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 スマートフォンが使えないと聞いたとき、転校が決まったことより、そっちの不安のほうが大きかった。

 私の契約している通信会社は国内最大手で全国の99.9%をカバーしていると宣伝しているのに、つまり私はこれから選ばれし0.1%の土地へとお引っ越しするのだ。

 しかも、しばらくひとりぼっちで。



 海外は素晴らしい! 海外に旅をするとこの国のダメなところばかりが見えてくる!

 海外の人はみんな親切で、自分に正直で家族を大切にして、ブラック企業なんて存在しないし、いじめもないし、パワハラもセクハラも差別もなくてオバケも出ない! 海外最高! みんなもこんな国は捨てて海外においでよ!

 SNS名物、自称海外通の海外自慢と遭遇するたび、現実と妄想の区別がつかなくなってしまった人を見てしまったような、いたたまれない気持ちになったものだ。

 しかし、私は言いたい。

 田舎最高! 田舎にいるとこれまでの自分のダメなところばかりが見えてくる。

 田舎の人はみんな親切で、自分に正直で家族を大切にして、ブラック企業なんて存在しない(そもそも企業がない)し、いじめもない(本当にない。うちの中学いい人しかいない)し、パワハラもセクハラも差別もない! だけどオバケは出そう。あとネットはつながらないけど、田舎最高! みんなも田舎(ここ)においでよ!



 親の仕事が予想外に上手くいっているようで、親はこっちにこないことになって、私が望むならすぐに戻ってきていいって言われたけど断った。

 あと、ネットがつながるようになってスマホも使えるようになったけど使わないと思う。大容量のモバイルバッテリーとか最新のスマートタグとか持ってきてたけど、これも必要ないかな。もうスマホなんてただの音楽プレイヤーですよ。

 なんだろう。

 ここにきてまだ二ヶ月だけど、なんだかうまく言えないけど、ここにいるほうがしっくりくるというか、こっちが私の故郷って気がする。

 高校に進学するときは戻る予定だったけど、もうずっとこっちにいようかなって本気で思ってる。



 今日ついに『ひめさま』たちと会うことができた。

『会う』なんていっちゃダメだよね。お会いする? 遭遇?

『会う』の敬語って何だろう?

 とにかく『ひめさま』たちはうわさどおりっていうか、うわさ以上にお綺麗で、みんなから尊敬もされてる。

 私もこれからここでくらしているうちに『ひめさま』を敬うようになるんだろうか。

 ところで、あの衣装ってどうやって着てるんだろう。



 最近、副会長の村瀬さんとなかよくなって、よく遊んでる。

 村瀬さんは小さくてかわいくて頭もよくて、はじめて会ったときすぐわかったのは、あっこの人も転校でここにきたんだなってこと。

 聞いてみたら一年前に東京からきたんだって。やっぱり。

 村瀬さんも私と同じで、ここの人じゃないっぽいもん。

 今度うちに泊まりにくるんだ。

 ここに人呼ぶのってはじめてだから楽しみ。



 今日、はじめてクラスのみんなとちょっと変な雰囲気になった。

 原因は昔話っていうか、おとぎ話。

 この国で一番有名な話だと思うんだけど、主人公の設定とか少し違ってて、ここの村のオリジナルなのって聞いたら、みんな変な顔して、私のほうが変わってるみたいな反応されて、なんかちょっとこわかったっていうか……まあ、どうでもいいんだけどね。



 村瀬さんから教えてもらった。

 どうやら私は『ひめさま』に気に入られているらしい。

 一度遠くからお目にかかっただけで、お話をしたこともないのに。

 一体、いつ気に入られたのだろう。

 とにかく、近いうちに私はひめさまと『おあそび』をするらしい。

 学校のみんながときどき口にしていた言葉だ。

 なんだろう。むかしの遊びとか?



 今日はひめさまと『おあそび』の日だった。

 私はどうしたんだろう?

 今日の記憶が、ない。

 学校にいって、特別な教室に案内されて、そこにひめさまがいて、ひめさまは私を──私を、どうしたんだろう? 私はどうしたんだろう?

 脚とか背中とか口の中に不思議な感じがする。

 別に痛いとか怖いとかじゃなくて、何この感覚は。

 本当によくわからないけど、またひめさまと『おあそび』がしたいな。



 果実園



 果実園には近づかないほうがいい



 果実園の話はしないほうがいい



 果実園



 だまされてる。

 みんなだまされてる。

 知りたくなかったよ、こんなこと。



 どうしよう。

 はやくここから逃げないと。

 親に電話したけど、こっちにくるのは今日の夜になるって。

 遅すぎるよ!

 たぶん、私があの子のことに気づいたことに、あの子は気づいてる。

 なんなの、あいつ。

 あんなに優しかったの、あれ全部演技だったの?

 とにかく私がここから逃げて外の人を呼んでこないと。

 みんなあいつに騙されてる。ひめさまだって。

 はやくしないと、みんなあいつにころされる。

 もうなんでもいいから、親がくるまであいつから逃げないと。

 こんなことで使うとは思わなかったけど、スマートタグをあの子の鞄に入れておいたから、あの子が今どこにいるかはわかるのは不幸中の幸い。

 今どこ──え、近くまできてる!



 ──え?



 ちょっとまって。



 近すぎるっていうか、これって……



「……なんで、いるの?」




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