救済の方法 27
「久しぶりだね、レイチェル。ホント、話に聞いてたとおり大きくなったね」
「レイリスさんはお変わりなく……あ、も、勿論いい意味で、です!」
相変わらず気遣いの塊のようなレイチェルに苦笑しつつ、イリスはミレイにも視線を向ける。ミレイはアーリィに引っ付いたまま、興味深そうな表情でイリスをじっと見ていた。
「おにいちゃんのおともだち?」
イリスを見ながらそう問うミレイに、レイチェルは笑顔で「まぁね」と答える。それを聞いたミレイはまたまじまじとイリスを見つめ、そして彼に近づいて挨拶をした。
「はじめまして、みれいです」
「え? あ、うん……はじめまして」
丁寧に頭まで下げて挨拶され、イリスは若干戸惑った様子で返事を返す。彼はどう名乗ろうかと一瞬悩んだが、「私はイリスだよ」と今の名を彼女に名乗った。
「レイチェルたちには『レイリス』って呼ばれてるけどね」
「なまえがいっぱいあるの?」
「んー……そうだね、そんなところかな」
苦笑しながらそう答えるイリスに、ミレイは何故か目を輝かせて「なんかすごい」と感想を述べる。そのミレイの反応に、やはりどう返事していいのかわからずイリスは苦笑を返した。
「でもなんでレイリスさんがローズさんたちと一緒に……? それに、他にもいっぱい人がいるけど……」
レイチェルはラプラやウネにも視線を向け、そう疑問を口にする。ローズはその疑問に、「少し長い話になりそうだから、手が空いた時にでも説明するよ」と彼に言った。
「そうですか。じゃあお店閉めた後にでも話聞かせてもらっていいですか?」
「あぁ」
ローズが頷いて返事をすると、レイチェルは何かを思い出したように「あっ」と声を上げる。ローズが「どうした?」と聞くと、彼はこう言葉を返した。
「そういえば今ちょっと届け物に出てもらってるんですけど、今アゲハさんもこっちにいるんですよ」
「アゲハ?」
レイチェルの言葉を聞き、驚きの声を上げたのはイリスだ。
「か、彼女までここにいるんだ……」
なんだか急に懐かしい人たちと対面することになり、イリスは複雑な心境でそう呟いた。
「うん。きっとアゲハさん、レイリスさんに会ったら喜ぶと思うよ。アゲハさん、レイリスさんのこと心配してたから」
レイチェルにそう声をかけられ、イリスは複雑な心境のまま曖昧な笑顔で頷く。
レイチェルはユーリに視線を向け、彼にこんな事を言った。
「それでユーリさん、アゲハさんが働いた分ね、お給料……」
非常に言いにくそうにそうユーリに言ったレイチェルに、ユーリは「まぁ、しょうがねーもんな」と苦笑しながら頷く。
「うん、ごめんなさい」
「なんで謝るんだよ。働いてくれてたんなら当然出さなきゃいけねーだろ」
ユーリがそう答えると、レイチェルはホッとしたように安堵の息を漏らす。そしてこう付け足した。
「あ、勿論エル兄の分はいらないから大丈夫です」
「え、なんで! ひどい! オレにも給料ちょうだいよ!」
レイチェルの一言に大人しくしていたエルミラがそう反応するが、レイチェルとユーリは彼を無視した。
「つーわけでローズ、ジュラード、俺は今から色々店のことで忙しいので、そーいうことでよろしく!」
ユーリはそう言うと、「お前らは家の中で休んでてもらえるか?」とジュラードたちに言う。ユーリに続けてアーリィも「私も薬作らなきゃ」と呟いた。
「そうだな、アーリィも忙しいな」
「だったらユーリ、私たちにも何か手伝えることは無いか?」
ローズがそうユーリに問うと、ユーリは少し考えてから「店の方の事は、レイチェルとミレイいれば十分だからなぁ」と言う。
「だったらアタシとローズでアーリィの方を手伝うわよ。魔法薬作るんでしょ? それなら手伝えるわ」
「お、それいいな」
マヤの提案にユーリは頷き、ローズとマヤはアーリィの魔法薬作りを手伝うこととなる。これにウネも「私も協力する」と手を上げた。
「私もそれくらいなら手伝える気がするから」
「そっか。サンキュな、ウネ」
ユーリがそう声をかけ、ウネはフードの下で微笑み頷く。そしてユーリのその言葉を聞き、レイチェルは「え、ウネさん?!」と驚いたように声を上げた。
「えぇ、私はウネさんよ」
「ウネさんかぁ……ますますどういう理由でローズさんたちと一緒なのか気になってきたよ」
「はははっ、まぁそれは後のお楽しみということで」
ローズがそうレイチェルに言うと、彼女の隣でジュラードが困った表情で立ち尽くす。
「……俺はどうすればいいんだ?」
うさこを頭に乗せたままそう途方にくれたように呟くジュラードに、ローズは「休んでていいんじゃないか?」と声をかける。
「でも、お前たちが手伝いをしてる間に俺だけ休んでるってのはなんか……よくない気がする……」
基本真面目な男なので、ジュラードはそんなことを不安げな表情で呟く。すると彼は何か背後から視線を感じて振り返った。
「……」
ジュラードが振り返った視線の先には、部屋の隅で膝を抱えて座っているエルミラが、笑顔で彼に手招きをしている姿があった。だが『役立たず』の仲間に引きずり込もうとする彼を、ジュラードは無視して見なかったことにする。
「あっ、ひどい! ジュラードまでオレを無視した!」
エルミラの叫びは聞かないふりをして、ジュラードはユーリに眼差しを向ける。
「俺に手伝えることは……」
「んー……特にねぇから、いいよ、お前は休んでろよ」
「で、でも……」
何か休んでいるのは気が引けるらしいジュラードに、イリスが「いいじゃん、休んでようよ」と声をかける。
「私も特に手伝えることは無さそうだし、そうしてるつもりだけど」
「で、でも……」
イリスはそう言うが、ジュラードはやはり戸惑う様子を見せる。ちなみにラプラはイリスが休んでいるなら、自分も休むつもりなのだろう。
ジュラードが悩んでいるのを見て、やがてレイチェルが彼にこう声をかけた。