光の裏側 2
ジュラードたちがレイヴンと話をしている頃、孤児院ではリリンの体調が急変したことで慌しくなっていた。
「きゅいぃぃー! きゅいぃー!」
ずっとリリンと遊んでいたうさこが、急に彼女の様子がおかしくなったのに気づき、急いでローズの元にそれを知らせになってきたのだ。そしてローズとユーリと少年たちがリリンの元に駆けつけると、彼女はベッドの上で意識を失ったようにぐったりし倒れていた。
「リリンちゃん!」
「おい、こりゃやべぇんじゃねーのか……?!」
リリンの容態の悪化に、それを見たローズとユーリの顔色が青ざめる。ギースとフォルトも泣きそうな顔で、「リリン!」と大切な家族の名を叫んだ。
そして直ぐに騒ぎに気づいたイリスが部屋に駆けつける。彼の後ろにはラプラもいた。
「どうしたの?」
「あ、それがリリンちゃんが大変なんだ!」
心配した様子でこちらにやって来たイリスに、ローズがそう言葉を返す。そしてイリスもぐったりして動かないリリンの姿を見ると、顔色を悪くさせて「リリン?!」とリリンの名を強く呼んだ。
「リリン、しっかり!」
「お姉ちゃん、私レイヴン先生呼んでくるね!」
騒ぎに駆けつけたエリがそう叫ぶと、イリスは「お願い!」と彼女に返事を返す。それを聞いてエリは急いで駆け出して行ったが、しかしレイヴンの診療所までは彼女の足で急いでも往復三十分以上はかかる。とにかく今は出来ることでリリンの命を繋げないと危険な状況だ。
「リリン! 大丈夫?! リリン!」
イリスが何度か大声で呼ぶも、リリンは蒼白な顔色で固く目を閉じたまま反応しない。脈と呼吸はあるが、しかし頼りないほどに弱いことに気づいて、イリスはどうしたらいいのかと迷った。
「リリンちゃん、しっかり……っ!」
「医者が来るまで持つのかよ、この子……」
不吉なユーリの呟きがイリスを焦らせる。だが自分には何も出来ない。何も……
「! そうだ、ラプラ!」
イリスは何か閃いた表情で、突然ラプラの名を呼ぶ。ラプラは少し驚きながら、「何でしょう?」と彼に返事をした。
イリスは藁にも縋る思いで、ラプラにこう頼みごとをする。
「彼女に……リリンに回復魔法をかけて!」
イリスのその頼みに、ラプラは「それはかまいませんが」と返事をするも、しかし困惑した表情を返した。
「けれども回復術は傷の治療が主な目的です。病気には効果はありませんと思いますが……」
「ううん、もしかしたら効果あるかもしれない! お願い、とにかくやってみてほしい!」
今朝ラプラに治癒術を使ってもらったことで自分の体調がよくなったことを思い出し、もしかしたらリリンにもそれが効くのでは無いかとイリスは考えたのだ。
イリスはもう一度ラプラに「お願い!」と強く言い、ラプラは「わかりました」と彼に頷いた。
「愛しいあなたの頼みですからね、断るはずありません。しかし私は治癒が専門と言うわけでは無いので、簡単な治癒術しか使えませんが」
「かまわない! 出来るものでいいから、リリンに回復術を使って!」
「了解いたしました、では……」
ラプラはリリンに向けて短いレイスタングを唱える。ラプラの手のひらから生まれた光は、蒼白な顔色で意識を失うリリンの体を包んだ。
「……これでよろしいですか?」
「一応もう少し続けてみて」
リリンの意識は戻らないので効いているのかいまいちわからず、イリスはラプラにもう一度治癒術を要求する。ラプラは「わかりました」と頷き、もう一度レイスタングを唱えた。
リリンの様子を不安げな様子で見ていたローズは、イリスに「効果あるのか?」と聞く。イリスはその問いに対し、正直に「わからない」と答えた。
「でも、もしかしたら……」
イリスは祈るような気持ちでそう答える。ローズやユーリたちも、同じ祈りで見守る事しか出来なかった。
エリから話を聞いて、レイヴンと共に急いで孤児院に戻ったジュラードたちだったが、彼らが孤児院に戻った時は既にリリンの体調は安定しつつあった。
相変わらず意識は無かったが、しかし倒れた当初よりは脈も呼吸もよほどしっかりしていて、レイヴンにも「今は安定しています」と言われてジュラードは思わずリリンのベッドの傍にへたり込む。
「よ、かった……」
そう呟いて俯くジュラードに、ローズは「本当に」と声をかける。そしてうさこはへたり込んでるジュラードを気遣うように、彼の傍に寄って「きゅいぃ」と鳴いた。
「最初は私もすごく焦ったんだが、でもイリスがラプラに回復魔法使ってくれと頼んで、彼女に回復魔法を使ったら段々顔色が戻ってきて状態がいい方向にいったんだ」
ローズの説明を受けて、部屋のドア近くに立っていたイリスが口を開く。
「確信は無かったんだけど、私の状態がそれで良くなったからもしかしたらって思って。結果的にそれで良くなったみたいだからよかった」
イリスはそう言って少し安堵の表情を見せる。そして彼の話を聞き、ジュラードが顔を上げてこう言った。
「と言う事は、治療法が見つかったってことか? その、回復魔法でこの病気はよくなるってことなのか?」
しかしジュラードの言葉に、イリスは首を横に振る。
「残念ながら体の模様は消えてないから、病気自体が治ったわけじゃないと思う。これが一時的なものかはわからないけど、症状が軽くなる事は確かみたいだけど……」
イリスのその説明に、マヤはまた何か考える様子で沈黙する。彼女は考える眼差しで、リリンの寝顔を見つめた。
一先ずはリリンの容態は持ち直したと言う事で、レイヴンは診療所へ戻る。彼はまた夜に、病気のことでマヤたちと話し合う為にこちらに来る事となった。
「それにしても回復魔法で症状が緩和した……これって何故かしら?」
いつもの定位置・ローズの胸の谷間という席に戻ったマヤは、不思議そうな様子でそう広間に集まった人たちに問う。広間にはマヤの他にジュラード、ローズ、ユーリ、アーリィ、ウネ、ラプラがいた。ユエは子どもたちの面倒を見ていて、イリスはリリンの傍についている。うさこもリリンの部屋に残っていた。




