旧時代の遺産 25
ジュラードが驚愕に震える声で、イリスに何かを伝えようとする。やがてユーリもイリスに視線を向け、「うわっ」と驚いた顔を見せた。
「おいイリス、お前頭から角でてんぞ?」
「えぇ?!」
ユーリの指摘に驚いたイリスが自分の頭に手をやると、確かに隠していたはずの角がいつの間にかひょっこり生えてしまっていた。そしてイリスの顔色が悪くなる。
「な、なんで……?」
焦りで蒼白な顔色になったイリスに、マヤがちょっと困った様子でこう声をかける。
「おそらく夢魔の能力の使いすぎで体力消耗しすぎて、変身術の維持が出来なくなったのね……このままだと尻尾とかもそのうちに出るわよ」
「そ、それは困るよっ。……どうしよう、角が出ちゃったら普通にも街中歩けない……」
困り果てるイリスに、マヤは「取りあえずは、本を探しましょう」と言った。
「これ以上変身が解けないように、もう夢魔の力は使わないほうがいいかもね」
「おい、それじゃ脱出はどうすんだよ」
マヤの意見に、ユーリがそう不安を問う。確かにこれ以上イリスの力に頼れないならば、ここからの脱出はどうするというのか。
「だからそれはさっきも言ったじゃん。ここ出てくくらいなら、どーにでもなるって。それより今は本を見つけることが先でしょ? 時間はあまり無いんだから、手分けしてちゃっちゃと目的の医術書見つけるわよ」
マヤの言葉は正しいので、仕方なくイリスも角有りのままで今は行 動することにする。
そうしてジュラードたちはそれぞれに手分けして、リリンの病気を治す為の治療法が記述された旧時代の医術書を探し始めた。
「う~ん……旧時代の本……無いな、こっちはどれも『審判の日』以後の本や資料ばかりだ」
長身の身を屈めて棚の一番下まで確認をするジュラードは、そう言って溜息を吐く。彼の後ろではユーリが別の本棚を確認し、「こっちも古い本はねぇな」と言った。
「マヤ、イリス、そっちはどうだ?」
ジュラードが立ち上がると、ユーリが少し離れた場所を探すマヤたちに声をかけるのが聞える。そして直後に「こっちに古い本、あるみたい」と答えたマヤの声が聞えた。
「本当か?!」
思わず声の音量を上げて返事をしてしまったジュラードは、振り返ってマヤとイリスが調べている本棚の方へと向かう。ユーリも彼と共にそちらへと行き、二人はイリスとマヤが調べている本棚へ視線を向けた。
「……確かにここの本は古ぃな」
「あぁ。……すごくボロボロの本も多いな」
マヤたちが見つけた本棚には、かなり古い本が多く収納されている。中には背表紙が無かったり、ほとんど壊れかけた本なども多く収められている。
そしてその棚はガラス戸付きで、ガラス戸には鍵がかかっていたようだが、その鍵は何故か普通に開けられていた。
「……どうやって鍵、開けたんだ?」
気になる疑問をジュラードが独り言のように問うと、本の背表紙を見ながら目的のものを探しているイリスが「あぁ、なんか適当に弄ったら開いちゃったんだ」と答える。ジュラードはそれで『あぁ、そうなのかー』と納得したが、ユーリは胡散臭そうな目でイリスを見た。
「適当に、ねぇ……どうせ悪い技術で開けたんだろ?」
「いいじゃん、そんなのはもうどうでもさ。それよりマヤ、この本はどう?」
イリスは一冊の古い本を棚から取り出し、それをマヤに見せる。
「なになに? 『キウツウ スンシャ』……旧時代のもののようだけど、でもこれはごく普通の医術書ね。多分もっと、ゲシュを対象とした本があるはずなんだけど……」
ヤッサ語で書かれた本の題名を読み、マヤはそう考える表情で呟く。しかし彼女は「まぁ一応これも見てみましょう 」と言った。
「なら、私は他にも本探してみるね。これはじゃあ……はい」
イリスはそう言うと、今手にしている本を傍にいたジュラードに手渡す。そして彼は再び本を探し始めた。
「それじゃアタシは本の中をチェックするわね。ジュラード、本のページめくって」
「え? あ、あぁ……」
サイズ的な問題で本をめくれないマヤは、ジュラードをこき使うことにしたようである。彼女に命じられるがままに、ジュラードはボロボロの本のページを慎重にめくった。
マヤがジュラードと共に本をチェックしている間、イリスはマヤが今言ったような、ゲシュを対象にした本を探すことにする。
「えーっと……ゲシュか……」
「おいイリス、どうだ? ありそうか? 」
イリスが本を探していると、ユーリがそう彼に声をかけてくる。イリスは視線はそのままに、ユーリに「あんたも探して」と言った。
「そう言われてもさぁ……なーんかこの辺の本ってどれも俺の読めねぇ字ばっかなんだもん」
「……そうだった、馬鹿だから読めないんだっけ」
「なんだとー!」
旧時代の本は、多くが共通語ではなく大陸独自の言語で書かれた本だったり、あるいは現代ではもう廃れたその他の言語だったりと、その言語はバラバラであるのだ。
中には主に魔法の呪文などに使う精霊語で書かれたような本もあり、それなりに色んな言語が読めるイリスも読めないようなものもいくつかある。
「う~ん……でも、私も共通語以外じゃヤッサ語とグアルド語と、あとは精霊語の一部系統しか読めないんだよね……」
「それだけわかりゃ十分なんじゃね?」
「そうかな? ま、そのわかる範囲で本が見つかるといいんだけどね……」
呟きながら、イリスは棚の上の方に視線を向ける。そして彼は「ん?」と、何か気になる反応を返した。
「お!? なんかそれっぽい本見つけたか?」
ユーリがイリスに問うと、イリスは「うん」と返事をする。が、彼は精一杯背伸びをして手を伸ばしながら、「でも手が届かない……」と悲しそうに言った。




