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デビルズカード【赤】  作者: にがよもぎ
2/14

ハートA スペードK

 また一日が始まる。

外の天気もどんよりと曇っている。

鏡に映る私の顔……ひどすぎる。

寝不足なんて関係なく人相が悪くなっている。

いつもより濃い目の化粧でごまかして家を出る。

彼が自殺した、まだ黄色いテープで立ち入り禁止の公園を見ないように目をつぶって駆け抜ける。


「美咲っ、危ないじゃないの!」


 いい香りがする。

私を受け止めたのは玲奈だった。

小学校からずっと一緒の玲奈は大体の通学路も同じ。

男の好みは私が知的な人が好きなのに対して、彼女は活動的な人が好き。

だから仲良くやってこられた。


「あ、ここだっけ……」


 そのまま黙り込んだ玲奈は黙って私の手を引いて歩いてくれた。

しばらく、玲奈がカバンにつけた鈴の音しか聞こえなかった。

日頃はおっとりしてるけど芯が強い玲奈に、私はいつも甘えてばかりいるような気がする。


「ごめんね。ありがとう」


 やっとそれだけ言ってまた黙って歩く。

あれ? 変だ。


「玲奈ってこの時間に登校してたっけ。ここで会うの初めてかも」

「いつもは1時間早いかな、サッカー部の朝練に付き合ってるから。今はインターハイ中だから朝錬は無いの」

「マネージャーなんてしてなかったよね」

「またまたぁ、ご冗談を、真田君を応援してるに決まってる……どうしたの? 気分悪いの?」


 おそらく私の顔は蒼白になえるはず。

血が引いたのを自分でも感じた。

そっか、負けちゃったんだ、片桐先輩。

歯を食いしばって、出そうになる涙をこらえた。

泣いてる場合じゃない。

私が何とかしなくっちゃ。


「ううん、なんでもない」

「無理しないで帰った方がいいよ。先生には私から言っとくから」

「ありがとう、でももう大丈夫だよ」

「それならいいけど」


 玲奈の腕にしがみ付き寄りかかったまま登校する。

この際、周りから変な視線を向けられたが気にしていられない。

まだ膝がガクガクするのだ。

玲奈ごめんね。


 玲奈がつけているラベンダーの香りに少しずつ癒されてやっと学校にたどり着いたが、なんだろう、この騒ぎは。

校門のところに人だかりがあって、新聞社の旗を立てた車が停まっている。

奥の校舎近くに有る来客用の駐車場にパトカーと救急車。

なんだろう。


「ねぇちょっと、何があったの?」


 玲奈がカメラを持って通りかかった新聞部の小林さんに尋ねた。


「3年の片桐先輩が飛び降りたんだって、命は有るみたいよ」

「へぇ~、そうなんだ。」


 単なる野次馬のような玲奈がした返事に寒気がする。


「なんか多いわねぇ。あ、ごめん」


 死んだのはあなたの恋人でしょ、なんてとても言えるはずも無く、そうね、と小声で返す。


 その日の1時限目はまた自習で、2時限目はアンケートが配られた。


『この学校でいじめを見たことがありますか』

……

『最近変わったことがありませんでしたか』


 何を書けばいいのだろう。

私が書いたアンケートには、ありませんなどの否定的な文字が並んでいた。

そのアンケートを順送りに回収しているときに、斜め後ろの席に座っているあいつと目が合った。

氷のような冷たい目。

虫けら以下のようなものを見る蔑んだ目。

背筋に寒気が走ったが、私はその目を睨み返した。

通りかかった先生が視線をさえぎり、、ふたたびあいつが見えたとき、向こうは私から目をそらしていた。

私は負けない。


 次から普通に行われた授業はろくに頭に入らず、かといってゲームに勝つための作戦も思いつかず、気ばかりあせる中で時間は過ぎて行った。


 下校する時間になりすぐに帰りたかったが担任の加藤先生に用を言いつけられて遅くなる。

先生の社会科準備室からすぐ隣に運動部の部室が有る。

部室の建物はアパート風で入り口のドアには大きなガラスがはまっていて中が良く見えるようになっている。

中でタバコなど問題行動を起こさないようにだと噂されているが、単純に光熱費を削るのが目的らしい。

しかし本当に中が良く見える。

その部室棟の一番左端、抱き合ってキスする男女の姿。

青春だね。

本田君が自殺する前なら、覗いていたかもしれないけれど、今の私にとってはホントどうでもいいことだ。

そのままグラウンドを横切り正門を出ようとすると、後ろから走ってきた誰かにしがみ付かれた。


「美咲~待ってよ。ムシって行くこと無いでしょ」


 ハァハァと息をしているのは玲奈だった。


「玲奈いたんだね。ごめん、気がつかなかった」

「さっきサッカー部の部室にいたときに目が合ったじゃない」

「私そんなに目がよくない……あっ」

「そうなのです~キスしちゃってました~」


 動きが止まってしまった私に玲奈は気がつかずに言葉を繋げる。


「えへへぇ~。もしも、もしもだよ~彼が優勝しちゃったら私の初めてをあげちゃう約束しちゃったのです~」


 なおも何かを言おうとする玲奈を振りほどいて私は逃げ出してしまった。

そんなの聞きたくない。

玲奈があいつになんて。

駅まで走り、ちょうど着いた電車に飛び乗ると玲奈からメールが届いていた。


『ごめんね、無神経だった』


 玲奈は悪くない。

大急ぎで家に帰り部屋に閉じこもる。

日記に玲奈ごめんね、なんて書いても彼女には伝わらないのに、私にはメールを返すことが出来なかった。


 お父さんが珍しく早く帰ってきて、妹も塾が休みで久しぶりに家族が4人ともそろった夕食。

美味しくなかった。

出来るだけ笑顔を心がけたが、妹に「おねえちゃんなんかへんだよ」、って言われてしまった。


 そして夜、パジャマを着てベッドに入り横になっていたらいつの間にか寝てしまったようだ。

気が付けば緑のフェルトを張ったテーブルを挟んで、真田と向かい合って座っていた。

彼は端正な顔に全く表情を浮かべず、ただゴミを見るような目で私を見つめる。


 テーブルの上には四組のカードとあの赤いジョーカー。


「さぁ、ゲ~ムタイムスタ~ト~。お2人とも準備はよろし~ですね~。では~挑戦者に先に攻めるか後で攻めるか決めていただきましょう~」

「後で」


そう、取られたもの以上を取り返すためには後を選ぶしかない。

私は6日間だけ我慢すればいいのだ。

4組の内2組のカードがよけられ積み上げられる。

残る二組は向こうとこちらに分けて積まれる。


「では~一番上のカードを一枚、表にしてください」


 あいつはスペードK、私はハートAでこのゲームでは1、つまり予定通りに私の負け。


「ハートの負け~。ではスペードの代わりにワタクシジョーカーが交換するものをカードにかかせていただきま~す」

「えっ? それなに? そんなの聞いてない」

「おや~。お嬢様には説明していませんでしたかね~最初の三回はワタクシジョーカーがトレードするものを決定させていただくのですよ~」

「そんなの聞いてない。私のターンにそんなことをされたら困る」

「馴れ合いを防ぐためにこうしているだけでして、後攻めのお嬢様には関係ございませんので説明を省略させていただきました~」

「私が先を選んだらどうなってたの?」

「今まで挑戦者で先を選んだ人はいません、いやお一人だけ居られましたか。その方も問題ないとおっしゃってましたし、まぁそのなんですなぁ~」

「過ぎたことはいい。次の挑戦者にはきちんと説明をすることにして、今は早くゲームを進めろ」

「これは申し訳ありません。では美咲様のもっとも好感されたら嫌なものを書かせていただきますね~」


 ジョーカーは勝ったスペードのKに何かを書き込みそれを脱いだ帽子の中に入れた。

もわっと煙が出てカードが消える。

ジョーカーが手を振るとまたスペードのkがあらわれ、よけられていた使わないカードの山に、私のはーとのAと共に戻される。


「ではこれで終わりとさせていただきま~す。効果開始は明日の朝6時~お楽しみにね」

「もう終わり?」

「はい~」


 私はベッドの中で目を開けた。

真っ暗な中に小さな明かりが一つ灯ったいつもの部屋。

私が一番嫌がる物ってなんだろう。

くたくたになった私はすぐに眠ってしまった。

それにしてもあいつの私を見る目、あれはいったいなんだろう。

人はどうしたらあんな目で他人を見れるのだろう。

気になる。











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