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神化論 after  作者: ユズリ
光の裏側
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光の裏側 5

 ジューザスの話では新種と思われていた魔物の多くは、絶滅したと思われていた旧時代の魔物で、それらは元となる魔物から変異して生まれ、再び復活した可能性が高いというものだった。

 

「復活、ですか……なんだか不思議な話ですね。そんなことがあるなんて」

 

「まだ断定はされて無いけど、そういう可能性が高いらしいよ。実際そうだろうと思うし」

 

 ジューザスの話を聞き、カナリティアは「そうなんですか」と頷く。そして彼女はこう疑問を続けた。

 

「でも、じゃあなんで復活した魔物は絶滅してたんでしょうか?」

 

 カナリティアのこの疑問に、ジューザスは「そこがまた興味深い部分でね」と返事する。

 

「興味深い?」

 

「実は今回の調査で復活したと思われる魔物の絶滅の理由は、どれもマナが関係していたんだよ」

 

「マナが……?」

 

 ヒスも興味深げな様子で、ジューザスの説明に耳を傾ける。ジューザスは二人にこんな話を続けた。

 

「実は今回復活した魔物は、マナを体内に吸収することで生命力を得たりして、周囲に十分な量のマナが無くては存在出来ないようなものばかりだったんだ」

 

「つまり一度絶滅した理由は、”審判の日”でマナが減ったから生存が難しくなった」

 

「じゃあ今回復活した理由は、マナがまた満ち始めたから……?」

 

 ヒス、カナリティアの言葉に頷き、ジューザスは少し真剣な面持ちでこう口を開く。

 

「マナが満ちる事で環境などに何らかの変化が起きるだろうということは私も考えていたよ。しかしその変化が思ったより早い……とくに魔物に関しては、それが顕著だ。今話したような過去に存在していたタイプの魔物は、満たされ始めたマナに影響されて変異することで復活したんだろう」

 

「魔物は適応能力が高いが、高すぎて環境の変化にも影響されやすいらしいからな。ちょっと環境が変化すればその変化を自分たちの体に合うよう受け入れて、結果自分そのものを変えちまうって例も稀じゃないんだよな」

 

 そこまでジューザスの説明を聞き、ヒスは「で、これは”禍憑き”と直接関係あるのか?」と問う。ジューザスは少し困った笑みをヒスに返した。

 

「直接関係あるかは、まだなんとも……もう少し詳細に調べてみないとね。でも今回変異した魔物を調べて、もう一つわかったことがあってね」

 

 声のトーンを意味ありげに落としたジューザスに、ヒスは「なんだ?」と問う。

 ジューザスはまた別の資料をヒスとカナリティアに見せた。

 

「これは復活した魔物の内の一匹の詳細な解析結果なんだけど、この個体からは異質なマナが多く検出されたんだ」

 

「異質なマナ、ですか……それって何です?」

 

「うん。所謂変質化したマナ……解析した場所では詳しくはわからないと言っていたけど、この個体から検出された分に関しては、ミスラのマナに性質が非常に酷似した未知のマナと判定されたよ。でも私にはこのマナの分析パターンに見覚えがあってね」

 

 ジューザスの言葉に、ヒスとカナリティアは揃って怪訝そうな顔をする。ジューザスはこう続けた。

 

「不可解なマナだけど、私はこのマナと同じ解析パターンを示すマナを知っているんだ」

 

「それは……?」

 

 問いかけるヒスに、ジューザスは意外な答えを返す。

 

「マヤさ」

 

「え?」

 

「マヤ、さん……?」

 

 唐突な名を答えとして返され、ヒスとカナリティアは戸惑う反応をジューザスに返す。ジューザスの説明はこう続いた。

 

「不可解なマナはかつてのもう一人の”神”、彼女を構成していたマナに良く似ているんだよ。ヴァイゼスに保管していた資料に、マヤを構成していたマナの解析情報があってね。だからピンときたんだ」

 

「それは……一体どういうことなんだ?」

 

 ジュ ーザスの不可解な話に、ヒスは正直な反応を返す。するとジューザスは二人にこう言った。

 

「これは私の考えなんだけど、あの二度目の”審判の日”の時にウィッチを解放したマヤの力が、思わぬ形で自然に影響を及ぼしているんじゃないかと……そう思うんだよね」

 

「な……んだ、それは。思わぬ影響って……」

 

「だから魔物の変異とか”禍憑き”とか……そういうのだよ。ウィッチと融合し彼をウルズのマナとして星に還す役割を担っていたマヤは、彼女を成すマナの性質を科学者によって変化させられていただろう? 極論なんだけど、そのマナがウィッチと共に星に還ったことで四元素のマナの生成システムに異変が生じ、これらの異変が起きているんじゃないかって私は思ったんだよね。そしてその異常が起きたシステムによって、この星にまた満ち始めた四元素のマナの一部がおかしくなって、魔物の変異の発生や人体に影響が及んでいるんじゃないかってさ」

 

 ジューザスはそう説明した後、「エルミラもそういう可能性があるかもって、以前ちょっと私にそういう心配を漏らしていたし」と呟く。

 

「どうだろう? 今の私の推測……可能性、高いと思わない?」

 

 ジューザスに問われ、ヒスは苦い顔をしながらも「まぁ、そうだな」と頷く。

 

「お前自身が確認した証拠もあるしな……」

 

 異質なマナがマヤを構成していたマナと酷似していると、そうジューザス自身が確認して導き出した推測だ。百パーセント今の話が正しいとは断定できないが、今世界で起きている異変に最低限関係している事は間違いないだろう。

 

「となると”禍憑き”は、やはり治療には手間がかかりそうな病気だということだな。お前の話から、どうも妙なマナが関係してるってことがわかったし」

 

「そうですね……マナが人体に及ぼす影響については、私たちもあまり詳しくありませんからね」

 

 カナリティアの言うとおり、現代医学ではマナが人体に対してどのような影響を及ぼすか研究は皆無なのでほとんどわかっていない。旧時代ならばおそらく研究が進んでいただろうが、あいにく旧時代の情報は医学関係も含め、最初の『審判の日』の混乱の影響で多くが失われてしまっていた。

 

「ジューザス、お前なら調べられないか? マナの影響についてをもっと詳しく」

 

 ヒスがそうジューザスに聞くと、ジューザスはそう言われる事を予想していたようで、「少し時間がかかるかもしれないけど、出来ない事も無いよ」とヒスに答える。

 

「異質なマナの正確な正体も含め、”禍憑き”について原因と治療に繋がりそうな事を調べて、また君に情報として送るよ」

 

「そうか……悪いな、ジューザス」

 

 申し訳なさそうな顔をするヒスに、ジューザスは笑って「かまわないよ」と返す。

 

「君は私の数少ない友人の一人だからね。その友人の頼みなら、出来る限りの事はするさ」

 

「なんだそれは。随分自虐的だな」

 

 どう反応したらいいのか微妙なジューザスの言葉に、ヒスは苦笑を返す。ジューザスは「でも残念ながら事実だからね」と、こっちも苦笑しながら答えた。

 

「さて、用件はそれだけなんだ。あ、この資料は置いてくよ。何か役に立てばいいんだけど」


 ジューザスはそう言うと立ち上がり、そんな彼を見てヒスは「もう行くのか?」と少し驚いた顔で聞く。ジューザスが「あぁ」と返事をすると、ヒスは「もう少しゆっくりしていけばいいのに」と言った。

 

「そうですよ、ジューザス……顔を会わせたのは久しぶりなんですから」

 

 カナリティアにもそう言われ、ジューザスは少し困ったような笑みを二人に返す。

 

「私もそうしたいのはやまやまだけどね。まだ仕事が残っているし、それに……」

 

「あぁ、奥さんと子どものとこに早く帰りたい、か?」

 

「ま 、そんなところ」

 

 ジューザスの返事に、ヒスは笑って「ならしょうがないな」と言った。

 

 玄関先で、ヒスたちはジューザスを見送ることにする。

 

「んじゃ奥さんによろしく伝えてくれ」

 

「赤ちゃんに会うの、楽しみにしてますって言っといてくださいね」

 

 ヒスとカナリティアの言葉に、ジューザスは笑顔で「わかった」と返事する。そうして彼は二人に別れを告げ、背を向けて足早に診療所を後にした。

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇


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