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神化論 after  作者: ユズリ
もう一人の探求者
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もう一人の探求者 12

「私もこんな体ですけど、いつか赤ちゃんとか産めるようになりますかね~」

 

「え!? あ、それは……えっと……」

 

 カナリティアの何気ない呟きに、ヒスは動揺した様子で口ごもる。カナリティアは彼のその様子に気づいて、「あ、ごめんなさい」と慌てて謝った。

 

「ヒスを困らせるつもりはなかったんです。そもそも私の場合、相手もいませんでした」

 

「相手ならいるじゃないか。ほら、カイナが」

 

「……そうですね、カイナが赤ちゃん産めるならお付き合いを真剣に考えますよ」

 

「それは……うん、難しいんじゃないか?」

 

「そうですか? 意外と気合で産めませんかね、彼」

 

 カナリティアの真顔の呟きに、カイナの恋はまだまだ険しい道のりだなとヒスは彼に同情した。

 

「今二人目がお腹にいるから会いには行けないけど、二人目が生まれて落ち着いたら顔を出しに来ると手紙に書いてあるぞ」

 

 ヒスが同封されていた手紙を見ながらそうカナリティアに言うと、カナリティアは「それは楽しみです」と顔を綻ばせる。

 

「赤ちゃんの名前、リュート君でしたよね? ふふっ、せめて抱っこできるように今日からちょっと腕を鍛えますか。あぁ、でもシャルルを使って抱っこするという手もありますね」

 

「二人目は男の子か女の子か、どっちなんだろうなぁ」

 

 ヒスは呟きながら、再び届いた荷物の資料の方に視線を向ける。カナリティアがそれに気づき、「結局それは何なんですか?」とヒスに聞いた。

 

「ん? あぁ、これはだから……あの病気について、ジューザスに何か知ってる事とか治療の手がかりになるような事とか無いか調べて結果を送ってもらったんだよ。あいつなら立場上、そういう情報を多く手に入れることが出来るからな」

 

「あの病気……”禍憑き”、ですね?」

 

 カナリティアの表情が真剣なものに変わる。ヒスは頷き、そしてジューザスから送られてきた資料を本格的に読み始めた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

「はぁ~……すごい美味しい……疲れなんて忘れる美味しさだ……」

 

「……そ、そうか」

 

 目の前でパクパク幸せそうにアップルパイを食べるローズを、ジュラードは引きつった表情で眺める。五分くらい前に注文し出てきたアップルパイは、物凄い速さでローズの胃袋に収められていき、そのスピードに彼は呆気に取られていた。

 マヤはちょっと隠れるような感じではいたが、相変わらずローズの胸に挟まって待機している。怖い顔で自分を警戒する彼女に、ジュラードはひどい居心地の悪さを感じた。だが気にしたら負けだろうと、気にしないように彼は努力する。

 

「お前は何か食べないのか? パイ、美味しいぞ」

 

「いや、俺は……甘いもの好きじゃないし……」

 

「そうか、それは勿体無いな……甘いもの食べると元気になるのに……もぐもぐ」

 

「……」

 

 ローズから話を聞く目的でジュラードが彼女と共に入ったお店は、ケーキやパイなどの甘いものの他に簡単な食事が出来る軽食のお店だったが、とりあえずジュラードはコーヒーを注文してローズが話をしてくれるのを待っていた。

 

 

「……うん、美味しかった。ご馳走様でした」

 

「……満足したなら、いい加減パンドラについて話してくれ」

 

 律儀にローズが食べ終わるまで待っていたジュラードは、彼女が食べ終わるのを確認してからそう口を開く。ローズはハッとした顔つきで「そうだったな」と言った。

 

「パンドラの話だったな。えっと……」

 

「ちょっと待ってローズ、本当にこいつにその話をしても大丈夫なのかまだ確認してないわよ」

 

 ローズがジュラードの疑問に答えようとした時、マヤが鋭い声でそう指摘して説明を遮る。

 

「どういうことだ、マヤ」

 

 ローズが困惑した様子でマヤにそう聞くと、マヤは「当然でしょ」と言う。

 

「こいつが情報を与えても大丈夫な人物か、その判断がまだアタシには出来ていないわ。こちらの情報を与えるならまず、あいつが何者で何故パンドラを探しているかくらいは知る必要があるわよ」

 

 ジュラードを色んな意味で敵視しているマヤは、ローズのように無条件に情報を与えようとはしない。それが普通の反応でもあるとジュラードは思ったが、しかし今はそれじゃ都合が悪い。彼は苦い顔でマヤを見た。

 

「何者って……ジュラードはパンドラを探しているのだし、探求者だろう? パンドラを探している理由は、何か叶えたい望みがあるとかそういう理由じゃないのか?」

 

 ジュラードが口を開く前に、ローズがそうマヤに話しかける。そういえばいつの間にか自分は彼女に名前のみで呼ばれているなと、そんなことを思いながらジュラードは「そうだ」と小さく呟いた。しかしマヤがそんな説明で納得してくれるはずもない。

 

「そんなのわかってるわよ! アタシが知りたいのはもっと詳しい情報! 例えばパンドラを手にして叶えた望みって何なのかとか!」

 

「それはプライベートなことだし、話したくないんじゃないか?」

 

「プライベートもクソもないわよ! 今はアタシたちの方が立場上なんだから、アタシたちから情報引き出したきゃ自分の話をしなさい!」

 

 マヤの言い分に、ローズは「いつの間に立場が上になったんだ……」と小さく呟く。その言葉にはジュラードも同感だったが、どうにもマヤが今この場を取り仕切っているようなので、彼女にはジュラードも逆らえない状況になっていた。

 ジュラードは自分の話をするかどうかを少し考えた後、思い切ってこう口を開く。

 

「……ここの支払いは俺がするから話をしてくれ、じゃダメか?」

 

「ダメ」

 

 即答でドきっぱり拒否するマヤに、ジュラードは肩を落とす。だがこれでへこたれてはいけない。

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