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神化論 after  作者: ユズリ
再びの旅立ち
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再びの旅立ち 7

「だせぇな、性悪。ガキに嫌われたからって、そうやってずっといじけてる気かよ」

 

 ユーリのその挑発的な言葉に、イリスは僅かに顔を上げる。魔物と変わった彼の蒼い瞳が、ユーリを鋭く睨んでいた。しかしユーリは気にせずに言葉を続ける。

 

「ここにいれないって思うんならさっさと出てけよ。なにこんなとこで座ってんだ、うぜぇ奴だな。構ってちゃんかよ」

 

「だって、それは……ユエが……ユエに何も言わずには出て行けない……」

 

 戸惑うようにそう言い返すイリスに、ユーリもまた「んなのいい訳だろ」と返事する。イリスはまた図星を付かれたように沈黙した。

 

「本当は出て行きたくねぇんだろ? だから女々しくこんなとこで座ってんだ、てめぇは 」

 

「ちょっとあなた、さっきからイリスに好き勝手言って何なんです?! むかつくのでブチ殺しますよ?!」

 

「うるせぇな、あんたは黙ってろよ。俺はこいつと話してんだよ」

 

 キレてるラプラに同じくらいキレながら強く言い返し、ユーリはもう一度イリスに「俺の言葉が間違ってるってんなら、さっさと出て行けよ」と言った。

 

「ガキもてめぇみてぇなバケモンと一緒にいたくねぇだろ。ユエには俺から話しといてやるからよ」

 

「……」

 

 ユーリの言葉はきつかったが、でも正しいとイリスは思った。

 本当は、自分はここにいたいのだ。だから出て行けない。行く勇気が出ない。

 

「……どうすんだよ、性悪。行くのか行かねぇのかさっさと決めろよ 」

 

「……私、は……」

 

 迷うように、イリスは途切れ途切れに言葉を呟く。人では無くなった手を強く握り締め、彼はか細く呟いた。

 

「ここに居たい……どこにも行きたくは無い」

 

 正直な想いは、それだった。

 ユエや子どもたちと一緒にいたい。それが今の自分の幸せだから。

 

「……そうか」

 

 イリスの答えを聞き、ユーリは静かにそう返事をする。そして彼は突然イリスの腕を掴み、彼を無理矢理立たせた。

 

「ちょっ、な、なに!?」

 

「うるせぇ、いいから来い」

 

 ユーリは乱暴にイリスをどこかへ連れて行こうとする。戸惑うイリスや、「どこに行くんですか!」と怒鳴るラプラを無視し、ユーリはイリスを外へ引っ張っていった。

 

 

 

 

 ユーリがイリスを無理矢理連れてきたのは、外で遊ぶ子どもたちのところだった。

 いつも通り無邪気に遊ぶギースたち幼い子どもたち、そしてそれを見守るエリとトウマ。日常がそこにはあり、イリスはその日常とかけ離れた自分を改めて自覚させられ体を強張らせた。

 

「ユーリ、一体何のつもり……」

 

「てめぇは黙ってついて来い」

 

 怯えるように、あるいは警戒するように自分に話しかけるイリスに、ユーリは説明はせずに子どもたちへ近づいていく。そして遊んでいた子どもたちがユーリたちの存在に気づくと、彼は立ち止まった。

 

 子どもたちの視線がユーリと、そして彼が連れてきたイリスに集まる。動きを止めた彼らは、今まで笑顔で遊んでいたその表情を一変させて、畏怖の眼差しをイリスに向けた。

 

「っ……」

 

 一度は耐え切れずに逃げ出した子どもたちの視線に、イリスはまた逃げたい気持ちになるも、しかし今はユーリがそれを許さない。

 そしてユーリは怯えたり、あるいは警戒した眼差しを向けてくる子どもたちに向けてこう口を開いた。

 

「おいお前ら、こいつが怖いらしいな」

 

「ゆ、ユーリ!」

 

 いきなり何を言い出すのかと、イリスはユーリを睨みながら抗議めいた声を出す。だがユーリはイリスを完全に無視し、子どもたちに話しかけた。

 

「確かにこいつはこのとおり、見た目完全にバケモンだ。怖がるのも無理ねぇよ。けどな、中身は何も変わってねぇからな。見た目はこんなんでも、中身はお前らにとって優しい先生だ。人間なんだよ」

 

 意外な言葉を続けられ、イリスの抵抗は完全に止まる。イリスは驚いた眼差しでユーリを見つめ、そしてそれは子どもたちも同様だった。

 

「さっきはこいつ自身が自分の姿にビビって上手く説明できなかったんだろうな。だから仕方ねぇ、お前らが怖がるのも当然だ。でもそれで怖がられて、こいつは相当ショック受けてた。ふつー魔物が人に嫌われてショック受けるか? 受けねぇだろ」

 

 子どもたちに拒まれて落ち込むイリスを見て自分が苛立ったのは、イリスの態度に対してではなかった。そうではなくて、イリスを拒んだ子どもたちに、かつてアーリィを拒んだ自分を重ね、そんな態度を一度でも取ってしまった自分自身にユーリは苛立ちを感じたのだ。

 だからだろう、自分のかつての過ちを正したい気持ちでユーリは子どもたちに語りかける。

 

「ちゃんとこいつには、お前らに嫌われたく無いって心があるんだ。確かに見た目はこの通り怖い魔物だろうけど……人の心を持ってる。以前と何も変わらずな」

 

「ユーリ……」

 

 まさか彼からそんな言葉を言われるとは思わず、イリスは今度はどう反応していいのかを迷う。

 彼に励まされているのならば礼を言うべきだろうか、と、そう想ったイリスが口を開きかけた時、それより先にギースが叫んだ。

 

「嘘だ! そいつに人の心なんてねぇよ!」

 

「!?」

 

 イリスの視線が叫んだ少年へと向かう。そこには敵意さえ見える強い拒絶 の感情があった。

 そしてギースはイリスを睨みつけ、言葉を叫ぶ。

 

「だって俺見たんだ! そいつが人殺すところ! マーダーみたいに、マーダーを平気な顔して殺しまくってた! そんな奴に人の心なんてねぇよ!」

 

 以前に孤児院がマーダーに襲撃された時のトラウマと恐怖がイリスを拒ませているのだろう。

 幼い少年の目には、自分を守るためだったとはいえ、残虐にマーダーを殺すイリスの姿も同じ恐怖として記憶されていた。

 

「人殺しだもん! そいつも魔物とかわんねーバケモノだよ!」

 

「っ……!」

 

 ギースの責める言葉が、容赦なくイリスの心を抉る。

 何も反論できず立ち尽くすイリスの代わりに、ユーリが再び口を開いた。

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