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デビルズカード【赤】  作者: にがよもぎ
10/14

ハート9 スペード5

 今日は金曜、1人で暮らすようになって、朝おきる時間が30分早くなっていた。

昨日と同様にぺったんこになったブラを付け服を着る。

部屋のドアを開けると人の気配が。

台所のドアを開ける。


「美咲、おはよう。今日は早いのね。すぐ支度するからちょっと待ってね」

「うん、おはよう」


 お父さんはすでに焼いた食パンを食べてしまって新聞を読みながらコーヒーを飲んでいる。


「お父さん、おはよっ」

「おはよう」


 お父さんは驚いたように私を見た。

最後に私がお父さんにああの挨拶をしたのはいつだったっけ?

【家族】を交換される前もときどきお父さんと朝の時間が一緒になることがあってもなんとなく挨拶も会話も無かった。


「はい、どうぞ」

「ありがとう、いただきま~す」


 大手メーカーの普通の食パン、特売日で買った安物のジャムにマーガリン。

フライパンで焼いただけのベーコンエッグに、レタスをちぎってドレッシングをかけただけのサラダ。

思いっきり手抜きの朝食がこんなにも美味しい。

おもわず頬が緩む。

うん、美味しい。

視線を感じて顔を上げるとコーヒーカップを持ってニコニコしているお父さんと目が合った。

変なお父さん。


「あぁぁぁ、なんで起こしてくんないのぉ~~」

「今日部活有ったの? 起こしてほしかったら前の晩に言っておきなさい」


 私が食べ終わってしばらくしてやっと起きてきた妹がお母さんに起こしてくれなかったと文句を言っている。

はっきりいってつまらない日常、これが最高だったんだ。



 家をでる。


「おはようございます」


 近所のおばさんに挨拶をすると、昨日とは違って怪訝な顔をされる。

そっか、この人との関係も入れ替わったんだ。


「おはよう」


 それでも挨拶を返してくれる。

カードが余ったら【ご近所関係】も取り替えなくっちゃかな?

あまったらでいいや。

カードで取り替えなくってもまたすぐに仲良くなれるもの。


「おはよう」

「おっす」

「おは~」

 

 私は友達が多い。

あたりまえのことだったけど、うん、うれしいっ!


「おっはよ、美咲。なんか楽しそうね。いいことあった?」


 駅で玲奈と一緒になり同じ電車にのる。

満員電車のドアに私はもたれかかる。

玲奈はそのドアに手をついて揺れる体を支える。

客観的に見れば野郎が美少女にカベドンされているような光景。

カーブで大きく揺れた拍子に私の唇と玲奈のそれとが当たってしまう。

今の何?

目が合った隣で新聞を読んでいたサラリーマンがきまり悪そうに向こうを向く。

玲奈、背伸びしないと当たらないよね。


 駅から続く通学路、何をしゃべっていたの? と尋ねられたら、さぁ? としか答えられない以前と同じようなおしゃべりをしながら玲奈を左腕にくっつけて校門を入った。

これも客観的に見れば、女装男が女の子と腕を組んで歩いているシュールな世界なんだけど、認識が狂っているので誰もそれを変だとは思っていない。

仲の良い友達同士のはずだ


 ピピ~。


 サッカー部の練習しているグラウンドにさしかかると笛が吹かれて、部員達が私の前に走ってきて整列する。


「名誉キャプテンに礼!」

「「「おはようございますっ」」」

「おはよ」

「解散!」


 あいつを含めた部員はそのまま部室棟へ走っていった。

そう、あいつと人間関係を変えたから私がサッカー部のキャプテン。

ただし、女だから名誉なんて付いている。

名誉キャプテンになっている理由はなんちゃらかんちゃら。

役に立たない無駄そうな、そんな知識が当たり前のように私にあった。

あいつは平部員だ。

エースでは有るけれど、試合以外は仲間はずれにされている。

サッカー部の外から見てもチームからなんとなくずれているのが分かるのか、孤高のエースなんていわれている。

なというこじつけ、すごい修整力だ。


 カードはつじつまをあわせるをまた修整してしまったが、修整でごまかしきれない不自然な部分は放課後に出てしまった。

私と玲奈は帰る方向が同じだ。

乗る電車も同じ。

もともと親友だから一緒に帰って……玲奈、満員でもないのに近すぎない?


 家に帰ってきたのだが、特別に誘ったわけでもないのに当たり前のように玲奈がくっついてきて上がり込む。


「今日もあと1時間は誰も帰ってこないんでしょ?」

「そうだけど、むぐっ」


 唇が柔らかいもので塞がれて……あいつ、この時間帯にいつも……。

あいつと玲奈は恋人同士だったんだ、忘れてた。


 ……あいつの体、なぜか無理なく使えちゃえました、なぜできたんだろう?

……最低だけど最高だった、いぇ、逆なの?

玲奈は手際よく後始末してあっさりと帰っていったけど……ぁ! 誰か帰ってきた、早く着替えなくっちゃ。


 そしてまたゲームの夜、あいつは私を見てなんとも言いようの無い顔をした。

そしてゲームは始まる。


ハート9 スペード5、当然私の勝ち、2連勝。

私はカードに【体】と書いた。

これで玲奈ともただの親友に戻れるよね?


 ゲームから戻って鏡を見てあいつがなぜ変な顔をしたのかやっと分かった。

私の首筋に部分的に変色した……私は玲奈にマーキングされていた。

全部あいつが悪いんだよね!

そう思うことにした。

早く寝なくっちゃ。 


 




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