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神化論 after  作者: ユズリ
旧時代の遺産
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旧時代の遺産 24

「もしかしたら力使えるの、あと一回くらいかもしれない……」

 

「えぇっ……」

 

「馬鹿、ユーリ……っ」

 

 ピンチな発言をするイリスに驚いたユーリが思わず叫びかけ、ジュラードが慌てて彼の口を手で塞ぐ。ユーリは即座に口を閉ざしたが、しかし驚いた表情はそのままに、ジュラードの手をどけてイリスに「ヤバすぎんだろ、それ」と小声で囁いた。

 

「あと一回って、ここ出るのに最低でももう一回受付の前通るんだぞ?」

 

 ユーリの言うとおり、入るときのように堂々と正面から出て行くのならば、保管庫の前の警備員を誤魔化すのを合わせて、最低でもあと二回はイリスの幻術が必要だ。

 

「う~ん……まぁ最悪出て行くだけなら、そこらの窓開けて出てくって手もあるからね。窓の鍵なんて、中からなら自由に開けられるしさ」

 

 マヤがそう腕を組みながら言うと、イリスは「じゃあとりあえずはあの警備員をどうにかすればいいんだね」と、マヤに確認するように言う。マヤは少し考え、「そうね」と彼に返事をした。

 

「うげぇ~……本当にそれでいいのかよ……俺、超不安」

 

 マヤの返事を聞いたユーリが、苦い顔でそう正直な感想を呟く。だが不安でもここまで来たからにはもう、勢い任せで突っ走るしかないのだ。

 

「いいからもう覚悟を決めて……ほら、行くよ」

 

 イリスはそう言って立ち上がり、身を隠していた階段の下から出る。仕方ないのでユーリも渋々彼の後を追い、ジュラードもその後に続いて歩き始めた。

 

 

「……あぁ、オズワード先生。どうかなさいましたか?」

 

 イリスが扉の前まで行くと、警備員の一人がイリスへそう声をかける。今まで本当にイリスを別人と見ているのか正直半信半疑だったジュラードは、警備員のこの反応で本当に彼らは術にかかっているのだと実感した。

 

「何か資料庫に用事でも?」

 

 どうやらイリスが見せている幻覚の人物はオズワードという名前らしい。だがそんなことはどうでもいいので、イリスは警備員にこう声をかけた。

 

「少し中に用事があるので入りたいのですが」

 

 さすがに喋ったらまずいんじゃないかとユーリとジュラードが肝を冷やす中、イリスはやはり堂々とした態度で警備員にそう話す。するとやはり警備員たちにはイリスはオズワードなる人物としか認識されてないようで、イリスの声などに不信感を示す事も無くこう返事を返した。

 

「用ですか。わかりました、では入室許可証を見せていただけますか?」

 

「……」

 

 イリスがイリスと認識されていないのは問題無いが、どうやら部屋に入るには入室許可証なるものが必要となるらしい。

 イリスはどうしたもんかと黙り込み、マヤも『やっべぇなー』と彼の服のポケットに忍び込みながら思った。

 

「……先生、どうしたのですか?」

 

「あ、いや……」

 

 ユーリとジュラードも冷や冷やしながら見守る中、イリスは「実は許可証を部屋に置いてきてしまって」と答える。

 

「後で持ってくるので、入れてもらう事は出来ませんか?」

 

「それは出来ません。すみませんが、規則ですので……」

 

 イリスの言葉に、警備員はそう申し訳なさそうな顔で返事をする。

 全然怪しまれてはいないが、どうにもこのままではその『入室許可証』というものを手に入れなくては中に入れそうも無い。

 

(……仕方ない、一か八かだ)

 

 もうそろそろこの二人に幻覚を見せ続けることも限界に近い。それにいつ他の人がここを通るかもわからない。

 焦ったイリスは新たな手段に打って出た。

 イリスはおもむろに警備員たちに近づき、何かを彼らへむけて囁く。

 

『眠りなさい』

 

 そう小さく呟いたイリスの言葉が、警備員の二人の耳に暗示として吸い込まれる。

 直後に男たちの瞼は落ち、彼らは急激な睡魔によってその場に倒れて寝息を立て始めた。

 

「……あれ、寝ちまったぞ?」

 

 警備員たちが急に寝てしまったことに、ユーリたちは疑問を抱く。するとマヤが「イリスの仕業よね」と言い、彼の服のポケットから顔を覗かせた。

 

「そう、私の仕業」

 

「はぁ? どういうことだ?」

 

「夢魔の能力でしょ。相手を寝かせて、とってもいやらしい夢を見せるのよね~」

 

「そういうこと。それよりもあまり長くは寝かせらんないから、早く中に入ろう」

 

 夢魔の能力で無理矢理警備員たちを眠りに引きずり込んだイリスは、かなり体力を消耗した様子で荒く息を吐きながら、ジュラードたちにそう言う。

 ジュラードたちは警備員をその場に残し、イリスの背に続いて資料保管庫の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 ちなみにその頃のローズたちはと言うと。

 

「美味しい……やっぱりここの『サンドワーム焼き』は美味しい……コショウで下味を付けて、さらに焼いた上から特性にんにくソースをかけて味わう歯ごたえのあるサンドワームの肉はジューシーで味わい深い美食ね。この地域に来たら絶対に食べておくべきと、情報に仕入れたとおりの美味しさだわ……」

 

「可愛いモログッズもいっぱいあった。モロの顔を模したこの帽子が今一番のお気に入り。幸せ……」

 

「お前たち、自由なのはいいけど……あまり自由に行動しすぎないでくれよ? ……しかし、確かにこのサンドワーム焼きは美味しいな……このソースはどう やって作るんだろう……」

 

「きゅううぅ~」

 

 案の定、自由に観光を楽しんでいた。

 

 

 

 やっとのことで資料保管庫に侵入を果たしたジュラードたちは、中に誰かいないかを確認しながら慎重に足を進める。

 古今東西の医学資料や旧時代の医学書・研究書等を保管しているこの資料保管庫はかなりの広さがあり、その大きさは国のありとあらゆる蔵書を保管している国家図書館ほどではないにしろ、学校などに設置されている一般的な大規模図書館ほどの大きさはあるように思える。

 見上げる大きさの棚が室内中に並ぶ中で、ジュラードたちはその棚に身を隠しつつ、忍び足で人の気配を探りながら奥へ奥へと進んでいった。

 

 

「……人の気配は無いな」

 

 奥へと進んでしばらく、人の気配は感じないと判断したユーリがそう口を開く。イリスもそれに同意したようで、「そうだね」と返事をした。

 

「人がいないならこそこそする必要はねぇな。ちゃっちゃと目的のもんを見つけて……」

 

「あああぁぁっ!」

 

 ユーリが目的とする医学書を探そうと周囲を見渡すと、ジュラードが突然大声を出す。驚いたユーリが「馬鹿、大声出すなよ!」と彼を見ながら注意をすると、ジュラードはそんな注意など耳に入ってない様子で、目を見開いてイリスを見つめていた。

 ジュラードは驚愕しながらイリスを指差し、彼にこう言う。

 

「せせせ、先生っ……つの、つのが……」


「へ?」

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