ハート5 スペード9
朝目が覚めて、体チェック、部屋チェック、異常なし。
「あ、あ」
声、異常なし。
いったい何を交換されたのだろう、分からない。
学校へ行かねば、気が重い。
それでも行かねば、何をされたか分からない。
とにかく身支度。
うちの高校は私服通学。
さすがにスカートを穿く勇気が無い。
悩む時間が惜しいので昨夜からジーンズを引っ張り出して有る。
パンをかじりながらも視線はきょろきょろと動く。
分からない。
駅からの通学路、玲奈たち女の子を追い抜く。
「え~、ホントに彼にあげちゃったんだ」
「えーうっそぉ」
「だって優勝したんだもん。だから昨日……」
思わず足が止りそうになるが、聞こえない振りをして歩く。
神経は完全に後ろに集中。
「痛かったけど……」
許せない、一言もんくを言ってやら無いと。
あいつは、たしかこの時間ならサッカー部の部室に、あれ……何で知ってるんだろう。
まぁいいや、きっちり釘を刺しとかないと。
あいつは試合後で練習が休みの時も朝早く来てボールを磨いていた。
私が部屋に入るとボールを置き、出ていこうとする。
とっさに掴んだ手首が細い。
私の手首だから。
「何の用だ?」
「玲奈のことよ」
「お前には関係のないことだ」
「有るわ、親友だもの。それを、私の、私の体を使って……」
「そこが問題なのかよ。確かにこの姿で一線は越えたが、あそこは俺のままで……お前、もしかして俺にやきもち焼いてるのか?」
「そ、そんなこと有るわけないじゃない」
「だったかまうな、俺はサッカーで推薦が取れるんだ。たっぷりと高校生ライフを楽しむんだ。お前はひたすら本でも読んで勉強でもしてればいいさ。それからここには二度と来るな。ここは外からよく見えるんだ。ここは覗き見するやつが多すぎて困る」
覗き見なんてしたい人にはさせ……覗き見……赤いアレが居た。
「平日は妹が塾で、わかるだろ? いつも夜7時ごろまで彼女がいるんだ。学校で噂にならないように覗かれないようにしてるんだけどね」
なんか訳の分かったようなわからないような。
うちの場合、お父さんは残業で11時ごろ帰宅。
お母さんは妹の塾のお迎えでやはり10時ごろまで……。
だから夜、玲奈が来てウッフンアッハン、覗く……覗く?
間違いなくジョーカーはあっちに行くだろう。
そうしたら私は、本を読んでお勉強?
もしかしたら。
考え事をしていたら朝礼に遅れて叱られた。
えっと、何かひらめきかけたたような、なんだっけ。
叱られた拍子に忘れてしまった。
あいつは涼しい顔をして席についている。
やっぱり腹が立つ、ね!
ところで私、なぜにこいつと和んでいたのだろう。
こいつは彼の仇、彼?……もちろん、そう本田君……。
なぜにすぐ出てこないんだろう??
もしかして怪しい術でも掛けられているのかも、注意しなくっちゃ。
授業中、さらに詳しく言うとテスト中、こんなことを考えていれば惨敗確定。
益々腹が立つ、ムキーー。
その日、あいつは暇があると玲奈といちゃついていた。
私の目から見れば、女同士で戯れているように見えるのだが、ほんわりと、ピンクのオーラを出し続けているのに変わりがない。
同じクラス、見ているだけでイライラする。
あとで客観的に思い出してみれば、この時あたりから明らかに私の中の【怒り】が変質していた。
ただそれはカードによって変えられたものではなかった。
この日取り換えられたものは、家に帰って見つけたのだから。
家に帰って、掃除洗濯、時計をふと見ると……あいつ今頃……玲奈とウッフンアッハンするんだとぉ!
なぜに私が怒らにゃらなないのだ。
うん、平常心。
本でも読むか。
私の愛読書……恋愛占い……がなくて何これ?
洋書?
英語でもないし、何語だろ。
細かく丁寧に日本語で注釈が入っている。
表題はわからないけど、これ【悪魔】について書いてある。
えっと召喚の仕方……人間の心臓を13個、ハイ無理です、できっこない。
新聞の切り抜きが挟んである。
ホームレス連続失踪……一人の遺体が……心臓が……猟奇殺人!
この近くじゃない、知らなかった。
取り敢えず、付箋の張ってあるところを見ていく。
悪魔を召喚するのには二人で……。
二人、の下に赤いアンダーライン。
創刊した二人は、悪魔の使徒になるらしい。
鉛筆で書いてある。
あいつの字だ。
?なんであいつの字なんて知っているのだろう。
とにかく読もう。
”1人倒した。”
あいつが?
悪魔の使徒を?
とにかく読み進む。
”悪魔は嘘が付けないと嘘をつく”に赤で強く協調。
そして、デビルズトレードの本当のルール。
非常にありがたい、けど。
これって、あいつが【愛読書】かなんかを交換したんだよね。
なぜ??
これが本日一番の謎だった。
その日が終わる前にまた赤いジョーカーが現れてあの部屋に行った。
ハート5 スペード9
当然のように私は負け、あいつは何かを交換した。