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神化論 after  作者: ユズリ
光の裏側
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光の裏側 19

 ユエの悲鳴のような声が夜の闇に響く。遠くでそれを目撃していたジュラードも、「せんせぇ!」と叫んだ。

 しかし炎に飲まれたイリスは、先ほどのアーリィから受けた吹雪の魔法を一瞬で無効化したように、体を包む灼熱をも無効化してみせる。

 イリスの体の炎が消え、ユエはもう一度「イリス!」と名を叫びながら彼に駆け寄った。

 

「イリス! あたしが……あたしがわかるの?!」

 

 自分を狙ったラプラの炎から庇うように動いたイリスの行動から、ユエは一筋の希望を胸に抱きつつそうイリスへ声をかける。

 イリスはユエが近づいてくると、視線を上げて彼女をその瞳にもう一度映した。

 

「イリス!」

 

「っ……ア、あァ……」

 

 ユエを見つめ、イリスは苦しげな様子を見せる。そしてユエが彼に手を伸ばし触れようとした瞬間、イリスはそれから逃れるように素早く踵を返して空へと逃げた。

 

「イリス! 待って!」

 

 イリスはユエを拒むように、彼女が自分に近づけないようラプラの頭上に飛行しながら待機する。そうして彼はユエを無視するように、攻撃対象を再びユーリたちとしてラプラを操り魔法を繰り出した。

 

「イリスっ!」

 

 

 

 

 ユエを庇ったイリスの行動を離れた場所から見ていたローズは、ひどく驚いた様子でマヤに語りかけた。

 

「なぁマヤ、今彼は……ユエさんを庇ったよな?」

 

 傍で彼女のその言葉を聞いていたジュラードも、それに同意するように「俺にもそう見えた」と 呟く。二人の意見を聞き、マヤはこう呟いた。

 

「もしかしたら彼はまだ、完全には自我を失っていないのかもしれないわ」

 

「え!?」

 

 驚きの声を発したのはジュラードだ。ローズも驚愕した様子で、マヤに「それは本当なのか?」と聞いた。

 

「確信があるわけじゃないけど、でも今の彼の行動はアタシにはそうとしか思えないのよ」

 

「……確かに、そうかもしれないな……」

 

 マヤの呟きに、ローズも同意する。ジュラードはそんな二人に、「じゃああの人は完全に魔物になったわけじゃないんだな?!」と聞いた。

 

「まだ自分を見失っていないなら……そういうことだよな?!」

 

 ジュラードは祈るような気持ちで、二人にそれを尋ねる。ローズはどう判断していいのか迷うようにマヤを見て、「そうなんだろうか?」と彼女に聞いた。

 

「……そうね、今の時点では。でもすごく危うい状態なのは間違いないわ。かろうじて残ってる人の心が、ユエを傷付けることを回避したんだろうけど、それ以外は全てを敵とみなしているのは間違いない。いつユエのこともわからなくなり、完全に魔物化するか……」

 

「そうなる前に自我を取りもどすことは出来ないのか? ウネの話では、それさえ可能ならば人を襲う事はしなくなるって……」

 

 ローズの問いに、マヤは難しい表情でこう答える。

 

「……彼を正気に戻せる保証は無いけど、やってみたいことがあるの」

 

「やってみたいこと?」

 

 マヤの返事は自分の問いに対する答えではなかったが、ローズは「何をする気なんだ?」と興味を持ったように聞いた。ジュラードも真剣な様子でマヤを見る。二人の視線が集まる中で、マヤはこんなことを二人に告げた。

 

「おそらくイリスを暴走させた原因はあのマナよ。いえ、きっかけとなったものというのが正しいかも……とにかくアタシはあのマナが原因な気がするの」

 

「あのマナって……ローズやお前が気にしてるヤツか?」

 

 ジュラードの疑問に、ロースが「マヤを感じるあのマナだな」と答える。マヤは「それ」と頷いた。

 

「彼の体から絶えず溢れてる異質なマナ……あれはこの辺りにも漂うマナと同じなのよ。彼はきっと、ずっと無意識にあのマナを体に溜め込んでいたんでしょう。そして異変が起きた……それが原因ならば彼の体からあのマナを回収すれば、あるいは……」

 

「回収……? どうやって……」

 

 マヤは問うジュラードに、「とにかくやってみるわ」と答えた。

 

「方法は、まずはあの暴走する彼の動きを止める。その後ローズを通して、アタシが彼が体に溜め込んだ異常なマナを回収するわ」

 

「ま、マヤが?!」

 

「だから回収ってどうやって?!」

 

 ローズ、それにジュラードにほぼ同時に問われ、マヤは説明が面倒くさいのか「いいからアタシを信じなさい!」と言う。

 

「あのマナはおそらく……”アタシ”なのよ。そうなら回収出来るわ。っていうか、もしかしたらこれでアタシも……」

 

 何かを言いかけたマヤはそこで言葉を途切れさせ、ローズに向き直ってこう別の言葉を彼女へ向ける。

 

「ローズ、出来る?! 彼に近づくの! 出来れば接触出来るくらいに近づいてくれるといいんだけど!」

 

「せ、接触? やってみるけど……でも、今の自分に出来るかどうか……」

 

 自信無い様子のローズの返事に、マヤは「とにかくアタシの言うとおりにしてくれたら大丈夫」と告げる。

 

「で、安全に接触する為に彼の動きを止められればいいんだけど……」

 

「動きなんて止められそうも無いぞ? 今なんて空飛んでいるし……」

 

 月の逆光を受けながら夜空に浮かぶイリスを見上げながら、ジュラードが呟く。マヤもそれには困った様子で「そうね」と言った。

 

「ユーリたちに頼んでみるのはどうだ? と言うか、それをやるなら早くあいつらにそう伝えないと」

 

 ユーリたちは今もラプラを救う為、イリスを何とか倒そうと戦いを続けている。もしかしたらイリスを助けられるかもしれないのならば、手遅れになる前にそれを伝えなくてはいけない。

 

「そんじゃアタシが飛んでちょっとあいつらに伝えてくるわ。伝え終わったらいつでも行動出来るよう、ローズも準備しておいてね」

 

「わ、わかった……」

 

 ローズは頷きながら、マヤを心配そうな眼差しで見つめる。

 

「気をつけて、マヤ」

 

「ダイジョブダイジョブ。あ、それよりローズ、行く前に確認したい事があったわ」

 

 マヤの言葉に、ローズは不思議そうに目を丸くする。

 

「え 、なんだ?」

 

 ローズが聞くと、マヤは彼女へこう聞いた。

 

「ローズは夢魔の彼、どう見える?」

 

「ど、どうって?」

 

 首を傾げるローズに、マヤはひどく真剣な様子で「男に見える? 女に見える?」と聞いた。

 

「え……女の人には見えないけど……」

 

「そ。じゃあ誘惑されちゃうことは無いわね、一安心よ」

 

 マヤはそれだけ確認すると、本当に安心した様子でユーリたちの元へ飛んでいく。その彼女の後姿に、彼女の確認に驚いたローズはハッとした様子で「待って、お前はどう見えてるんだ!」と叫んが、マヤは何も言わずに遠ざかって行った。

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