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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
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救済の方法 19

「ラプラにも協力してもらわないとダメなんだ……」

 

 そのイリスの凄く嫌そうな呟きの声を聞き、思わずローズは苦笑を漏らす。マヤも彼がラプラに変質的に好意をもたれている状況には同情しつつも、それはそれと割り切っているようで、「仕方ないでしょ、我慢してよ」と冷たく言い放った。

 

「彼のことが嫌でも、使える人材は使ってやってかないと時間があまりないんだからね」

 

「いや、私だって別にそれはわかってるし、そもそもラプラのこと嫌いってわけじゃないし、彼は頼りになるとも思うよ? ただ……」

 

 ただ時と場所を考えない変態行為をどうにかしてもらえたら……と、そんな事を言いかけて、イリスは「いや、ごめん、なんでもない」と口をつぐんだ。

 

「でもあの男に相談しないといけねぇってことはさ、また孤児院に戻るってことか?」

 

 ユーリがそう言うと、マヤは「そういうことになるわね」と頷く。

 

「戻る事自体はまたウネの術で一発だし、今度はこの場所に戻るのも簡単だから問題は無いわ」

 

 マヤはそう言うと、ウネに確認するように「そうよね?」と問う。それに対し、ウネは「うん」と頷いた。

 

「転送術は一度行った場所には任意で転送可能だから。この場所と孤児院を繋ぐ事は、今は容易に出来る」

 

 その頼もしいウネの返事を聞き、マヤは「なら安心ね」と笑みを浮かべる。

 そして孤児院に一度戻る事を聞き、ジュラードは何か懐かしい気持ちを胸に感じた。

 孤児院を再び出て数日しか経過していないが、リリンやユエたちと別れて随分時間が経ったように思える。今リリンは孤児院にいるのだろうか。それとも何処か別の場所に一時的な避難をし終えてしまい、あの場所にはいないのだろうか。

 

(リリン……)

 

 たった一人、彼女を助けたいが為に始めた旅は、いつの間にかたくさんの人に支えられてのものとなった。それをまた今、不思議な気持ちと共に胸中で感じ、静かに感謝する。

 きっとこうなったのは、全ては彼女にであった偶然からだろう。聖女に面影をよく似せた彼女と。

 

「……ん? どうした、ジュラード」

 

 ジュラードの視線に気づき、ローズが微笑と共にそう彼に返事をする。ジュラードは「なんでもない」と言い、彼女に同じ笑みを静かに返した。

 

「じゃあ孤児院に戻るのをいつにするかは、ジューザスたちの報告を聞いてから決めましょう」

 

 マヤがそう結論の言葉を告げ、ジュラードたちは各々了承の意味で頷く。そうしてまた一先ず話は終わりとなった。

 

 

 

 

 話し合いが終わると、また各々自由の時間となる。

 ジュラードとローズ、それにウネとマヤはうさこを連れて一般にも解放している近くの学園の図書館へと向かい、イリスは一人街の中を散策したいと言って先ほど外へと出て行った。

 ローズたちに誘われたが、読書することはあまり好きでは無い為に図書館に行くことを遠慮したユーリはと言うと、彼はとりあえず部屋で洗濯済みの洗濯ものの整理をし、今はそれが終わって一休みしようかとベッドに横になったところだった。

 

(……そういやアーリィは何してんだろ?)

 

 馴れない家事をやり終えて疲れた体を横にし、彼はふとそんなことを考える。するとその思考にリンクしたかのように、ユーリのいる部屋のドアがノックされた。

 

「ユーリ、いる?」

 

 そうドアの向こうから聞えたのはアーリィの声で、ユーリは体を起こして「いるよー」と返事を返す。するとドアが開き、今まさに『何しているのか』と考えていたアーリィが部屋に入ってきた。

 

「あれ、アーリィはローズたちと一緒に図書館行かなかったんだ?」

 

 部屋に入ってきたアーリィにそうユーリが声をかけると、アーリィはベッドに腰掛けるユーリの前に立ちながら「うん」と頷く。アーリィはどこと無く寂しそうな顔をしながら、ユーリに「隣、座ってもいい?」と聞いた。

 

「あぁ、いいよ」

 

 ユーリがそう返事をすると、アーリィはユーリと並んでベッドに腰を下ろす。どこと無くアーリィの様子が変なことに直ぐにユーリは気づいたが、とりあえず彼は様子を見て原因を考える事にした。

 アーリィは元気が無い様子のまま沈黙し、やがてユーリがそんな彼女に何か声をかけようかと思った矢先に、小さく顔を上げて口を開く。

 

「ユーリ、手、繋いでいい?」

 

「へ? あ、あぁ……いいよ」

 

 アーリィの突然の要求に戸惑いながらも、ユーリは頷く。すると直ぐにアーリィは大きな彼の手に、自分の手を絡めてぬくもりを共有した。

 ますますアーリィはどうしたんだろうと疑問に思いながら、ユーリは少し繋ぐ手に力を込める。しばらくして、再びアーリィは口を開いた。

 

「ユーリ……あの……」

 

「ん? どうした?」

 

 優しく問うと、アーリィの遠慮がちな声が続く。

 

「あの、抱きしめて……」

 

「……え?」

 

 突然な要求に、ユーリは一瞬驚く。そのユーリの反応にアーリィが怯えた様子で「だめ?」と聞くと、ユーリは慌てて首を横に振った。

 

「いやいや、全然ダメでは無いよ」

 

 ただ、なぜ突然……という疑問が生まれただけだ。ユーリは不思議に思いながらも、繋いでいた手を一度離して、アーリィの体を抱き寄せた。

 肩を抱き寄せたアーリィは、そのままユーリの正面に体を回して彼に抱きつく。その勢いで、ユーリをベッドに押し倒した。

 押し倒され、ユーリは見上げる形でアーリィを見つめる。アーリィはやはりどこか寂しげな眼差しでユーリを見返していた。

 

「アーリィ、どしたの? なんか……」

 

 やけに積極的だなぁと、そう思ったユーリが問おうとすると、アーリィはその問いを遮るようにまた彼へと要求する。

 

「ユーリ、キス……したい」

 

 真剣な眼差しでそう告げたアーリィに、ユーリは一瞬目を見開いて驚いたが、すぐに微笑んで「いいよ」と返す。そのままアーリィの頬に手を添えて促すと、アーリィは薄く唇を開いたまま彼の唇にそれを近づけた。

 

「っ……ん……」

 

 唇が繋がる。

 珍しくアーリィの方から積極的に舌を絡め、ユーリはそれに応える。

 唾液が小さく音を鳴らし絡み合い、一度唇を離してはまた塞ぎ合うを繰り返す。その度に息が乱れ、アーリィは自分の体温が上がっていくような感覚に陥った。

 

「……はぁっ……」

 

 唇を離し、喘ぐように酸素を取り込む。アーリィは閉じていた目を開け、少し涙で滲む視界に再びユーリを映した。

 

「アーリィから『キスしたい』っての、珍しいね」

 

 髪を撫でるように黒髪に絡めた指先を動かしながら、そう言ってユーリが笑う。アーリィも恥ずかしそうに笑み、やっと悲しそうな影を宿す表情を消した。

 

「……なんかあったのか?」

 

「……」

 

 積極的に触れ合うアーリィに、ユーリはここでその理由を問う。 しかしアーリィは答えず、代わりに彼女はユーリの胸に顔を寄せた。

 

 耳を胸に押し当て、目を閉じて彼の心音を聞く。ぬくもりと規則的な心地よい音を感じる。

 

「……ねぇ、ユーリ」


「なんだ?」

 

「好き」

 

「……うん、俺も好きだよ」

 

「愛してる」

 

「うん……俺も愛してる」

 

「ユーリ」

 

「ん?」

 

 アーリィは体を起こし、再び彼を見下ろす。真剣な眼差しをユーリに向け、彼女は呟くように言った。

 

「あのね……今ね、私……ユーリと……したいの……」

 

 恥ずかしそうに語尾を小さくし、だけどアーリィはそうユーリに告げる。ローズほど鈍感なユーリでは無いので、その一言でアーリィの願いを正確に理解した彼は、今度こそ驚いた様子で目を見開いた。

 

「え……今、ここでか……」

 

「……だめ?」

 

「え……っと、う~ん、そうだな……」

 

 また不安げな眼差しになるアーリィに、ユーリはどうしようかと悩む。

 ぶっちゃけ、そりゃユーリもやりたいかやりたくないかで言えばやりたくて仕方ないが、しかしここは人の家だし……。

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