間違いの本性
会場内にも多少なりとも食事するところはあるが、何分、すごい混みようなのでオレは外にあるコンビニで菓子パンと紙パックのコーヒーを買い、近くにあったベンチに腰かける。
「はぁ……」
コーヒーにストローを差し、一口すすったところでため息を吐く。
辛かった……
なにもしないだけでこんなに苦痛を受けるのは、生まれて初めてかもしれない。後半もあんな状況の中で過ごさなきゃいけないのか……
がっくりと項垂れながら、無心でパンにかじりつく。
「ちょっといいかしら?」
すると、そんなオレに誰かが話しかけてきた。
「……?」
虚ろな目で頭をあげるとそこには見知らぬ女性が。
彼女はコートにジーンズという格好で、眼鏡をかけていた。見た目からして20代後半だろうか。結構な美人だった。
「あなた、あの会場にいたわよね?」
女性は先程前、オレがいた冬コミの会場を指差した。
「いましたけど……?何で知ってるんですか?」
その問いかけと同時に女性はオレの隣に腰かけた。隣にこられた瞬間、オレのつむじが少しだけ痒くなった。
「私もあそこにいたのよ。好きな作家さんがいてね。そしたら、たまたまあなたを見かけて」
「そう……なんですか」
好きな作家か。意外だな。同人誌とか興味ないような感じなのに。むしろ、嫌ってます。って言ってそうなくらいだ。
「それでアタシに何か用ですか?」
「いや、別に用ってほどじゃないんだけどね。見かけたときになんか疲れてるように見えたから少し気になって」
「あ、ああ、すいません。ちょっと気疲れすることがあって……」
オレは苦笑しながら、頭を下げた。
まさかストーカーから守るために見張ってました。なんて言えないしな。ましてや、初対面なのに。
「そう。その疲れることってもしかして……誰かをストーカーから守るためとか……!」
その言葉と同時に女性は左手にギラリと光る何かを握っており、オレ目掛けて振りかざしてきた。