光の裏側 3
「”禍憑き”がマナが体に合わないアレルギー反応的なものなら、むしろ回復魔法なんてかけたら悪化しそうな気がしたけど……」
マヤの疑問に続けて、アーリィがそう呟く。一応ローズたちにも先ほど彼女たちがレイヴンと話した推測については説明したので、ローズも「そうだな」とアーリィの呟きに同意するように頷いた。
「魔法はマナと魔力で発動するものだからな。回復魔法なんておもいっきり相手の体にマナを送り込むようなものだぞ、アレ」
「そうね、ローズの言うとおり。……ってことはマナアレルギーが原因ってわけじゃないのかしら?」
せっかく答えが見つかりそうだったのに、新たな謎が明確に現れたことでまた振り出しに戻ったような気持ちになる。ジュラードはマヤの疑問を呟く声を聞きながら、大きく溜息を吐いた。
「でもよぉ、魔法で良くなったんならそれが治療法じゃねぇの? それで解決でもいい気がすんだけど、俺」
ユーリのその意見はジュラードも密かに思ったことだったが、しかし先ほどイリスが言っていたように病気が治ったわけではない。あくまで病状を緩和する効果があるとわかっただけだ。その事をふまえ、マヤは首を横に振った。
「おそらくは、回復は一時的なものよ。病状が深刻化するたびに誰かが回復魔法かけるのは大変だし、そもそも魔法が使える人間はかなーり限られてる。この方法じゃ同じ病に苦しむ他の人たちを助けることは出来ないわ」
マヤの返事を聞いて、ユーリは苦い顔で黙り込む。確かにこれが治療法だと、それはそれで問題があった。
「回復術で病気が良くなるというのでしたら、イリスは問題ないのですけれどね。何故なら私がずっと傍に……」
「でも考えようによっては、やはり”禍憑き”はマナが関係した病だと見ることが出来ると思う」
ラプラのどうでもいい言葉を遮って、ウネがそう意見する。アーリィが「どういうこと?」と彼女に聞くと、ウネはこう答えた。
「毒を持って毒を制すじゃないけど……マナの力で症状が良くなったと考えると、回復の呪術で何か中和のような効果があったのかもしれない」
「んー……確かにそう考える事も出来るけど……とりあえず今確実に言えることは、回復魔法が病気にも何らかの効果があるってことね」
病気のことも魔法のこともよくわからないジュラードは、ただマヤたちの話に耳を傾けることしか出来ない。そんな自分に歯がゆさを感じながらも、しかし自分ひとりが焦っても何も解決はしないということも彼は理解している。
「……皆、すまない……」
自分が巻き込んだことにこれほど真剣に取り組んでくれるローズたちの姿を見て、ジュラードはぽつりとそう呟くように言う。彼の呟きに、皆の視線が集まった。
「厄介なことに巻き込んで……お前たちは何も関係ないのに……」
真摯に問題を解決してくれようとする皆の姿を見て、今更また申し訳ない気持ちが湧いて出てきたジュラードは、俯き加減にそう呟く言葉を述べる。そんな彼にローズは微笑んでこう告げた。
「関係なくはないよ。病気が世界各地の異変の一つなら、これはこの世界に生きる皆が解決しなきゃならない問題だろう」
ローズに続けて、マヤも「そうね」と頷く。
「それにこうやってマナを戻したことで異変が起きているなら、アタシにも責任はあるかもしれないし。この問題については、傍観者ではいられないわ」
元々責任感の強いマヤは、人一倍それを感じているのだろう。険しい表情でジュラードに言葉を返すマヤを見て、ローズはそう思った。
「みんな……」
ずっと一人で責任を背負い、他人に頼る事を含めて他人と関わる事を苦手としていたジュラードなので、自分に力を貸してくれるローズたちを前に彼は戸惑う。こういうとき、一体自分は彼らに何を言えばいいのか、それを彼は迷っていた。
やがて、きっとこれが正解なのだろうと、ジュラードは口を開く。
「……ありがとう」
思えばローズたちと出会ってから、自分は『ありがとう』を多く口にしてきた。昔はその一言が何処か気恥ずかしく、苦手としていたのに。
でもこの一言で自分の相手へもっとも伝えたい想いが簡単に伝わるのだ。口下手で長く喋るのが苦手な自分には、この『ありがとう』は一番簡単で必要な言葉に思えた。
「いいんだ、ジュラード。それに私たちは皆お前より年上なんだから、どんどん頼ってもらってかまわないんだぞ?」
「そうだな。ま、ローズはちょっと抜けてるとこあるから頼りになんねー時もあるけどな」
「な、そ、そんなことないだろ、ユーリ!」
「そうねぇ……」
「え、マヤ?!」
「正直私もそう思う」
「嘘だ、アーリィまで!」
仲間たちのひどい評価に、ローズは本気でショックを受けた様子で固まる。そんな彼女を見てユーリが笑うと、ジュラードも何となく釣られて笑みを零した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
午後の診療を終えたヒスの診療所に、一人の訪問者が訪れる。
両手に荷物を持ったその人物は、「御免ください」と診療所の玄関先で声をあげた。
「あれ……誰でしょう? 何か聞いたことある声ですけど……」
休憩の為の準備をしていたカナリティアは、お茶を用意する手を止めて玄関へ向かう。そして彼女は玄関を開けて、驚きの声を上げた。
「え、じゅ、ジューザス?!」
「やぁ、久しぶりだね」
不自然な髪色などを隠す為に目深に帽子を被って顔を隠していたが、三年程度では全く変わらない背格好から、カナリティアは訪問者が直ぐにジューザスだとわかった。
「はいこれ、おみやげ」
「へ?」
ジューザスは会っていきなりの玄関先で、カナリティアに持っていた荷物のうちの一つを手渡す。大きな袋に入ったそれをカナリティアは受け取りながら、「な、何ですか?」と戸惑う声をあげた。するとジューザスは帽子の下で笑顔を見せながらこう答える。
「だからお土産だよ。誰かのところにお邪魔する時は手土産を持参しないといけないって、大昔にマギに教わったからね。そうしないと追い出されても文句は言えないんだって」
「は、はぁ……」
よくわからないが頷いたカナリティアが受け取った袋を開けると、中にはどっさりと色んなお菓子が詰め込まれていた。




