旧時代の遺産 28
『都合が悪ければ殺ってしまえ』な思考に染まりきっているユーリとイリスは、ジュラードの心配などまるで気づかないままに進入者の気配を探ってゆっくりとそれに接近していく。
やがて二人の歩みは止まり、顔を見合わせた彼らはそれぞれに通路を挟んで左右の本棚の陰にまた身を隠した。そうして二人は進入者が通路を進んでくるのを待つ。
「っ……」
ジュラードが冷や汗だらだらで見守る中、薄暗い通路を通って保管庫内を進んでいた進入者が、ついにユーリとイリスが待ち伏せをする場所に差し掛かった。そして完全に暗殺者モードな目付きの二人が、ついに動く。
それはジュラードの目には一瞬の出来事のように見えた。二人の動くタイミングや隙の無い動きは完璧なもので、無駄の無い手際だったのでそう見えたのかもしれない。だがやはり二人は相手を抹殺するつもりで行動したのだと、二人のその無駄の無い連携からわかった。
まずユーリが相手が自分の潜む場所を通り過ぎたと同時に飛び出し、相手を背後から羽交い絞めにする。ユーリが相手の両腕を捻り上げて抵抗を最小限に抑えて口を塞ぐと、止め担当のイリスが飛び出して握り締めた短剣の切っ先を正確に相手の心臓目掛けて突き出して……
「……あれ?」
イリスの握った短剣が進入者の服を突き破って急所を貫くその直前、何故かイリスの動きが停止する。そんなイリスの様子にユーリが「何やってんだ、のろま!」と罵倒すると、イリスは「ちょっと待って」と何故かひどく動揺した 表情となった。
「んだよ、お前さっさと殺んねぇと……」
「だって、この人……ねぇ、あなたってもしかして……」
短剣は急所に突きつけたまま、イリスはユーリに自由を奪われてもごもごと何かを訴える進入者の顔をまじまじ見つめる。ユーリも思わず進入者の顔を覗き込んで、そして数秒後に彼は驚愕に目を見開いた。
「お、お前、なんでここに!?」
「ユーリ、大きい声は……っ!」
思わず叫んでしまったユーリを注意したのはジュラードで、彼はなにやら二人の様子がおかしいことに気づいてゆっくりと彼らに近づく。マヤも共に二人と進入者に近づき、そして彼女も「あ、どっかで見たことある顔だと思ったら」と言って進入者を指差した。
「あなた、ジューザスじゃない」
マヤが驚いた顔でそう言うとおり、ユーリに羽交い絞めにされてイリスに凶器を突きつけられて怯えている人物は、なんとまた自分たちに縁の深い人物であるジューザスだったのだ。
「なんでお前、ここにいるんだよ」
ユーリがジューザスを拘束したまま同じ問いを繰り返すと、ジュラードが「とりあえず口塞ぐの、止めてあげないと喋れないと思う」と言う。ユーリは納得し、一先ず若干涙目の彼を解放してあげた。
「はぁっ! ……ほ、本当にびっくりした……殺されるかと……」
ユーリが解放してくれた事でやっと喋れるようになったジューザスは、本当に心の底から安堵した表情でそう言う。そして彼は改めて驚いた顔をして、ユーリやジュラードたちを見た。
「えぇっと……あの、もしかして君は……」
ジューザスはまずユーリの顔をまじまじ見て、「ユーリ君?」と聞く。ユーリは不機嫌そうな顔をして、「ユーリでいい」と彼に返した。
「君とか呼ばれるの、なんかむかつくから」
「あぁ、ごめん……で、えーっと……」
次にジューザスの視線は、ジュラードの肩に乗っているマヤに向く。
「マヤ……だよね?」
「えぇ、そうよ。久しぶりね」
マヤは突如再会したジューザスに特に驚く様子も無く、冷静に返事を返す。ジューザスも「ひ、久しぶりだね」と戸惑いながら言葉を返し、彼の視線はマヤを肩に乗せるジュラードに移った。
「えぇっと……まさか君 、ローズ君じゃないよね?」
「何故俺があいつなんだ」
「あ、あぁ……そうだよね。いや、マヤを肩に乗せてるから『まさか』って思って……」
「そんな……大体ローズは女だし、いくらマヤが傍にいるからって俺と間違える方が不思議だ」
「え? あぁ、まだ女性なんだ……あぁ、そうだよね、マヤもそのサイズだし……なるほどね」
「?」
完全にジューザスとは初対面のジュラードは、マヤたちと彼とのやり取りや彼の発言から、彼らは知り合いなんだなと理解する。
となると、イリスもやはりジューザスと知り合いなのだろうか?
ジュラードがそう疑問を思うと、ジューザスは今度はイリスと向き合った。
「えっと……君とも何処かで会ったような気がするけど……っていうか角生えてるけど、君は何者だい? あ、出来ればもうその、物騒な武器を仕舞ってくれるとすごく嬉しいんだけど……」
自分にまだ短剣を突きつけてるイリスに対してそうジューザスが声をかける。するとイリスは心底不機嫌そうな様子でジューザスを睨みつけた。
「はじめまして、私はただのとある孤児院で働く者です」
「え? あ、あぁ……は、はじめまして?」
ジューザス嫌いがまだ直っていないイリスは、このまま白を切りとおすことにしたようだが、戸惑うジューザスが返事をした直後にユーリが「そいつ、レイリス。今はイリスって名乗ってるけど」と正体をばらしてしまう。そしてそれを聞き、ジューザスは「え!?」とまた驚きの反応を見せた。
「レイリス?! ひ、久しぶりじゃないか! 君って私に何も言わずにどこか行ってしまったから、本当に心配して……いや、それよりなんか角生えてるけど、これはこういうおしゃれかい?!」
しばらく見ない間に随分人外な見た目になってしまったイリスを見て、ジューザスは懐かしさに興奮しながらも疑問を返す。イリスはますます機嫌悪そうな顔で、ここでやっと短剣を下ろしながら「おしゃれな訳ないじゃん」と呟いた。
「あぁ、そうだよね。一体どうしたんだい? いや、他にも君たちには聞きたいことあるけど……でもそれ以上になんだか懐かしいね、色々お話をしたい気分……」
「色々話したいのはこっちも一緒だけど、でも悪いけど今はそんな暇ないのよね」




