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夜空に輝く星の様に

「はぁ」

 冬になると、ふいに夜風に当たりたくなる時がある。

 そんな衝動に襲われた今夜、気付いた時にはホットココア片手に窓を開けていた。

「息、白ぇなぁ」

 暖房が効いた部屋へと、冷え切った夜風が流れ込んでいく。

 急に部屋が冷えた事への抗議の声を、背後の飼い猫がコタツの上で上げている。

 しかし、言っても無駄だと悟ったのか、コタツを降りて中へと潜り始めていた。

 普段はノロノロしている癖に、こういう時だけは行動が素早い。

 まぁ、それは別にどうでも良い。

 油断した隙を突いて一気に外へとフライアウェイ、なんて事にならなきゃまぁ良い。

 ここ三階だから流石の猫でも落ちたら悲惨な事になるだろうし、潜るなら別に良い。

「はぁ」

 折角の寒気だ。空気が悪くなった部屋の為の換気を兼ねて、歓喜する事にでもしておきたい。

「……寒」

 ずず、と早速冷めかかってきているココアを胃に流し込みながら呟いた。


「はぁ」

 かんっ、という音が室内に響く。

 空になったマグカップが学習机と対面した音だ。

 コタツの中から、驚いて飛び退いたかのような音が聞こえてくるが無視。

「……ここって、随分と汚かったんだな」

 マグカップを手放した事で両手が自由になったので、ベランダへと出て手すりに手をついてみる事にする。

 手が汚れることも厭わずに触れた鉄はきんと冷えていて心地よい。

 ひゅう、と顔の横を吹き抜ける風が、散髪したばかりで露出している耳を撫でていく。

「……ここって、意外と綺麗だったんだな」

 そしてそのまま外に目を向けてみると、意外な事に気付く。

 田舎――と言うほど寂れている訳でも、都心から離れている訳でも無いけれど――だと言うのに、夜景が綺麗だ。

 近くに建っているマンションやら何やらの部屋が放つライト。

 そんな光が、星のように何かを照らす訳でもなく輝いて。

 そんな光が、ただ光の近くの住人を照らすために輝いて。

 注意を向けないと気付かなかったような光に、ふとしたキッカケで気付いて。

「っ」

 鼻で笑うように、小さく声が漏れた。

 そして、そのまま上を見上げてみれば、星。

 都会――と言うほど賑わっている訳でも、都心に近いという訳でも無いけれど――だと言うのに、星空が綺麗だ。

 前にどこかで『星を綺麗に見られる所が減っている』とか聞いた気がするけれど、ここはどうやら減らされていなかった所らしい。

 東京と言えば『星空なんてマトモに見られない場所』だと思っていたけれど、どうやらそうでもなかったらしい。

「……」

 下ばかり見て歩いていて、気がつかなかった数年間。

 上をふと見上げてみたら、気がついてしまった数分前。

 それが、勿体無くて。

 それが、誇らしくて。

 誰かと分かち合いたくて。

 それが少し恥ずかしくて。

 だから、

「おーい、ちょっと出て来いよー」

 コタツを、捲ってみたりした。

 そんな、冬の夜の数分間。

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