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神化論 after  作者: ユズリ
旧時代の遺産
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旧時代の遺産 35

「やりましたよヒスさーん! オレ、これでまた一歩前進しました! カナリティアさんに大幅に近づけましたー!」

 

「やったなカイナ、配達員を装ったストーカーから通い夫に大昇格だな」

 

「ちょっ、ヒスさんそれひどい……でも嬉しいですー!」

 

 呆れちゃうくらいに無邪気に喜ぶカイナを見て、カナリティアはまた溜息を吐く。

 なんだか訳のわからないことになったなと思いながら、彼女は掃除の続きを再開させようかと思った時、彼女の耳にカイナのこんな声が聞えた。

 

「あれー、ヒスさん。それ通販雑誌ですか?」

 

 ヒスが再び雑誌を読み始めると、彼の持つ雑誌を見たカイナがカナリティアと同じ勘違いをする。案外自分たちは相性いいんじゃ無いかと、そんなところでそんなことを一瞬考えてしまった自分に、カナリティアは内心で心底呆れた。

 そして彼女が自分に呆れる後ろで、ヒスとカイナの会話が続く。


「だからなんで通販誌……違う違う、これは医学雑誌。中央医学研究学会ってとこが発行してるんだけど、勉強になるから毎号送ってもらってるんだよ」

 

「へぇ、なんか難しそうなもん読んでるんですねー」

 

「いや、難しいというか、俺は医者だし普通にこういうの読んで常に勉強しとかないといけないから……」

 

 そう答えながら、ヒスは何かを思い出したように「そういえば」と呟く。カイナが「どうしたんですか?」と聞くと、ヒスは少し笑ってこう答えた。

 

「いやな、この雑誌出してるとこにジューザスが行くみたいな話を聞いたもんだから」

 

「ジューザス?」

 

 首を傾げるカイナに、ヒスは「あぁ、友人だ」と答えた。

 

「妊娠してる奥さんと小さい子ども家に置いて、単身レイマーニャまで行かなきゃならないあいつが可哀想だなぁって思ってな」

 

「そういえばジューザス、今もあっちこっち飛び回っているみたいな感じでしたもんね」

 

 ヒスの呟きにカナリティアがそう返事をする。それを聞いたカイナは、「大変そうですね」と率直な意見を呟いた。

 

「カイナは配達員してるんですよね? それも範囲は違っても、色々歩き回って大変じゃないですか?」

 

 カナリティアがそう聞くと、カイナは何故か自信満々な表情で「大丈夫です!」と答える。

 

「さすがに大陸超えとかないし、ここと隣町往復するくらいの距離しか移動しないんで!」

 

「それでも大変そうですけどね」

 

「だよなー」

 

 共に体力に自信の無いカナリティアとヒスがそう頷きあうと、カイナは元気に「オレ、体力だけはあるんで」と答えた。

 

「だからオレはカナリティアさんを一人置いて、どこか遠くに行く~なんてことは無いですよ!」

 

「……そうですか」

 

 胸を張って得意げな様子のカイナを見もせず、カナリティアは冷たくそう返事をするとさっさと掃除に向かう。そんな二人の様子を、ヒスは苦笑しながら見つめた。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

「……っくしゅん!」

 

「おや、ジューザスさん、お風邪ですか?」

 

 打ち合わせが終わり、会議室を出た途端に派手なくしゃみをしたジューザスに、彼の後ろから彼を気遣う男性の声がかけられる。

 

「長旅と馴れない土地で体調を崩されたのでは? 大丈夫ですか?」

 

「あぁ、すみませんロンゾヴェルさん。お気遣いありがとうございます」

 

 鼻を啜りながら振り返ったジューザスの視線の先には、柔和な眼差しを丸い縁眼鏡の奥に湛えた初老の男性が立つ。背後に秘書のフェイリスを控えさせた彼は、今回ジューザスをこの中央医学研究学会に呼んだ張本人であり、この学会の会長である男だ。

 ロンゾヴェルと呼ばれた彼は、心配した様子でジューザスに「今日はもうゆっくりお休みになってください」と告げた。

 

「ジューザスさんが提供してくださいました情報は、様々な病の治療法や新薬の開発の手がかりとなりそうです。本当にありがたい」

 

 ロンゾヴェルは目を細めてそう言うと、再び心配した眼差しをジューザスへ向ける。

 

「ですから、わざわざこちらがお呼びした事で体調を崩されたなんてことでは申し訳ない」

 

「あぁ、いや、大丈夫ですよ。別に体調は普通ですので。おそらく今のは、どこかで誰かが私の噂をしていたんじゃないかと」

 

 自分を心配するロンゾヴェルに、ジューザスはそう苦笑しながら答える。何となく心当たりがあるのが、彼の苦笑いの理由だった。

 

「噂するような知り合いの心当たりが多いので……」

 

「ははは、そうなんですか? しかしまぁ、気をつけるに越した事は無いですのでね」

 

「そうですね。じゃあこの後は、仰るとおりゆっくり体を休めようと思います」

 

 そう答えながら、ジューザスはちらりと時計の針に視線を向ける。もう直ぐユーリたちと約束をした時間だと、それを確認した彼は再び顔を上げた。

 

「では私はこれで失礼します」

 

「えぇ」

 

 ロンゾヴェルに深く頭を下げ、ジューザスは踵を返す。彼は当然この後休む気など無く、ユーリたちとの約束の為に足を進めた。

 

 

 

 

 約束の時間となり、ジューザスが先ほどジュラードたちと別れた場所まで足を運ぶと、そこにはもう既に彼らの姿があった。

 

 

「あ、ジューザス! 久しぶりだな!」

 

 ジューザスの姿を見つけて真っ先にそう声をかけてきたのは、相変わらず”あの姿”のままのローズだ。それに対してジューザスは少し申し訳ない気持ちになりながら、「久しぶり」と返しつつそちらへと近づいた。

 

「あぁ、本当にウネもいるんだね。アーリィも……なんだか皆、懐かしいね」

 

 本当に懐かしそうに目を細めてそう再会を喜ぶジューザスに、ローズも笑顔で「だな」と頷く。

 かつては敵対し、互いに命を懸けてそれぞれに信じる道を目指して進んでいた彼らだが、二度目の”審判の日”を迎えた今は和解し、お互いの心にわだかまりはない。だからこその笑顔での再会だった。

 

「きゅいぃ~」

 

「あ、なんだい? 君ははじめましてだね」

 

 先にユーリと共に顔を合わせていたジュラードとは違い、今回がジューザスと初顔合わせのうさこは、興味津々といった様子でジュラードの頭の上から彼に手を振っていた。

 そんなうさこに笑顔を返しながらジューザスは、「私はジューザスと言うんだ」と律儀に自分の紹介をする。ちゃんと自分にも自己紹介してくれたのが嬉しいのか、うさこはテンション高くジュラードの頭の上でぶるぶる震えて喜んだ。

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