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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
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救済の方法 16

 ボーっとしていたからだろうか。アーリィは突然声をかけられたことにひどく驚いた様子で振り返る。アーリィに声をかけたのは、魔物である姿を偽っていないイリスだった。

 

「寝れないの?」

 

 問い、イリスは小さく笑いながら「眠れないなら、眠らせてあげようか?」と妖しく囁く。アーリィはそんな彼を、やはり無言で見返した。

 

「って、あなたには私の力は通用しないんだったね。あなたの”心”は人とは違うから、私の力には惑わされないんだよね」

 

「……うん」

 

 やっと言葉を発したアーリィは、どこか泣きそうな眼差しを隠すようにイリスから顔を逸らす。だが彼女のそんな異変を、洞察力に優れたイリスが見逃すはずもなかった。

 

「……どうしたの?」

 

 先ほどと同じ言葉を、しかし今度は強い疑問を持ってイリスはアーリィへ問う。だがアーリィは目を逸らし、俯いた姿勢のままで沈黙を続けた。

 

「……」

 

 さて、どうしたもんかとイリスは考える。

 

 自分自身が眠れなかったので外の空気でも吸おうかと庭に出てみたら、たまたま先客のアーリィを見つけたのだ。そしてそのアーリィは、何故か悩んだ様子で寂しげに佇んでいる。ただそれだけなので、このまま知らん顔をして放っておいても誰も責めはしないだろうが、しかし何となく放っておけない雰囲気ではあった。

 それに、元々自分はお節介な性格だ。かつてにも誰かにそう指摘された事がある気がする。その時は知らぬ顔で誤魔化したが、一応自覚はあ った。

 

(他人に無関心なフリしても、結局根が寂しがりだからね……世話焼いちゃうんだ、私)

 

 小さく溜息を吐き、イリスはもう一度アーリィに声をかけた。

 

「何か悩んでるんだね。言えないなら当ててあげようか?」

 

「?」

 

 もう一度眼差しを上げたアーリィに、イリスは笑みながらこう言う。

 

「ユーリのことでしょう?」

 

「!?」

 

 イリスの一言に、アーリィはひどく驚いた様子で目を丸くする。ずばり正解だったようだとイリスは思った。

 そして彼は『何故わかったのか』という顔で自分を見つめるアーリィに、こう言葉を続ける。

 

「あなたは何か悩んでたらユーリに相談するでしょ? でもそれをしてる様子もないんだから、それだったら悩みの原因そのものが彼だって想像つくよ」

 

 イリスはそう言うと、少し真剣な眼差しでアーリィを見つめる。

 

「またユーリと喧嘩でもした?」

 

 イリスの問いにアーリィは数秒の沈黙の後、首を横に振った。

 

「じゃあどうしたの? ……あぁ、あいつで悩んでるなら相談してくれたら、少しくらいは私も役に立てるかもよ? 一応、あいつとは古い付き合いだからさ」

 

「……」

 

 イリスの言葉に、アーリィは何か迷うように彼を真っ直ぐ見つめながら沈黙を続ける。だがやがて、彼女はこう口を開いた。

 

「違うの」

 

「え?」

 

 アーリィは首を横に振り、こう答える。

 

「ユーリのことだけど、ユーリじゃない。ユーリが悪いとかじゃない。そうじゃなくて……そうじゃなくて、私は……」

 

 言葉に迷うように、アーリィはまたしばらく沈黙する。イリスは黙ってアーリィの中で言葉の整理がつくのを待った。

 長く感じた沈黙の後、アーリィは再び口を開く。

 

「だって、私はアンゲリクスだから……ユーリと違うから……私、怖くて……」

 

「?」

 

 今更個体の違いに恐怖するとはどういう理由なのかと、イリスは不可解な表情でアーリィを見つめる。だが次のアーリィの言葉で、彼もやっとアーリィが何を悩んでいたのかを理解した。

 それはとても深刻で悲しい理由だった。そしてその悲しみは、イリスにも無関係なものではなくて。

 

「今日、あの会長さんと奥さんの話聞いて……私もそうだって気づいた。私はアンゲリクスで、この体はゲシュで……でも、そもそも”生きてない体”だから、成長もしなければ老いもしない。この体を動かしているのはコアで……私はコアが壊れない限り、この体でこの姿のまま生きるんだと思う」

 

 アンゲリクスの寿命は半永久的だと、そうイリスも聞いたことがある。

 だからこそかつてのマヤは彼女に依存し、孤独の癒しを天使に求めたのだ。自分自身が、やはり同じく半永久的な存在であるから。

 永久の命ほど孤独なものは無いのだ。だって、理に生きる他の命には必ず終わりがあるのだから。

 

「でもユーリは違う。ユーリは人だから、会長さんみたいにおじいさんになってく……そして、やがては……」

 

「……そうだね。いつかは、あなたと彼には別れの時が訪れるね」

 

 アーリィは小さく頷き、そして俯く。その拍子に、頬に一筋涙が伝った。

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