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神化論 after  作者: ユズリ
救済の方法
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救済の方法 1

 夜になり、ジュラードたちは再び中央医学研究学会の建物の前までやって来ていた。

 ジュラード、ローズ、ユーリ、アーリィ、ウネ、うさこに加え、今はそこにジューザスの姿もある。

 彼らは深い青に染まった空の下で、大きな建物のシルエットを見上げながらそこに立っていた。

 

 

「で、中に入ってマヤたちと合流しなきゃなんねーわけだけど」

 

 黒いシルエットと化した建物を見上げながらそう呟いたユーリに、ジュラードがジューザスを見ながら「どうやって中に入ればいい?」と問う。

 先ほどジュラードたちから事情を詳しく聞いたジューザスは、彼らに全面的に協力をすること約束してくれ、そんな彼はジュラードの問いにこう頼もしい返事を返す。

 

「私についてきてくれ。実は一ヶ所、昼間に鍵を開けといた場所があるんだ」

 

 そう言うジューザスが先導して歩き出し、ジュラードたちは夜の静寂に身を潜めながら再びの侵入の為に動き出した。

 

 

 ジューザスは裏道に面した建物のとある場所までくると足を止め、小さな声で「ここだよ」とジュラードたちに告げる。

 彼は直ぐ傍の建物の窓を指差してこう言った。

 

「ここの窓は鍵を開けておいたんだ。ここから入ろう」

 

 そう言ってジューザスが指差した先には、頑張れば背丈の大きいユーリやジュラードも潜れそうな大きさの窓があった。

 だがジューザスが示したその窓は地上から二メートル近くの高さにあり、どう考えても入るのが難しそうなものだった。

 

「……おいジューザス、これ俺はヨユーでいけるけどさぁ……もうちょっとどうにかなんなかったわけ?」

 

 その入りづらそうな位置に存在する窓を眺め、ユーリが苦い表情でそうジューザスに声をかける。ジューザスは困った顔で「そこはどうにもならなかったんだ、ごめん」と言葉を返した。

 

「やっぱりちょっと高すぎた?」

 

 ジューザスも苦笑いする微妙な位置の窓に、ジュラードは「入れるかな」と不安げな表情で呟く。ローズも”今の状態”では自信無ないらしく、不安げな表情で窓を見上げていた。

 ユーリは本人が言うとおり身体能力が高いので余裕でいけるようで、他にウネも意外と自信があるらしく、いつものクールな無表情のまま「私は大丈夫」と答える。だがそれ以外はこの窓を選んだジューザスさえも『多分入れる』程度の自信しかないらしい。アーリィに至っては、「は、羽出せばいける……」とか、物凄い最終手段的なことを呟いていた。

 

「ま、とりあえずやってみよう。見張りとかは夜はいないみたいだから、その心配は無いんだし。さ、まずは窓を開けて……」

 

 ジューザスの苦笑混じりのその言葉に、ジュラードはひどく不安になりながらも頷いた。

 

 

「よっ、と! あ、よかった。開いたよ」

 

 ジューザスがめいっぱい背伸びしながら、ゆっくりと窓をスライドさせて開けていく。幸い鍵はジューザスが開けといた後に閉められることは無かったようで、無事に窓は開いた。

 だがここからがわりと大問題だと、ジュラードたちは開いた窓を前に思う。

 

「開いたはいいけど……誰から入るんだ?」

 

 なんだか物凄く犯罪っぽい入り方だなぁと、それを気にしながらジュラードが問う。するとウネが手を上げ、「じゃあ私が」と言った。

 

「お? いきなり大丈夫か?」

 

「平気」

 

 心配するユーリに短くそう返事を返すと、ウネは前へと出て窓の前に立つ。『羽でも出す気だろうか』と思いながらジュラードたちが見守ると、ウネは彼らの予想に反して深く膝を曲げる姿勢を取った。

 そして皆が『まさか』と思う中、そのまさかの行動をウネは取る。彼女は膝を思い切り伸ばしてジャンプし、まずは余裕で窓枠に手をかける。そこから彼女は苦も無い様子で、腕の力のみで自分の体を引き上げて窓枠に足をかけた。

 

「す、すげぇ……ウネって実は肉体派……? あの脚力と腕力は一体何? 魔族的パワーか何か……?」

 

 思わずそうユーリが呟いちゃうほど、ウネの行動は逞しく男らしいものだった。何か付き合えば付き合うほど、意外な一面を見せる彼女である。

 男顔負けの逞しさを見せ付けたウネは、そのまま涼しい顔で体を窓の向こうへと移動させる。そして建物内へ侵入を果たした彼女は、やはりクールな表情をジュラードたちに向けた。

 

「入れたわ」

 

「……そのようだな」

 

 逞しすぎるウネの行動に、ジュラードは若干引きながらもそう返事をする。ついでに彼は「こいつをよろしく」と言って、先に中に侵入したウネへ持っていたうさこを投げた。

 

「きゅうううううぅ!」

 

 その酷すぎる扱いにうさこは涙目で鳴くが、ウネがちゃんとキャッチしてくれたお陰でとくに怪我をするということも無く、すんなりとうさこも侵入に成功する。うさこは若干恨めしげな眼差しでジュラードを見ながら、ウネの頭の上へよじ登ってそこに待機した。

 

「さて、次は……」

 

 ジューザスがそう言って皆を見渡し、ユーリが「俺は最後でいいわ」と彼に返事をする。

 

「俺も一人で入れるから。先に手伝い必要な奴が入った方がいいぜ」

 

「それもそうだね」

 

 ユーリの言葉にジューザスは頷き、彼はローズに視線を向ける。

 

「じゃあローズ君、入るかい?」

 

「え?!」

 

 急に指名されて驚いたローズだが、どうせ入らなきゃいけないならば断る理由も無い。彼女は少し緊張した様子で、「わ、わかった」と頷いた。

 

「ウネみたいに出来るかわからんが、精一杯努力して……」

 

「いやいやローズ、誰も今のお前にウネ程の逞しさを求めてはいねぇよ」

 

 深刻な表情で変な気合を入れるローズの姿を見て、ユーリが呆れた表情で突っ込む。ジューザスも苦笑し、「大丈夫、私たちが手伝うから」と彼女に声をかけた。

 

「そ、そうか? じゃあ頑張ってみる」

 

 手伝ってくれるなら安心だと、ローズは笑顔で頷く。そして「でも手伝うって、どうやって?」と直ぐに首を傾げた。

 

「そうだね……とりあえず窓枠に手は届くかい?」

 

 ジューザスに問われ、ローズは先ほどのウネと同じようにジャンプして窓枠に手をかけようと試みる。しかし所詮運動神経全般があのアリアレベルの今のローズなので、ジャンプ力乏しくまるで手は届かなかった。

 

「……全然届かない……」

 

 絶望を感じてしまいそうなレベルのローズの運動音痴を見て、ジュラードは思わず「ひどいな」と呟いてしまう。そしてそれには全員が同意した。

 

「今のジャンプ? なぁローズ、今のはジャンプなの? 今のしょぼいのがジャンプだとしても、まさか精一杯なわけねぇよな?」

 

「私にはわかる、あれが精一杯のジャンプなんだって。私と同じだから」

 

「そういえば運動神経とか体力とか、全部今の肉体に依存してるんだものね……仕方ないよね」

 

 ユーリ、アーリィ、ジューザスのそれぞれの(好き勝手な)言葉に、ローズはへこみにへこんだ。

 

「うぅ……だってアリアは運動苦手だったし……これは私のせいじゃない……いや、私のせいなのかな……?」

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