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デビルズカード【赤】  作者: にがよもぎ
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ハート7 スペード7とハート8 スペード6

 なんとなく、ひどいことをされないように思っていたが、あいつは意地悪だった。

女の子にとって好きでもない相手に自分の体を好き勝手される以上にひどいことは無いが、それをおかしな理屈で納得させられてしまった。

しかもあいつは私の親友と……私の体で何を?

頭が沸騰しそうになったがそれもなんとなくはぐらかされてしまった。

なぜあいつの言葉ですぐに丸め込まれてしまうのだろう。

湧き上がる違和感。

それと結局聞けなかった。

なぜあいつの番号が私のスマホに登録されているのだろう。

それが気になって昨日は一日結局ゲームの対策を含めて何も出来なかった。


 そして今朝、起きだした私は登校の支度をしながら間違い探しの要領で取り替えられたものを探すがまったくわからない。

スマホで家の中を画像にして記憶させても、その画像ごとそっくり入れ替わってしまうので記憶を頼りにするしかない。


 そして登校。

グランドで朝練中のあいつを見つけた。

思わず足を止める。

あいつはボールを持たず走っていた。

緩急をつけて、ダッシュ、方向転換……。

美しい。

私の姿をしているあいつに思わず見とれてしまった。

……。

昔、いやそんな昔ではなく、今と同じように見とれていたような……思い出せない。


 授業中、業間、周囲をいくら注意深く見ても昨日との差がわからない。

お昼は指定席になってしまった学食の隅っこで楽しそうに玲奈と絡み合っているあいつを見ながら一人で定食を食べた。

この体は見た目の割りに小食、というか私と同じ量しか入らない。


 何事も無く、つまり交換されたのが何かまだサッパリ分からないまま私の足はひとりでに屋上へと向かう。

上へと続く階段へのドアは施錠されているが無意識に右側の端っこを軽く叩くと解錠できた。

なぜわたしはこのドアの開け方を知っているのだろう。

私は屋上に重ねて積み上げられている古いロッカーの中から隠されていた双眼鏡を取り出して下から見えないように腹ばいになり目に当てた。

もしかして交換されたのはこれなのか。

どんな単語で交換されたのだろう。


 下の運動場ではサッカー部が練習をしている。

もちろん私の姿を下あいつもいつもと同様に走り回っていた。

あ!

練習がおわると、あいつは他の男子と同じように上半身裸になって汗を拭き出した。

私の体がかっと熱くなる。

私は無意識に双眼鏡の倍率を上げる。

そのままあいつは部室棟へ。

部室棟の最上階に有る窓の動く人影に双眼鏡を当てるとそこは男子のシャワールームだった。

あいつは素っ裸になってチームメイトと話しをしている。

いたたまれず双眼鏡をずらすと別の窓が視界に入りそこから目を離せなくなった。

女子のシャワールームだったのだ。

あのシャワールームを使ったことが有るが、こんなところから見えていたなんて。

テニス部や新体操部も同時刻に練習を終えて戻ってきている。

双眼鏡から目を離せないまま無意識に手を伸ばすとそこに置かれていたティッシュケースに当たった。


 ……最低だ。


 体に染み付いた何かが発動した。



 やっぱり最低だ……。


 心が体に引きずられたのか、何かを取り替えられたのか葉結局分からないままに夜が来てジョーカーが迎えに来た。


 いつものようにあいつはすでに来て席に座っていた。

男物のパジャマとスリッパ。

ゲームはどちらからも、またジョーカーからも一言も無く始められて、ハート7 スペード7と当然の結果引き分けた。


「待って」

「なんだよ」


 立ち上がって帰ろうとするあいつの袖を私は掴む。

引っ張られて伸びたパジャマの合わせ目からあいつの膨らんだ胸が見える。


「ご、ごめん」

「だからなんだよ?」


 体がかっと熱くなり思わず謝り視線をはずしてしまう。

でも言わなくっちゃ。


「運動場で脱がないでくれる?」

「あ、ごめん」


 あいつは何を言われたのかすぐ気が付いて素直に謝ったが私が何に対して赤くなっているかは分からなかったようだ。


「でも女子の更衣室やトイレは使えないよ」


 そうにやりと笑ってトイレがどうのと切り返してきた。

あいつは私の全てを自由に見て触れるのだ。

からかわれて顔が更に熱くなる。


「分かってる」

「何か言いたいことがあったら一応聞いてやるからな……したいことでもいいぞ」


 あいつは意味ありげなことを言って一瞬視線を下げ、ずれたパジャマを直してそのまま立ち去って行った。



 翌朝、目覚めた私は昨日同様元気いっぱい、気分は最低。

昨日と変わらない今日が始まり終わる。

あいつは運動場でユニフォームのシャツを脱がなかったけれども……。

だからってなに!

あいつは一緒になった帰りの電車でさりげなく胸を押し付けてきたりした。

低くなった身長のために上目遣いで見上げてきて、おもわずどきっとした瞬間に意味ありげに視線を上下させて鼻で笑った。

私はあいつの体でヒラヒラスカートを穿いて、一日嫌がらせをしたつもりだったのだけれど体の変化がダイレクトにくっついたあいつに伝わってしまった。

くやしい。


 深夜のゲーム、ハート8 スペード6。

私が勝った。

何を優先して取り返すか、思いっきり悩んだけれど、カードには【人間関係】と書いた。

一人ぼっちはさびしい。

友達返せ。

両親返せ。

妹返せ。


……何か一つ忘れているような。




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