救済の方法 29
ラプラの言葉を理解したエルミラは、「でもそれって大変だよね」と返す。
「だって確かエレに戻るってすっごい魔力使っちゃうんでしょ?」
「そうですね……異界を繋ぐ行為ですからね。本来ならば交わる事の無かった世界同士を繋ぐのですから、対価は大きいのは当然ですよ」
「ふ~ん……ならやっぱり、そんなことしないでもマナ水手に入る方法があれば楽だよね」
ラプラから話しを聞き、エルミラは少し考えるように沈黙する。やがてジュラードの頭の上で歌ううさこの歌がクライマックスっぽくなり、うさこが拳を握りながら力強く歌いだすと再びエルミラがこう口を開いた。
「ねぇねぇ、そっちの技術でアトラメノクのマナを作ることは出来ないのかな? 人工的にさ」
「それは無理でしょう」
ラプラに即答され、エルミラは「やっぱ無理か」と呟く。
「例えばマナを別のマナに変えるといったことは可能です。水のマナを火に変えるといった研究は行われておりますし成功もしていますので。しかしそれらマナをアトラメノクのマナに変える事は今のこちらの技術でも不可能です。ゼロから作るということは尚のこと無理ではないかと……あれは我々が自由に扱えるものでは無いでしょうからね」
「だよねー、やっぱ無理だよね。っていうかやっぱり水のマナを火に~とかは出来るんだ」
「えぇ、少々面倒ですしコストもかかりますが可能ですよ」
「ふむ、なるほどね。ちょっとその話、あとで詳しく聞きたいなぁ」
「あまりおおっぴらにお教え出来る技術では無いのですけどね」
苦笑しながらラプラがそう答え、エルミラは再び何かを考えるように沈黙する。そしてうさこが熱唱を終えてジュラードがそれに対して拍手してると、またエルミラが何かを思いついた様子で口を開いた。
「じゃあさ、アトラメノクのマナを抽出するってのはどうかな?」
「抽出?」
怪訝な顔で聞き返すラプラに、エルミラは「そう!」と笑顔で頷く。この会話に、ジュラードも不思議そうな顔でエルミラを見た。
「どういうことだ?」
ジュラードがそう問いを向けると、エルミラは彼の方を見てこう話しかける。
「リ・ディールに生きる人や動物や植物とか水とか空気とか、とにかく世界中の物質全てがウルズのマナから作られたものなのは知ってる?」
「……知らない」
「あぁ、そう。いや、知らないなら知らないでいいんだ。みんな突き詰めればマナなんだよ。そういうことだって一先ず覚えておいてもらって話しを進めるから」
「はぁ……」
「そんでね、今『突き詰めればみんなマナ』って言ったけど、それがリ・ディールで生まれたものは全てウルズのマナってことになるの。人や動物や植物や環境全てが原子レベルではウルズのマナなわけね。今こうして存在しているオレたちはマナが結合した状態だからこうして”人間”や”物”として存在出来てるわけで、その結合が崩壊すればオレたちはウルズのマナに還元されちゃうんだ。あ、でもマナを物質の最小と考えると、ウルズのマナの他にミスラやフラが混ざっていたりもするから、一概にそうだって言い切れないけど。でもオレの考えではミスラやフラのマナだってウルズから出来てるんだし、つまりは元は全てウルズだって言っていいと思ってるんだよね」
「……はぁ」
エルミラの話を一応聞くジュラードだが、正直彼にはエルミラが何を言ってるのか何となくしか把握できない。いや、なんとなくはわかるのだが。
「まぁとにかくウルズのマナなわけ。オレもジュラードも、そこのコップもこのビスケットも全部ね。そのことは古い文献に書いてあったことで、多分間違いないよ」
そう説明したエルミラは、「で、ここからが本題なんだけど」とジュラードに告げる。
「リ・ディールに生きる人たちや動植物がウルズのマナなら、エレに生きるラプラやウネはアトラメノクのマナってことじゃない?」
このエルミラの言葉に、ラプラが「そうですね」と答えた。
「おぉ、やっぱりそうなんだ!」
「えぇ。我々アドラメノク・ドゥエラや魔物など、エレに存在するものは皆アトラメノクのマナから作られていますからね。ちなみにゲシュの場合は二つのマナが混在しているようですが、こちらの世界で繁殖している魔物も同様にウルズとアトラメノクのマナが交じり合っているという話を聞いたことがあります。しかしそれが何か?」
ラプラが問うと、エルミラはこう返事を返した。