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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
209/494

救済の方法 23

「きゅうぅ、きゅうぅぅっ」

 

「あ、お前にも驚きの特技があるぞ」

 

「きゅうぅ?」

 

「ほら、食料になれるじゃないか」

 

「きゅううぅっ!」

 

「……冗談だ、泣くなよ」

 

「ジュラード、そろそろ行くぞ」

 

 ジュラードがうさことそんなふうに話しをしていると、ローズにそう声をかけられる。ジュラードは顔を上げ、彼女を見た。

 ウネが転送した場所は、孤児院の直ぐ傍の森の中だ。少し歩けば、直ぐに自分にとっての唯一の家である孤児院にたどり着く。

 

「あ、あぁ、わかってる」

 

「きゅいぃ~!」

 

 うさこと共にローズに返事を返し、ジュラードはほんのしばらく離れていた”我が家”に向けて歩き出した。

 

 

 

「あっ、ジュラードお兄ちゃんたちだっ!」

 

 ジュラードたちが孤児院の前までやってくると、庭で遊んでいたギースが彼らに気づいてそう驚きの声をあげる。一緒に遊んでいたフォルトやフィーナも直ぐに彼らに気づき、子どもたちはそれぞれに声をあげてジュラードたちの元に走った。

 

「お兄ちゃんたちおかえり!」

 

「もう用事、済んだの?」

 

「にーちゃんお土産! お土産は?!」

 

 ギースたちがそうやって騒ぎながらジュラードたちに近づくと、その騒ぎを聞いて建物の中からエリや、今日は仕事が休みのユエが顔を出す。彼女たちも、ジュラードの姿を見て驚いたような反応で彼らを迎えた。

 

「ユエ!」

 

 イリスはユエの姿を見ると、そう嬉しそうに声をあげる。そして彼がお土産を手に彼女に駆け寄ろうとすると、彼が忘れかけていた悪夢がそれを阻止する。

 

「いーりすー!」

 

「げっ!」

 

 どこから湧いて出たのかと言いたくなるほど突然に姿を現したラプラが、ユエに駆け寄ろうとしていたイリスへハートを飛ばしながら抱きつく。彼はやはり、相変わらずだった。

 

「いやああぁぁぁっ!」

 

「あぁイリス、やはりあなたはいつでも美しい。そしてこんなにも魅力的で、寂しさに飢えていた私の心を満たしてくださいます。それにしても、久しぶりのこのぬくもりと香りはぁはぁ……あぁ、もっとあなたを感じたい。あの、ちょっと舐めてもいいですか? ちょっとだけ、ほっぺたをちょっとでいいんですよ、ふふふっ」

 

「よくないいぃっ!」

 

 空気を読まない再会の仕方で、いい雰囲気になる前から雰囲気をぶっ壊したラプラのお陰で、ジュラードたちはどういう顔でユエたちと顔をあわせればいいのかわからなくなって立ち尽くす。

 ユエも苦笑いしながら襲われるイリスを見つめ、やがて彼女はジュラードに近づいて彼の前に立った。

 

「あ、先生……」

 

「おかえり、ジュラード。思ったより帰ってくるの、早かったじゃないか」

 

 そう言って笑顔で自分を迎えてくれるユエに、ジュラードは何か温かい様な恥ずかしいような、妙な気持ちを胸に感じながら「ただいま」と返す。ユエは彼に迎える言葉をもう一度繰り返した。

 

「うん、おかえり」

 

「あ、でも……まだ終わりじゃないんだ」

 

 ジュラードのその言葉に、ユエは「どういうことだい?」と不思議そうに問う。ジュラードはローズに視線を向け、そうしながら「事情があって、一度戻ってきたんだ」と言った。

 

「そうなんです、ユエさん。でもリリンちゃんを治す薬があることがわかったんで、後は薬を作る材料を手に入れれば彼女を救う事が出来るかもしれないんです。でもその材料の事で、ちょっと困った事があって……そのことで今回戻ってきまして……」

 

 ジュラードの傍に立っていたローズが、そうユエに説明を続ける。ユエは彼らの話しを聞き、「一先ず中で詳しい事情を聞くよ」と告げた。

 

 

 

「なるほどね……リリンの病気を治せるかもしれない薬があることはわかったけど、それを作る材料を集めるのが困難だと……」

 

 ジュラードたちから一通り話を聞き終えたユエは、理解した様子でそう話を纏める言葉を呟く。

 ジュラードはユエのその言葉に「はい」と頷き、そして彼女の隣に座るイリスの、そのまた隣に視線を向けた。

 

「それで、私の協力が必要になったので戻ってきたという事ですね?」

 

「え、あ、あぁ……」

 

 イリスの隣に座るラプラの言葉に、ジュラードは素直に頷く。だがラプラを見るジュラードの表情と視線は、明らかにドン引きしていた。

 何故ジュラードがドン引きしているかというと、今現在のラプラは荒縄で体を特殊な縛り方で縛られて椅子に座らされているからである。

 妙なシチュエーションなのに真面目な顔をして椅子に座るラプラは異様でしかない。この話し合いの直前までイリスを変質的に襲っていた彼は、ついにブチ切れたイリスによってこのような格好にされて無理矢理大人しくさせられていた。

 

「そうですか……確かにマナ水はあちらに戻ればいくらでも手に入れることが出来ます。私自身、研究用にいくつもストックを持っていますしね」

 

 答え、ラプラは苦い顔で「こんなことならば、こちらに持って来ていればよかったですね」と独り言のように呟いた。

 

「仕方ないさ。まさか必要になるなんて皆思ってもいなかったんだし」

 

 ローズがラプラにそう声をかけ、彼女は「とりあえずそういうことなんだ」と言った。

 

「他にも入手が難しい材料は多いし、あと少しだけ時間がかかりそうなんだけど……」

 

「そうか……今はリリンも安定していると聞いてるから、そう直ぐ危なくなる事も無いだろう。だから薬を作るのに時間はあると思うよ」

 

 リリンは今この孤児院にはいない。

 ユエが説明するに、彼女はマヤたちのアドバイスどおり異質なマナに汚染されているこの地を離れ、レイヴンの紹介で少し離れた都市の病院にいるらしい。そしてそこに移ってからの彼女は、容態に関しては急な発作に陥ることもなく、随分と安定しているようだった。

 ただやはり兄や他の孤児院の仲間たちと離れてしまった状況が寂しいようで、心は不安定になっているという話をユエから聞いたジュラードはひどく心配していた。


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