旧時代の遺産 2
砂漠の移動中は、運がよかったのか魔物に出くわす事はなかった。魔物に襲われる事の無いまま、夕刻近くの時間にジュラードたちはオアシスの町へ辿り着く。
途中何度か休憩を挟みながら移動したのだが、それでも半日移動しっぱなしだった為に、ジュラードたちは疲労を抱えた状態で町の中へと入った。
「今日はもうここで休んでいこう。移動はまた明日だな」
町の中に入り、背負った大剣を背負い直しながらローズがそう皆に告げる。ハルファスの力が復活した彼女は、疲労はしていたがそれでも比較的元気な足取りで皆を先導するように歩いていた。そんな彼女が歩きながら探すのは、今日体を休ませる為の宿だ。
ローズがキョロキョロと街の中を見渡しながら進み、ジュラードが宿の看板を見つけてローズに教える。そうして皆は一先ず宿へ向かった。
無事に部屋を借りることが出来たので、ジュラードたちは各々補充するのもを補充しつつ自由行動を取る事にした。
「それじゃ私とマヤで道具屋に行ってくるな。ユーリとジュラードは食料を頼む」
ローズはそう言うと、ジュラードに買出しの為の資金を手渡す。そうして彼女はアーリィを見た。
「えーっと……アーリィは疲れてるみたいだから、部屋で休んでるか?」
表情から疲れが滲み出ているアーリィに、ローズがそう声をかける。するとアーリィは「うん」と頷いた。
「じゃあ私もこの子と宿にいるよ。何かあって変身解けたら怖いし、大人しくしてる 」
イリスがそう言うと、ローズは納得した様子で「わかった」と頷く。となると残りはウネだが、色んな意味で一人にしとくと不安になる彼女は「私はちょっと一人で町を見て歩いてくる」と、一番不安になる言葉をローズたちに告げた。
「ちょ、待てウネ、一人はまずいと思う!」
「俺もそう思う……色んな意味でマズイ」
慌てるローズとジュラードの意見に、ウネは心外だといった顔で二人を見る。そして彼女は「大丈夫」と言った。
「魔族とばれてもまずいのだから、大人しくしているわ。静かに街の中を見学するから大丈夫」
「う~ん……不安だ」
正直に不安であることを告げるローズだが、ウネは一人で勝手に行く気満々なオーラを静かに放ち、これ以上は制止の言葉をかけられなくなる。ローズは渋々彼女の一人での行動を了承した。
「まぁいいや……じゃあそういうことで皆、一先ず解散ということにしよう」
ローズのその一言で、皆は各自行動を取る為に解散となった。
「アーリィ、何か買ってきて欲しいものある? 何でも言って、俺の金で買ってくるから」
解散後、ジュラードと共に旅用の保存食を買いに向かうことになったユーリは、半日不機嫌だったアーリィの機嫌をなんとか直させる為に彼女にそう話しかける。
しかし絶壁な胸を気にするアーリィの怒りはなかなか収まらず、今もユーリに声をかけられた彼女はギロっとユーリを睨んでこう返事をした。
「じゃあ大きな胸買ってきて」
「うぐ……っ」
随分と人らしい感情表現をするようになったアーリィだが、人らしくなりすぎて嫉妬もリアルなことになっているようだった。
全く機嫌を直す気配の無いアーリィに、ユーリは深く溜息を吐く。自業自得なので一向に機嫌を直さないアーリィを怒れないし、どうしたらいいのかと彼は悩んだ。
「大きな胸は買ってこれません……」
「……なら何もいらない。嘘つき」
「うぅ、語尾に『嘘つき』付けるの止めて、地味にダメージ大きいから……」
「嘘つき……もういい、ユーリなんて巨乳になっちゃえ」
「えぇ、なにその悪態! 斬新すぎる上に地味に怖い!」
結局アーリィは頬を膨らませたまま、機嫌を直すことなく部屋に引きこもっていってしまう。
残されたユーリはがっくり肩を落とし、そんな彼にジュラードは声をかけるべきか迷ったが、しかしさっさと買い物に行きたいので結局「ユーリ、行こう」と言った。
「あぁ、うん……あ、ちょっと待ってジュラード」
ユーリはがっくり肩を落としたまま、ジュラードを待たせてイリスに近づく。
「おい、イリス」
二部屋取った内の、アーリィが入っていった部屋とは別の部屋に入ろうとしていたイリスは足を止め、ユーリの呼びかけに「なに?」と返事をした。
するとユーリはジュラードとうさこが見守る中、涙目でイリスにこんな頼みごとをする。
「頼むイリス、俺が買い物行ってる間にアーリィの機嫌直しといてくれ!」
「はぁ!?」
ついに他人任せに出たユーリを呆れた視線で眺めながら、ジュラードは様子を見守る。
ユーリに突然無茶振りな頼みをされたイリスは、ひどく困惑した様子でユーリを見返した。
「な、なにそれ……そんなこと急に言われても……」
「頼むよ! なんか俺が何言っても、今のアーリィはまともに話聞いてくれなさそうだし! だからお前がさり気なくフォローしといてくれ!」
「えぇー……」
無茶振りが過ぎるユーリの頼みにイリスが迷っていると、ユーリは本当に必死な様子で「俺たち友達だろ!」とか言う。
「……いつの間に私とあなたの関係は友達に昇格したの? 初耳なんだけど……」
「んだよ、嫌なのか?」
「嫌とかじゃなくて……い、嫌ではないですけど」
「まぁ細けぇことは気にすんな! とにかく頼むって! どうせ暇なんだし、いいじゃねぇか! お願いします~!」
あまりにもユーリが必死なので、イリスは仕方なく「わかったよ」と返事をする。途端にユーリは笑顔になった。
「マジ?! サンキュー!」
「……でもあまり期待しないでね。あとさぁ、少しはあなたも反省しなよね? たとえフォローがうまくいっても、その後あなたがまた同じ行動を繰り返すと台無しになるしさぁ」
イリスまでもがユーリに呆れた視線を向けると、ユーリは反省しているのかそうなのか微妙な表情で「おぉ」と頷いた。
「反省します。つかさ、小さい胸もマジで俺好きだよ? 個性なんだしさ、小さいのは可愛いよな」
「そんなことをそんな真っ直ぐな目で私に言われても困るってば……」
「大体俺が大きい胸がどーのこーの言うのはさ、別にそれが好きって訳じゃなくて、色んな大きさがあるからどれも素晴らしいということを言いたい訳でね。つまりアーリィの小さな胸も、大きな胸が世の中にあるからこそ個性として光るという事を強く言いたいの。お前も男ならわかるだろ?」
「いや、だから知らない……」
真顔でよくわからない訴えをするユーリにイリスは溜息を吐く。そうして彼は部屋に入り、ユーリは祈る思いでジュラードと共に買い物へ向かった。




