ソレは神さえ断つ刃
神の加護という単語が出て少しの間、周囲は沈黙のカーテンに包まれた。
そこから最初に口を開いたのはソフィア姫だ。
「……神の加護。噂で聞いたことがあるわね、守護神に選ばれた者にしか使用できない禁呪という話だけれど」
記憶を辿って呟くソフィア姫に、セレネ将軍はあからさまに馬鹿にした視線を向けて鼻で嗤った。
「ふん、噂ですか。さすがはつい最近まで鎖国していた所の姫殿下ですね」
「なによ。常識を知らない子供を見るような顔ね? 他国では、そんなに神の加護とやらは重要なのかしら?」
「その通りです。まぁ無条件で守護神からの恩恵を受けていた国民には、不要で過ぎた力でしょうとも。しかしクリティアスを含めた六カ国においては、確かな奇跡として存在しています。まぁ使用できる者など、一国に三人も居ませんが」
「……随分と稀少すぎる力じゃない。どうせ一部の権力者くらいしか知り得ない知識を一般的だと嘯くのはどうかと思うわ」
馬鹿にされた事を根に持った呟きをするソフィア姫だけど、今はその感情に付き合う暇は無い。ただ、俺にも不満はあった。
「最初からそう説明してくれたら良いのに。遠回しな物言いは苦手です」
「手っ取り早い方法を黙っていたのは、デミウルゴスの方ですが。まぁ隠していた事情も理解できます。今の貴方では使用条件が厳しいでしょうからね」
「その様子だと、魔法みたいに寿命が減るという訳でも無いようですね?」
「寿命を減らす必要などありません。ねぇ、デミウルゴス?」
セレネ将軍の挑発めいた視線にチッと舌打ちした神様は、それでも観念したように頭を掻きながら発言する。
【……魔法が寿命を消費するのに対し、神の加護は信じる心を対価とする。そう言う意味では、身体に害は起きない。だが、それを安全だと勘違いするなよ】
「どういう意味ですか?」
【我が権能が、貴様の心の中に降臨するのだ。人格の乗っ取りに等しい暴虐だ。その代償として人間の精神は摩耗する。意識の混濁で倒れる可能性が高い】
「なんだ、その程度の事だったんですか?」
【軽く考えるな。術式に成功しても、そこまで気力に影響するのだ。失敗すれば、間違いなく心が壊れるぞ。人間性を失い、生きた人形となり下がる。それは寿命が減るよりも残酷なことだ】
「……つまり、失敗しなければ良いのでしょう?」
拍子抜けだ。
緩すぎる条件に目を丸くすると、何故か怪訝な顔をしたソフィア姫が口を挟む。
「クロー、本当に構わないの?」
「はい。むしろ、何でそんなに心配そうに見られるのか分かりません」
「ミウルが躊躇うのも無理はないからよ。自分という人格を失うなんて、恐怖以外の何物でも無いわ。普通に考えれば、クローが反発して当然だもの」
「……何故ですか?」
「もし精神が崩壊すれば、覚悟と努力で得られた結果さえ消失すると考えないの? 命を犠牲にしてまで叶えたい願いや目標も、判らなくなるのよ」
「……あぁ、そういうことですか。俺は成功することを前提で考えていましたが」
つまり神様は俺が失敗すると決め付けて、結界の解決策を隠していたらしい。
だから理解できた途端、グツグツと煮え立った鍋のように怒りが湧いてきた。
「馬鹿にしないでください。試さないで諦めるなんて、そんなに俺が信用できないんですか? 俺、そこまで心が弱いつもり無いですよ」
【それ以前の問題だ。己の全てを捧げても良いという信頼や敬意は、時間をかけて育むものだ、人間。貴様と我が出会って、まだ数日だぞ。そんな相手に全て支配されるという屈辱を甘んじて受けるのか? 魔法師クロー】
「それが、必要だというのなら」
【ちっ。貴様は異世界に来て舞い上がっているだけだ。魔法を使って以来、挫折を知らんから自分が何でも出来ると勘違いしている】
罵倒しながら神様の顔が曇る。
まるで哀れな子羊でも見るかのような、悲しい哀愁を浮かべている。
【今まで、全て失敗してきたのだ】
「え?」
【我は口だけは達者な者を何度も見てきた。その全てが、神の加護を受け入れきれず精神を壊して廃人だ。成功する可能性があるなら、喜んで応じよう。だが無意味に失うくらいなら、手を貸さない方がマシだ】
いわゆる経験談というヤツだろう。
神様は過去の出来事を思い出しながら、俺には為し得ないと判断しているのだ。
――ふざけた話だ。
「なら、そんな常識は今から捨ててください」
ガシッと、手を握って神様を引き寄せる。
ちょっと勢い余って、抱き寄せるみたいになってしまったが関係ない。
【お、き、きさま、いきなりなにをッ】
まだ文句を言いたそうな感じがあったが、そんなの知らない。
論より証拠、有言実行だ。
神様を連れて俺は遺跡に近付くと、言葉を放つ。
「風の刃に慈悲はなく」
【待て、何をしている、貴様ッ】
慌てる神様の声は無視しよう。
だって、今の俺に誰かと対話できる余裕はない。
冗談では無く、体内の血液がグツグツと沸騰する感覚があった。
右腕の血管から、バシュッと斬られたように血液が吹き出す。
神様という補佐が無い状態で唱える魔法は、俺の想像以上に痛かった。
「……弓より早くその身を喰らう、無色の咆哮」
【止めよ、我を介さずに魔法を放つなど自殺行為だッ。貴様の魔力量は破格だが、技術は素人以下なのだぞ。ましてや上級魔法など、発動する前に身体が枯れ死ぬわッ】
文字通り、それは身に染みる忠告だ。
何しろ、今度は左腕の皮膚が地割れのように細かく裂け始める。
……右腕と違い、いくら精巧であっても偽物なので血が流れないが、見ていて気持ち良いモノでは無い。でも構うものか。
雨に濡れたように身体から脂汗が止まらないし、何故か鼻から血が流れ始める。
それでも。それでも、ここで躊躇する訳には行かない。
「死神の」
【死にたがりめ、無益な命の消費など許すものかッ】
「むぐっ」
そう言葉を並べ立てながら、必死な形相で俺の口を塞いでくる。
魔法は完成しなかったが、中断した時点で心臓が焼けるように痛い。
けれど、今は我慢しよう。
神様が俺を見捨てなかった時点で、交渉の余地があると判ったからだ。
【バカな真似を、我が協力しなかった腹いせかッ】
「そうですよ、何を躊躇っているんですか。俺をこの世界に連れてきたのは貴方なんですから。今更、善人ぶらないでください」
【なっ】
「俺に政治は難しい。この世界の事情にだって疎い。判る事は一つだけです」
【……言ってみろ】
「遺跡の結界を壊せば人助けに繋がるんでしょう? なら、やるべきです」
【まったく随分と気軽に言い放ちおる。狂人か、貴様は】
「じゃあ、やらないんですか?」
【やらんと言わん。だが我とクローには、もっと互いを知る時間が必要だ。それが成り立つ前に、分の悪い駆けに乗って破滅したらどうする】
「できますよ、絶対。俺の全てを賭けます。信仰に敏感な神様の目なら、俺が本気かどうか判りますよね?」
【――――】
神様は絶句して、下を向いて、地面をダンダンと踏んで、イライラした顔のまま俺を見て口を開いた。
【何故だ。何故、我をソコまで許しているのだ。いや、そもそも出会ったときから異常だった。貴様は元居た世界で苦しんでいた筈なのに、我を神として受け入れていた。まともな人間ならば、自分を酷い目に遭わせた神こそを憎みそうなものなのに】
「……あぁ、悪い出来事を神様の性にする人も居るらしいですね」
【そうだ。だが、貴様は神を恨んでいない。しかし無垢な信仰心でも無い】
「えぇ、告白すれば貴方に出会うまで、俺は神という存在に興味が無かった。でも今は感謝しています。貴方は俺を助けてくれました。腕を治して貰えたし、俺の苦しみを聞き届けてくれたから」
【それだけか。貴様はそれだけの為に、我に己の全てを捧げられるのか】
――あぁ。他の誰かにとって、どれだけ信じられない話と思われても。
あの時、俺は魂を捧げても良いと思えるくらい救われたのだ。
「それだけで良かったんです。あの世界では誰も俺を直視してくれなかった。哀れな者としてしか生きられなかった。でも此処では、俺を必要としてくれている人が居る。それだけで俺は、何だって出来ます」
【だが貴様は、利用されているという自覚だってある筈だ】
「……正直、騙されたって構わないんです」
【なに?】
「俺はね、神様。ただ満足したい。誰かの役に立てた、立派な人間として生きたい。貴方がその為に必要だというなら、幾らでも受け入れるという、それだけの話なんです」
【――――】
俺の本心からの言葉に、再び声を失う神様。
ただショックを受けていると言うよりは、呆れた様子だろうか。
【まったく、神をも恐れぬ不届き者め。こんな態度を示しておいて、我の何を敬っていると言うのだ】
「俺が仕える神様は、こんな些細なことで動揺しないし、困っているときは喜んで力を貸してくれると信じています」
【馬鹿なことを】
「でも、そんな俺を選んでくれたのは貴方だ。貴方が先に俺を信じてくれた。だから俺はその気持ちに応えたい」
キッパリと言い切る。
それを聞いた神様は目を点にして、深い溜息を吐いて、諦めたように頭を振った。
【……そんなものは独善だ。ふん、もう知らんぞ。結界破り、出来るものならやってみるが良い】
辛辣な言葉とは反対に、神様の身体は杖へと変化する。
俺は感謝しながら杖を手にとって、セレネ将軍に向き直った。
「この遺跡の結界を壊せば、アッカド基地や貴方の国に魔物は来なくなりますか?」
「さぁ? しかし遺跡を調査して解明すれば、魔物の生態は変化するのは間違いないでしょう。それについてだけは、自分が保証します」
価値があるのか良く分からない保証だったけれど、無いよりはマシか。
と思うことにして、俺は改めて杖を構える。
【クロー、これは忠告だ。己をしっかりと保ったまま我を受け入れよ。そうで無ければ術式が成功しても空洞のような人格となるぞ。自分を否定するな。その分、受け入れる魔力に抵抗が産まれる】
「……よく判りませんが、了解しました」
【では、これより貴様に加護を授ける。覚悟せよ、これは神の試練である】
白銀の杖が恒星のように輝いた。
ソレを合図とするように、神様の言葉が洪水のように俺の心に流れ込んでくる。
「――我が加護は、断絶」
瞬間、さっき実行した杖を使用しない魔法の苦痛がマシだと知った。
それは圧倒的な自意識への暴力だ。
神様から送られてくる魔力に、巨大な滝の水流に飛び込んだのかと錯覚するほど思考がグチャグチャと押し潰される。
あぁ、なるほど。あれだけ反対されるのも納得の精神的な拷問だった。
「――――」
頭が真っ白になる。降り注ぐ魔力に思考が溺れて言葉が出てこない。
もう神様の魔力で満杯なのに、まだ足りぬとばかりに溢れて流れ出す。
【気をしっかりと持て。術式の完成に至る魔力が、まだ足りぬぞ】
という、今の俺には理解しがたい言語が心に響く。
次から次へと遠慮無く注ぎ込まれる性で、自分の内側が風船みたいに膨張する。
……きっと、パンと破裂した時点で俺は廃人となるのだろう。
さすがにそれは嫌だった。何も成さないまま、無駄死にはしたくない。
だから、増える魔力を取り込む為に元からある自分を捨てる事にする。
俺の中に残っている過去や感情を廃棄して、もっと神様を受け入れる事にした。
自尊心は要らない、夢や希望も要らない、寿命だって失ってみせる。
だが。
【決して自分を捨てるなよ、クロー。無価値だと思う物を我に捧げるな】
「――――」
思考が停止する、
魔力を受け入れる為に、自分の全てを伽藍洞にすることが正解かと思った。
【クローよ、貴様は我に強い信仰を抱いておらぬ。それでもなお我が力を欲するならば貴様にとっての価値ある物を見せよ。我が加護を受ける資格を示すのだ】
困惑する。果たして、俺にそんな物があるのだろうか。
誰かに生かされただけの、哀れな存在でありたくないという願い。
救われる価値のある人生であったと胸を張りたいという、見栄。
あぁ、駄目だ。もはや醜いだけの自己満足しか残っていない。
【諦めるな、馬鹿者め。その程度の男を我は選ばぬ。貴様には神の加護を得るに相応しい価値ある物を持っている。ソレを自覚せよ】
……判らない。自我が惨めに消えていく感覚しか分からない。
魔力の洪水に耐えられず、俺の意識は溺死寸前なのだ。
【クロー、忘れるな。それが本当に、自分の死よりも尊い物だというならば。お前がここに居る本当の動機を思い出せ。貴様が己を捨てでも救いたいと思う相手は誰だ】
そんな相手は、もう居ない。
見ず知らずの俺を助けてくれた、あの時の女性は死んでいるのだから。
【事実、女の肉体は死んだかも知れん。だが、その精神は亡くなってはいない。貴様の中には贖罪だけでは無い。貴様が人を助けたいと願う、その原動力を我は感じる】
――その原動力とやらも、魔力という水に晒されて消えかけている。
神様の魔力に押し流されていく記憶の中で、今なお燻り続けている言葉が一つ取り残されているに過ぎない。
『尊い善意に感謝しなさい』。それは父親が俺に授けた呪いだ。
【だがクローよ、その言葉だけは否定できないのだろう? 我が魔力に晒されても消えぬその感情は、貴様の起因になっているのだから】
あぁ、確かに。呪いだからこそ、その感情だけは死んでも忘れられない。
――無償の善意。
たとえその境地に至らずとも、この憧憬だけは絶対に亡くしはしない。
俺は、あの救済に報いたいからこそ、誰かを救いたいのだ。
【そうだ。それこそが貴様の原動力。我が加護を授けるに相応しい価値ある魂だ】
……ドクン、という心臓の鼓動が杖から響き、再び銀色に輝く。
と同時、俺の傷付いた身体が急速に回復していくのを自覚する。
【やれやれ、ひねくれ者め。ようやく自分の良心を認めたか。己の人格を否定する嫌悪感で魔力を受ければ自滅するだけ。しかし僅かでも自分を容認するならば、我が魔力は導く方向へと転換される。濁流に呑まれた意識は穏やかさを取り戻し、自ずと呪文が唱えられるだろう】
……別に、俺は自分に良心があるなどと自惚れる気は無い。
しかし神様の言葉は正しいらしく、徐々に自分の精神が復元されていくのが判る。
ようやく言語機能も回復し、発するべき新しい言葉が浮かび上がった。
「我が主の祝福に、如何なる領域も阻むこと叶わず」
その言葉を起爆剤にしたかのように、神様の杖が光を帯びて上へと伸びた。
輝きは空を貫く長さになると、幾千の束となって東西南北に広がっていく。
「……これが神の加護。綺麗、昼間から流星を見ている気分だわ」
――ソフィア姫の言葉を聞いて見上げれば、光の線はグニャグニャと形を変えて、空を覆う魔方陣を作り出していた。
その影響で青空は虹のような七色に成り代わって、地上の景色を一変させる。
たった一言の影響で、コレ。けれど詠唱はまだ続くらしい。
「これすなわち、如何なる加護を以てしても、我が攻めを守ること能わず」
理解できない難しい言葉なのに、当たり前のようにスラスラと言えてしまう。
そして呪文の効果は空に伸びた魔方陣をパズルのようにカシャカシャ動かしながら、同時に神様の杖さえ変化させていく。
それは、剣だった。
細長かった銀色の杖が鋼の刃と成り、まるで俺が剣士になったかのような錯覚を覚えさせる。
そしてこんな状態になっても、まだ言葉は終わらない。
「主は裁きて、我は断つ。向ける刃は、主が作りし絶対なる法則」
唱え続けていく内に、剣は己の存在を誇示するように極彩の輝きを帯びていく。
燃え盛る、と言っても良い。
【終盤だ、クロー。扱いには気を付けろよ、その威力は『あらゆる物を切り裂く』ことを可能とするものだ。だが一歩間違えれば結界ではなく、我ら周囲を切り裂くぞ】
神様の忠告に黙って頷く。
というか、それしかできない。俺は今、人生で最も集中して作業している。
人の力を超えた現象というヤツが、それ以外の動作を許してくれない。
だから、ただ紡ぐ。
「――これ、すなわち『神域による加護の断絶』」
刹那、何処から沸いたのか大量の水が剣の刃を包み込む。
直感的に完成したのだと悟った。
言い終えた頃には、百メートルを全力疾走したように息が荒くなっていた。
おかげで完成した喜びに浸る余裕もなく、目的だけを見据えるしか術もない。
しかし。
「これがデミウルゴスの権能ですか。邪神ながらも、素晴らしい輝きですね。何より、まさか術者が無事なまま成功するとは予想外だ。これならば相手にとって不足無し。おかげで、楽しみが出来ました」
……その言葉を放った人物、セレネ将軍を一瞬だけ意識してしまった。
もしこのまま、彼女に攻撃を向けたなら、と。
けれど、それは余計な感情だ。なのでポイッと捨てた。
「俺は、間違える気はありません。これで、一歩前進です」
剣の振りかざす先は、前人未踏を誇った無敵の結界。
神秘に覆われたソレに向かって、俺は今ある力の全てを振り絞って振り下ろした。
――そして。
まず訪れたのは、幾千のガラスが壊れたような粉砕音だった。
次に、剣から七色に輝く魔力が泉のように溢れ出し遺跡へと一斉に流れ込む。
その様相は、この場にある一切合切を飲み込もうと暴れている濁流のようだった。
だがそれも長く続かない。まるで、嵐が過ぎ去ったかのようだ。
十秒も経たずに水は蒸発したように消え、周囲の景色は平常を取り戻した。
……空に浮かぶ魔方陣は無く、神様は杖と姿を戻し、結界の膜も消えている。
「終わったの、か?」
状況を把握したイーシュさん達も、徐々に落ち着き始めていた。
そんな風に分析している最中、元に戻った神様が俺に話しかけてくる。
【正直、驚いた。我も手加減していたとは言え、信仰もない人間がここまで自我を失う苦痛に耐えるとはな。まともな人間なら、発狂している。そう言う意味では、貴様は貴重な存在だろうよ】
「それはどうも、ありがとうございます」
【褒めてなどいない。親切心はこれきりだ、クロー。我は奇跡の安売りなど御免だ、何度も使えるとは思うな。何より神の加護とは個人の武力にあらず。決して、神の権能を欲望に向けるなよ。廃人になりたくなければな】
「……気を付けます」
多分、俺が剣を持ったままセレネ将軍に殺意を向けたことを言っているのだろう。
遠回しな注意だが、察するに刃物を人に向けるなという感じに違いない。
「敵を倒すなら魔法で、と言いたいのですね?」
【いや、違うが】
「…………」
まるで不正解だと言われた気分だが、今は忘れよう。
これから集中すべきは、結界が解けた遺跡の事だ。
「さて。楽しみですね、何が待ち構えているのか」
むしろ、何もない訳がないと。
そう信じながら、俺は遺跡の内部へと第一歩を踏み出した。