間違いのさらなる先。その2
週末。
オレは大きめのバックを肩に抱え、ゆめちゃんのマンションへと来ていた。
そして、教えてもらった暗証番号をエントランスで打ち込み、ゆめちゃんの住んでいる部屋へとエレベーターで向かい、ドアの横のインターホンを押す。
するとほんの少しのあと、ガチャっとドアが開いた。
「……」
だが、なぜかドアを外が見えるくらい狭く開けたまま、ゆめちゃんはこっちを薄目でじっと見てくる。
「ほんとにとも姉?」
そして、そんなことを聞いてくる。
「ほんとだよ……っていうか、漫画じゃないんだから、変装とかそんなのできないでしょ……」
某怪盗漫画なら可能だと思うけど、さすがに現実では無理だ。
「それはわかってるんだけどさ、念には念をというか、用心に越したことはないからさ……」
ため息を軽く吐きながら、ゆめちゃんはようやく中に入れるくらいにドアを開けてくれた。
「この様子じゃ結構深刻みたいだね」
靴を丁寧に揃えた後、オレは部屋の中へ入りながら、そう聞いた。
「そうなの……最近じゃ家から出た瞬間から見られてる気がして……」
暗い表情でゆめちゃんはそう言った。
「オレも経験あるから分かるよ……でも、オレが来たからには少しは安心してね」
「うん!とも姉ありがとう!!」
とびっきりの笑顔で面と向かってお礼を言われ、オレは少しだけ恥ずかしくなった。やっぱ、ゆめちゃんは可愛い。オトコだけど、時々忘れてしまいそうになる。
オレは冬コミが終わるまで間、ゆめちゃんの家に泊まることにした。
というのも、この前の電話で相談されたのだが、ゆめちゃんは最近ストーカー被害にあっているらしいのだ。
どうやら、去年の夏コミのおかげでネットでもゆめちゃんはかなりの有名人になったらしくて、そのせいではないかと本人は言っていた。
姿は分からず、いつも視線だけを感じるらしく、そんなもんだからオレの時もそうだったが、警察も中々介入できないと言われたそうだ。
そこでゆめちゃんは、かつてメイド時代に犯人を撃退したことのあるオレに頼み込んできたというわけだ。
オレがストーカーに襲われそうになったときは、腰が抜けて立ち上がれないくらいの失態をおかしてしまったが、今回は違う。誰かを守るという使命があれば、自ずと力が入る。
ゆめちゃんには同じ思いをしてほしくない。だから、オレは二つ返事でここに来たのだ。
ちなみに格好はいつも通り、女装したままだ。ゆめちゃんの家にオトコがきた!とストーカーが勘違いして、事が大きくならないようにするためだ。




