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神化論 after  作者: ユズリ
旧時代の遺産
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旧時代の遺産 15

(落ち着いて見極めれば……大丈夫だ、避けれる)

 

 巨大な敵や、そこから繰り出される圧倒的な破壊力は恐怖だ。正直、今こうしてサンドワームと対峙することはジュラードにとってとても怖い事だった。

 だが怖くても立ち向かわなくてはならない。自分に目的がある限り、それに向かって進まなくてはいけないから。

 

(逃げるなんて出来ない……だからっ!)

 

 一人で旅をしていた頃は、どうしようもなく怖い敵を前に逃げた事は何度もあった。命が一番大事だから。

 しかし今は一人じゃないことが、ジュラードにとって大きな勇気となる。一人ではないから立ち向かえると、そう思いながらジュラードは反撃の機会を窺う。そしてそれは直ぐに訪れた。

 

 辺りが一瞬青白い光に包まれる。

 灼熱の太陽に照らされた砂漠の地に、零度の空気が漂う。そしてアーリィの正面に浮かんだ巨大な円形の魔法陣から、無数の氷が矢となり発射された。

 

 アーリィが生んだ氷が怒涛の勢いでサンドワームを襲い、サンドワームの動きが鈍る。その怯んだ隙を付き、ジュラードも畳み掛けるように大剣を振るった。

 

「うぉおおおぁああああああぁあっ!」

 

 恐怖と、そして立ち向かわなくてはならないという思いの中で、ジュラードはサンドワームに向かう。

 凶器を備えたもう片方の前足を叩き切る様に断ち切り、さらに勢いで甲殻に守られた胴へ刃の切っ先を突き入れた。

 硬い鎧に大きく割れ目が生じ、漆黒の刃は吸い込まれるようにサンドワームの内部へつき立てられる。白く濁った体液が噴出し、それをまともに浴びながらジュラードは刃を奥へと押し入れた。

 

 

 

「ジュラード!」

 

 ジュラードが砂に沈んだサンドワームの体から白く汚れた剣を引き抜いていると、ローズがマヤと共に彼の元にやって来る。

 

「ジュラード、怪我は無いか?」

 

「……あぁ。平気だ、大きな怪我は無い」

 

 ローズが彼の傍で足を止めてそう問うと、ジュラードは自分が大丈夫なことを正直に彼女に伝えた。

 

「そうか、よかった……」

 

「……でもベトベトだ」

 

 ローズ同様にサンドワームの体液をまともに浴びて大変アレなことになっているジュラードは、苦笑しながら「お前も酷いな」とローズに言う。ローズも苦い笑みを彼に返して、「どうしような、これ」と言った。

 

「ホント、どうするのよ! そんなエロい格好で! モザイク必須よ!」

 

「だからえろいって、どうして……あ」

 

 何故マヤが『エロい』と繰り返すのかよくわかっていなかったローズだが、自分じゃなくてジュラードの白い液塗れ姿を見て、ついに鈍感な彼女もその意味に気がつく。そして彼女は「わああぁぁー!」と、マヤの言う意味に気付けてしまったことの恥ずかしさで意味不明な絶叫をした。

 

「ど、どうしたローズ」

 

「……あんたのいやらしい白濁塗れの猥褻顔見て、自分の状況に気づいたのよ」

 

 ジュラードの疑問に、マヤは蹲って叫ぶローズを見ながらそう答える。ジュラードはまだよくわかってないようで、「いやらしい?」と首を傾げた。

 

 

 

 幸い白濁塗れにならずに済んだユーリたちは、ジュラードたちより一足先にモロやイリスたちの元へと戻る。

 

「おいイリス、俺の活躍見てたかー!」

 

 いつかどっかで聞いたような台詞を言いながら、ユーリは待機していたイリスの元にやって来る。するとイリスはイリスで、こんな返事をユーリに返した。

 

「それより見て、これ! うさこって耳で歩けるんだよ! すごくない?!」

 

 何か興奮した様子でそう報告するイリスの指差す先には、岩で日陰になった場所を逆さまになりながら耳で歩行してみせるうさこの姿があった。

 確かにそれは凄い。意味がわからないが、凄い光景には違いない。アーリィも目を輝かせて「凄い!」と言っている。だからとにかく凄いことに違いは無いのだが……。

 

「……お前、俺らが頑張ってる間に何ほのぼの遊んでんの? 俺の活躍見てねぇとか何なの? 死にてぇの?」

 

 皆が必死で戦っている間にうさこの面白技を見て楽しんでいたらしいイリスに、ユーリが軽くキレそうな表情を向けながらそう問う。するとイリスは「遊んでたわけじゃないよ」と、心外だと言わんばかりの顔で反論した。

 

「うさこがあまりにも魔物に怯えるから、少しでも怖くなくしてあげようと思って、うさこの気を紛らわす為にうさこと遊んでたんだよ」

 

「結局遊んでんじゃねぇか!」

 

 確かに結局遊んでいたらしいイリスは、ユーリに突っ込まれて「まぁ、そうだね」と遊んでいた事は認め た。

 

「でもさ、確かにうさこと遊んでたけど、遊んでてもあんた以外が活躍してるとこはちゃんと私も見てたよ? ジュラードとかかっこよかったよね」

 

「てめぇ、そこは俺の活躍も見とけよ! 暇だったんだから、せめて俺の勇姿を目に焼き付けとけ!」

 

「ごめん、それは何か生理的に無理。目が受け付けない」

 

「なんだとー! つか目が受け付けないって何だよ! どういう状況だ!」

 

 ユーリとイリスが騒がしく漫才してると、白濁塗れの体を拭いてきたジュラードたちも彼らの元にやって来る。


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