマナを持つ存在は魔物かゲシュか、あるいはラプラやウネのような魔族しか存在しない。
「んー、まぁね……それはそのとおりだと思う。でもさ、ゲシュやお兄さんたち魔族からマナを奪うんじゃなくて、魔物ならいいんじゃない? 抽出対象として魔物を何匹か捕獲してさ、それで……」
「……では魔物からマナを手に入れるとしましょう。それは一体どうするのですか?」
ラプラにそう問われ、エルミラは何か自信有りげな表情でこう返事をする。
「その装置はオレが作るよ。ほんのちょっと時間くれれば作ってみせるよん」
「自信がお有りのようですね」
「まーね」
正直ラプラもジュラードも、エルミラが何者なのか詳しくは知らない。なので何故彼がこんなにも自信有りげな態度を取るのか不思議ではあった。
だがエルミラも、根拠も無く『作る』と言ったわけでは無いだろうとは思う。
「何か……それが作れるって確信があるのか?」
「うん。実はちょっと前にそういうこと出来ないかって考えたことあってさ。あの時は設備不足とか色々事情があって途中で研究断念しちゃったんだけど、今なら出来るかもーって思うんだよね」
「と言うか、あなたは一体何者なんです?」
ジュラードの質問に答えるエルミラに、ラプラが怪訝な表情でそう問いかける。エルミラはそれに対して、「今は自由な研究者、かな」と答えた。
「そうですか……専門はマナでしょうか?」
何か興味を持ったふうにラプラがそう問うと、エルミラは「色々やってるけど、力入れて調べてるのは旧時代の技術かな」と答える。
「でもそれ調べると必然的にマナの知識も必要になるから、そっちも色々勉強してるよ」
「なるほど。……実は私も研究者でして、専門はマナや術なのですが」
「あ、そうなの!?」
「えぇ」
ラプラの話を聞き、エルミラは「ならお兄さんも手伝ってくれない?」と彼に言う。
「お兄さんが手伝ってくれたらいける気がするんだよね! ねぇ、そうだよ、そうしない?! わざわざ魔界戻るよりさ、こっちでマナ水作る装置作ろうよ! その方が楽でしょ?! オレもそれの開発、してみたいし!」
「それは……皆さんに相談しないとなんとも言えませんがね」
エルミラの提案にラプラがそう苦笑と共に返事を返すと、やっとイリスがコーヒー入りのカップを持って部屋に戻ってくる。
「お待たせ、コーヒーあったよ。で、なんか妙に盛り上がってたけどどうしたの?」
エルミラにコーヒーを渡しながら、イリスはそう彼に問いかける。エルミラは嬉々とした笑顔で、たった今自身が提案した話をイリスにも説明し始めた。
「たっだいまレイチェル、お届けものばっちり完了したよー! ……って、あっ!」
ユーリたちが店に戻ってきてしばらくの後、届けものをしに外に出ていたらしいアゲハが店に戻ってくる。そして彼女は店の中でユーリの姿を見つけ、驚いた表情で彼を見た。
「お帰りアゲハさん」
「よぉ。ごくろーさん、アゲハ」
「た、ただいまって言うか……あれ、ユーリさん、もう戻ってきたんですか!?」
驚くアゲハにユーリは笑いながら、「一時的にな」と答える。アゲハは「そうなんですかー」と頷き、そして嬉しそうに彼に近づいた。