The Midnight Carnival 2
ラーメンを食った帰り道、なぜあそこのラーメンは重くて胃にくるかを考えていた。
(スープの味が濃いのはもちろん、麺が粉っぽいからだろうな)
そのようにラーメンを考察し、スマホの野球の速報を見て電車に揺られていた。
「ゲンザイ、9カイウラ、5タイ1でベアーズ、マケテイマス」
イヤホンから聴こえる無機質な声。「そんなの見ればわかるわ」と言いたいような情報を垂れ流しているのは携帯に搭載されていたAI、つまりは人工知能だった。
PAS(personal agent system)。日本のトランス電子工業から発表されたAIシステムであった。
その人の趣向や職業に合わせた情報収集、記事やアプリの紹介、スケジュールの管理や物事の予測などを行ってくれるAIだ。
しかし内容はお粗末で、明らかに自分に合ってない情報を集めてきたし(この前はさくらんぼ種飛ばし大会の要項を紹介してきた)、予測はお世辞でも正確とは言えないようなものであった。
(トランス電子工業ね…)
「ザンネンナガラ、ベアーズハ、マケルトオモワレマス」
(うるせえ。野球は2アウトからだ。知った口を聞くなポンコツ)
こんなポンコツシステムなのにお値段なんと五万円。トランス電子に就職した教え子がオススメしなければ絶対に買わなかったものを。
自宅の最寄駅に着いてからも苦悩は続く。
切らしたボトルコーヒーとジンジャエールを2つずつ近所のスーパーで調達したはいいもののなかなかに重かったのだ。
(重い…この前切れそうな時に買いに行かなかった自分を呪うべきか、はたまた自分の消費量を呪うべきか)
ボトルコーヒーとジンジェールは最低限必要な物資であった。少なくても自分にとっては。
スーパーから5分程度歩いたところにマンションがあったため、右腕がとても鍛えられるようだった。
(ポストには…入っているか)
桐谷はちゃんとポストに鍵を入れていたようだ。一安心しつつロビーのオートロックを開け、エレベーターに乗る。
902号が彼の部屋で、904号が桐谷の部屋であるが9階には5部屋しかなく、そもそもフロアが広いわけでもなく、むしろ狭い。
いつもと変わらない帰宅。一ついつもと変わった風景があった。
黒く、黒い何か。よく見たら黒髪ゴスロリの中学生くらいの少女がうずくまっていたのである。