旧時代の遺産 31
宿屋の前でキョロキョロしながらも何かすごい満足、というか満腹そうな顔をしたローズやウネ、それにモログッズを大量に抱えるアーリィたちの様子を見て、ジュラードたちは彼女たちが今まで何をしていたかを即座に把握した。
そうして生暖かい目で彼女たちを見つめながら、ジュラードたちは声をかける。
「おーい、ローズ!」
「!? あ、ユーリ! ジュラード!」
ユーリが大声でローズを呼ぶと、彼女は笑顔で手を振ってそちらへと駆け寄る。アーリィやウネもそれに続いて、ジュラードたちの元へとやって来た。
「ようローズ、俺らがいない間に随分と美味いもん食ったりして楽しんだようだな」
「なっ! そ、そんなことしてないぞ! ほほほ 、本当にだ! 食べてない、美味しいものなんて全然食べてないぞ! そんな、お前たちが頑張ってる間にそんな暢気なことするわけが……」
ユーリの鋭い指摘にドキッとしたローズは、あからさまに動揺しながらそう言葉を返す。
ジュラードたちが危険な中でリリンの病気を治す手ががりを手に入れるために頑張っていたというのに、自分たちは楽しく名物料理を堪能していたなんて、ばれたら怒られるとローズは考えているのだろう。
白を切ろうとするローズに、ユーリはさらにこう告げた。
「ローズ、口の周り食ったもんで汚れてる」
「え! 嘘、よく拭いたと思ったのに!」
「ほぉ……つまりはやっぱりたらふく美味いもん食ってたってわけだな?」
「はっ!」
口の周りをごしごし拭きながら、『しまった!』みたいな顔をするローズに、ユーリはやはり生暖かい視線を送る。そんな視線で彼に無言で見つめられたローズは、ひどく気まずそうな様子で「ごめん……」と呟いた。
「いや、いいよ、素直に自供したしな。何食ったかは知らねぇけど、美味かったか?」
「……サンドワーム焼きを食べて……すごく美味しかったです……」
「きゅうう~!」
うな垂れながら白状するローズの感想に、彼女に抱きかかえられたうさこが同意するかのように鳴く。いや、うさこは肉は嫌いなので食べていないはずなのだが。
「まぁいいよ、どうせお前らだけじゃ楽しく観光してんだろうな~って、こっちもそう予想してたし。 なぁ、ジュラード?」
「そうだな……」
モロの頭部を模した帽子を誇らしげに被っているアーリィや、何かお土産が入ってそうな紙袋の荷物が増えたウネの姿を見ながら、ジュラードはユーリの問いに頷いた。
そしてユーリたちが、今までローズたちが何をしていたかを理解すると、今度はローズの方がユーリたちに疑問を返す。
「あれ、ところでマヤとイリスはどうしたんだ?」
姿が見えない二人について、ローズはそう疑問を問う。それに対して、ジュラードは「実は……」と事情の説明を始めた。
「えっと、つまりもう一度建物の中に進入する必要がある、と……」
ジュラードやユーリから事情を聞き終え、ローズは理解した事を確認する ようにそう言う。ユーリは「そういうことです」と、ローズの理解に対して首を縦に振った。
「今度はジューザスが協力してくれるっぽいから、まぁなんとか何じゃねぇかって思うんだけど」
「でも、大丈夫かな……マヤたち、まだ建物の中にいるんだよね? 二人の事が心配……」
たった二人で敵陣の中に残されたような状況のマヤたちのことを心配して、そうアーリィが不安げな様子で呟く。
それについてはジュラードたちも心配だったが、今の状態のイリスは普通に歩いても目立つし、今は身を潜めて大人しくしているのが最善ではあるとも理解していたので、大丈夫であることを祈る以外に選択肢はなかった。
「確かにマヤたちのことは心配だが……でも、二人ともすごくしっかりしているし大丈夫だと思いたい」
ジュラードがそう言うと、意外にもローズも前向きな考えでいるらしく、「そうだな」と彼の言葉に同意するように頷いた。
「マヤとイリスなら大丈夫だろう」
「お、意外だねローズ君。お前の事だし、マヤのことが心配で居ても立ってもいられなくなるんじゃねぇかって思ったのに」
ユーリがそうどこかからかうような口ぶりでローズに言うと、ローズは「マヤのこと、信じてるからな」と当然のように答える。
「そりゃあ、少しは心配だけどな」
「さいで。なるほどな、ラブラブな分だけ信頼も厚いってわけだなー」
「なっ! か、からかうなよ、ユーリ!」
怒ったように自分を睨みつけるローズに、ユーリは笑いながら「はいはい、すみません」と返す。その何か適当なユーリの態度にローズは不満を感じたが、彼は「とにかく」と話を進めた。
「今度は私たちも侵入するってことだよな?」
「まぁ、マヤはそこんとこ詳しくは話してなかったけど、多分そうだろうな」
「しかしそうするとかなりの人数になるけど、本当にそれで大丈夫だろうか?」
ジュラードがそう心配を呟くと、なんとも言えないユーリは「どうだろうな」としか答えられない。それはローズも同じで、彼女は「その部分は、ジューザスがどこまで私たちに協力してくれるかが鍵だな」と言った。
「しかしジューザスか……少し懐かしいな」
「え? お前、ジューザスとそんな面識あったっけ?」
懐かしそうな様子を見せローズに、ユーリがそう問いかける。するとローズは「私も結構世話になったんだよ」と答えた。
「ほら、”こう”なってしまってからな……マヤと私がどうしたら元に戻れるかを、彼にも色々考えてもらったりしたんだよ」
「あー……そうだったんだ」
答えたローズは、苦い笑みを浮かべながら「ま、結局いい案は思いつかなかったんだけどな」と言う。
「でも、彼も私やマヤのことを気にかけてくれてね」
「あー……だってお前がそうなったの、あいつにも原因あるもんな。そりゃあいつも気にするよ」
「ははは……」




