救済の方法 24
(早く……リリンを治す薬を手に入れないと……そしてリリンを元気に戻してあげたい……)
ますます強く思う、その願い。だが手が届かないものでは無いと、今はそう思えるのが救いだった。
「ところで、今後は私もあなた方に直接協力ということでよろしいのですよね?」
ラプラがそう発言し、ジュラードは彼に「どういう意味だ?」と発言の意味を問う。ラプラはこう続けた。
「つまりもう留守番する必要は無く、イリスと共に私も行動できるということですよね?」
イリスに直接頼まれた使命とは言え、やはり一人だけ置いてけぼりだった状況は辛かったらしい。
ラプラがそう問うと、マヤは「まぁ、そうね」と頷いた。そしてそれを聞き、ラプラの眼差しがキラキラと期待に輝く。
「あぁ……やっとこれからは私もイリスと共に……っ」
だが喜ぶラプラを尻目に、イリスはこうマヤに言った。
「いや、でももう私はあなたたちについていかなくてもいいんじゃないかな? 別にもうこれからは私の力は必要無いだろうし」
イリスのこの発言に、ラプラは『え?!』という顔で彼を見る。イリスはそれに気づいてか、こう説明を付け足した。
「ほら、だって私が彼らについてったのって、不法侵入作戦の為にだよね? それがもう終わったんだから、別に私はここに残っても……」
そろそろまたユエや子どもたちとの生活に戻りたいなぁと思い始めていたイリスは、そう提案してみる。
確かに彼がジュラードたちに協力してついて行った理由はその通りなので、それが終わった今では彼が無理にこのままジュラードたちと行動する理由は無い。だが、しかし……。
「……嫌です」
「は?」
唐突にラプラは妙な発言をする。一体何が『嫌』なのかと、イリスが疑問の眼差しで彼を見ると、ラプラは捨てられた子犬のような眼差しで彼を見つめた。
「イリスと一緒じゃなければ私は協力しませんっ」
「……」
いい大人の男が、泣きそうな顔でそう駄々を捏ねる。イリスは思わず『うぜー』といった表情を隠さずに彼を見た。
「ラプラ、私抜きでも協力してあげてくれないかな……」
『うぜー』な気持ちを隠さない表情のままイリスがそうラプラに言うと、今度はラプラも簡単には引き下がらずに自分の主張を強く訴える。
「いいえ、私はイリスと共に頑張りたいのです! イリスが一緒ではなければ、私は本気出せませんよ!」
「えぇー……」
ラプラとは逆に、彼と一緒だとやる気ダウンしそうな様子のイリスを見ながら、マヤは「いいじゃない」と声をかける。
「人手は多いほうがいいからね。あんたにもまだ手伝ってもらいたいし」
「えぇ!? それ、本気?」
自分の言葉にますます嫌そうな顔をするイリスに、マヤはこう言葉を続けた。
「本気よ。それともあなたはリリンちゃんを助けてあげたくないの? 早く病気を治してあげたいって思わないのかしら?」
「そ、そんなことは……っ」
マヤのやや卑怯な一言に、イリスは苦い顔で「わかったよ……」と返事をする。途端に隣でラプラが幸せそうな笑顔になった。
「で、でも、そしたらここの子どもたちの安全は誰が守るの? まだこの近くにあの気持ち悪い魔物がいるかもしれないし」
ラプラいわく『肉団子』な例の魔物がまだこの辺りにいるのではないかと心配するイリスのこの主張に、鬼のマヤ様は冷めた表情で彼にこう返した。
「確かに魔物は心配だけど、たとえあなたがここに残ってもあなたじゃあの魔物に太刀打ち出来ないと思うけど?」
「……それはその、その通りだけど……」
人の心を抉り取るようなことをはっきりと言い切る鬼のマヤ様に、イリスはもう言い返す気力を無くして 沈黙した。
「魔物に関しては、私がこの建物の周囲に魔除けの術を施しておきましょう。そうすればここが魔物に襲われることはないはずですよ」
魔物の襲来を心配するイリスに対して、ラプラがそう提案をする。それを聞き、イリスが「出来るの?」と聞くと、ラプラは「えぇ」と笑顔で頷いた。しかし彼はこうも続ける。
「その代わり魔除けの術は魔の血を引くもの全てに効果があります。魔除けを施せば魔物はこの建物に近づけなくなりますが、我々魔族にもその影響が及びます」
「どういうことだ?」
ユーリが問うと、ラプラは「つまり我々魔族も建物に近づくのが困難になるということですよ」と言った。
「建物に近づくとひどい頭痛などの症状が起きるので、近づけなくなるんですよ。そしてそれは魔族だけじゃなく、魔の血を引くものなら全てに摘要される。ゲシュも例外ではありません」
「ん? そうなのか? でも前にアーリィが似たような魔法を使って安全に野宿したけど、別にそういうことは何も……」
魔法に詳しくないユーリだが、以前アーリィが魔物を避ける為に結界魔法を使ったことを覚えていた。その時は別にゲシュであるジュラードやローズに、なにか魔法が影響していた素振りはなかったのだが……と、それを彼は疑問に思う。
するとラプラは彼にこう説明した。
「えぇ、魔物のみを避ける為の結界も勿論術として存在しますが、そちらはより複雑で高度な術となるので効果の継続が難しくなります。一方で魔除けならば一度その術をかけておけば、術者の能力にもよりますが、何ヶ月かは効果を維持できます」
ラプラの説明を聞き、ユーリは何となくだが納得した表情を浮かべる。つまり大雑把な術なので、その分継続も楽なのだろう。
「そう言うわけで他にゲシュの方がここに残ると言う事ですと、その術は使えなくなるのですが……」
ラプラがそう問うように言うと、ユエは「いや、ここにいるゲシュの子はジュラードとリリンだけだから大丈夫だよ」と彼に返した。
「イリスもまたどこかに行くようなら、その魔法でも特に問題は無いね」
「そうですか」
話が決まり、ラプラは「では出発前にでも術を施しておきましょう」と告げる。
「この辺にまだあの醜い魔物が徘徊しているのは間違いないようですからね」
「そうかい……ありがとう、頼むよ」
ユエがそう声をかけ、ラプラは笑顔で頷いた。
孤児院での用事が済み、ジュラードたちは次にユーリとアーリィの店の様子を見に行くこととなる。
そしてそれにはジュラードたちの他に、何故かイリスとラプラも付いて行くことになった。ちなみにイリスが付いて行く理由は『どういう店なのか気になる』からで、ラプラはただ単に彼と離れたくないので付いて行くらしい。
ついでにイリスは今ユーリたちから店を任されているレイチェルにも会ってみたい様子だった。
「ジューザスとかには会いたくないけど、レイチェルはちょっと会ってみたいって思うんだよね。なんか背も伸びたっていうし」
ウネの転送準備を待つ間、イリスはそんなことをローズたちに話す。
旅の合間にローズたちからレイチェルやミレイのことを聞いていたので、話を聞くうちに実際に会ってみたくなったのだろう。
「そうだな、レイチェルは大きくなったよな……私も正直会って驚いたし」
ローズがそう言って笑うと、ユーリも「もうオニイチャンなエルミラの方がチビだもんなー」と言いながら笑った。