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神化論 after  作者: ユズリ
旧時代の遺産
156/494

旧時代の遺産 7

「ヒスさんが言ってたんだけど、”禍憑き”になるのはどうもゲシュの人だけみたいなの」

 

「え……」

 

 自身がまさにその”ゲシュ”なので、レイチェルはアゲハの言葉に少し驚いた表情を見せる。

 

「私が確認しに行った人もね、最初は話してくれなかったんだけど、自分はゲシュだって話してくれてね……ヒスさんの言うとおり、今のところ”禍憑き”になる人はゲシュばかりみたい」

 

「そ、そうなんだ……なんかちょっと不安だな」

 

 レイチェルがそう正直に呟くと、アゲハは彼を気遣うように「あ、レイチェルは大丈夫だよ!」と言う。レイチェルが不思議そうな眼差しを向けると、アゲハはヒスから聞いたもう一つの情報を彼に伝えた。

 

「どうもね、ゲシュっていう条件以外にも”禍憑き”になる可能性がある条件ってのがあってね」

 

「条件……」

 

「うん。それが”禍憑き”になった人がいる地域周辺では、環境の異常な変化や新しい魔物の出現とかが起きてるんだって」

 

「そうなんだ……」

 

 アゲハはオムライスをもりもり食べながら、「ここら辺でそういう環境の変化とかの話は聞かないでしょ?」とレイチェルに聞く。

 

「うん……聞かないなぁ」

 

「でしょ? だからレイチェルはここにいる分には大丈夫だよ」

 

「そっか。アゲハさんの話聞いて安心しました」

 

 安堵した様子となったレイチェルを見て、アゲハも微笑む。だが直ぐに彼女の表情は真剣なものに変わった。

 

「でも、確かに”禍憑き”の患者が出た周辺はおかしいことが起きてるよ。私が行ったところもね、見たこと無い木のお化けみたいなでっかい魔物が徘徊しててさぁ」

 

 道中で遭遇した未知の魔物を思い出しながら、アゲハは表情を曇らせて「本当に怖かったよ、あれ」と呟く。

 

「ホント、私あの人に助けてもらわなきゃ……」

 

「あの人?」

 

 アゲハは何かを言いかけ、急にハッとした様子となって「な、なんでもないよ!」と首を横に振る。何故かそんな妙な反応を見せる彼女の顔は赤かった。

 

「? アゲハさん、どうしたの? なんか顔、赤いよ?」

 

「え?! そ、そんなことないって! そ、それよりアーリィさんたちいないなら、私も帰ってくるまでお店手伝おうっかな! 」

 

 話題を逸らすようにそう言ったアゲハに、レイチェルは微笑んで「それ、助かるなぁ」と言う。ミレイも相変わらず万華鏡に夢中になりながらも、「あげはおねえちゃんといっしょ!」と喜んだ。

 

「うん、一緒に頑張るよ! ところでユーリさんたち、もう結構な時間どこかに行っちゃってるんだよね?」

 

「あ、うん。そうだね……出て行って二週間くらいかな」

 

 レイチェルがそう問いに答えると、アゲハは「そんなにいないんだねー」と驚いたように目を丸くする。

 

「お店、二人がいなくて大丈夫?」

 

「あー……まぁ、今のところは問題無いよ。でも普通の商品は在庫仕入れられるから別に平気なんだけど、魔法薬はちょっと不安だな……」

 

 アーリィしか作れない魔法薬は、在庫を大量に作り置きしていってくれたとはいえ不安を感じる。よく売れるものだから尚更だ。

 

「一ヶ月分くらい大量に作ってってくれたらしいけどね……いつ帰ってくるのかわからないから、不安だな」

 

「さ、さすがに一ヶ月もお店空けないよ、二人も」

 

 苦笑しながら不安を呟くレイチェルに、アゲハは「まぁ、そのうちに帰ってくるよね」と言う。レイチェルは「だといいんだけどね」と言うしかなかった。

 

 


◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 転送して二日目の夜にはモルガド皇国を抜け、ジュラードたちは国境を通りレイマーニャ国へと入る。その後彼らはこの国の大都市の一つ、国の西中央のクノーにある中央医学研究学会の施設を目指した。

 アサド大陸は砂漠が多いため、設置困難等の理由で鉄道等の他の大陸で普及している移動の手段が少ない。近年は砂漠の移動が出来る小型の乗り物の開発が行われているが、しかし未だにそれは実用化に至っていないのが現状だ。

 その為現代は各地に点在する砂漠を渡るには徒歩か、あるいはモロと呼ばれる大型動物に乗って移動する伝統的な方法のどちらかで、日の照りつける砂漠を進んでいくしか方法は無かった。

 

 

 

「俺はもういい加減歩くのは嫌なんだけどなー」

 

 レイマーニャに入ってから一晩体を休めた村から出発の朝、暑いのが苦手と自称するユーリが、うんざりした顔でそう皆に言う。

 彼は今現在一番権力を持っているであろう人物のマヤへ向けて、懇願するようにこうも続けた。

 

「何か乗り物で移動しよう! その方が時間短縮にもなるし!」

 

 もういっそウネの空間転移の術で移動したいくらいの心境のユーリは、小さいのに大きな権力を持つマヤ様にそう意見する。しかしマヤはユーリにこう返事を返した。

 

「乗り物で移動つったって、砂漠は乗り物で移動できないわよ」

 

「うぅ……」

 

 マヤは肩を落とすユーリから、今日も日差しが眩しい空へ視線を向ける。

 

「昔は砂漠も大きな空飛ぶ乗り物で飛んで移動出来たんだけどねー……早く飛行出来る乗り物を開発してもらいたいわね」

 

「えぇ、空飛んで移動? マジでそれ出来たら最高じゃねぇか」

 

 マヤの呟きに、ますますユーリの表情が落ち込む。かつては可能だったとしても、現代の遅れた文明では不可能な空の移動は夢物語で、そんな夢物語は現実の辛さを再認識させるものでしかなかった。

 

「いいじゃん、徒歩でも。羽の無い人類は地面を進むものだよ。私は歩く方がいいと思うけど」

 

 出発前から疲れてるユーリにイリスがそう声をかけると、ユーリは「お前は高いのがこえぇだけだろ」と突っ込む。結局仲がいいのか悪いのかよくわからない二人はそのまま睨み合い、ジュラードたちは二人をほっといて話し始めた。

 

「でも砂漠の移動が続くのは確かに辛いよな。正直私も結構疲労が溜まっているよ」

 

 ローズがそう言うと、ジュラードは何処か遠くを指差しながら「なら、あのモコモコしてるのに乗るか?」と言う。ローズたちが彼が指差す方へ視線を向けると、その先には彼の言うとおりの毛がモコモコした生き物が人を乗せて砂漠を渡ろうとする姿が見えた。

 

「も、モコモコっ!」

 

「うわ、びっくりした!」

 

 モコモコした生き物を見た瞬間に急に『モコモコ』と元気よく叫んだアーリィに、ジュラードは目を丸くして驚く。一方でアーリィの目はキラキラと期待と好奇心に輝いていた。

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