スターフェスティバル
今日は7月7日。
そう七夕だ。
街の至る所には飾り付けがしてあり、屋台もいくつか出ていた。
通りすがる人の中には浴衣を着ている人もいてこのお祭りを心から楽しんでいるようだった。
今日が休日ということで会社も休み。
とはいえ、特にすることがなかったオレはそんな光景を眺めながら街をブラブラと歩いていた。
時刻がちょうど午後の6時になった時だった。
そろそろ夕食の買い物でもして帰ろうかな。
そう思っていた時だった。
道の真ん中に女の子が立っている。
見た目的には6歳くらい。
真っ白なワンピースと麦わら帽子をかぶっていた。
しかし、どこか妙な違和感を感じた。
結局、その違和感の正体はわからないまま、別の疑問が頭をよぎった。
親御さんがいない……?
女の子の近くにはそれらしき人物はいない。
にも関わらず、女の子は泣くことも声を出すこともせず、ただ、そこにジッと立っているだけだった。
すれ違う人もまるで誰もいないかのように女の子を無視している。
さすがにあんな小さな子を一人ぼっちさせて平気でいられるほど、オレは腐ってはいなかった。
女の子の前まで進み、膝を崩して目線を同じ位置に合わせる。
「お姉ちゃん、どうしたの?お母さんかお父さんは?」
オレの問いかけに対し、女の子は目をパチクリさせた。
そして。
「私が見えるの……?」
と、一言。
「え…?」
その問いかけに対して今度はオレが目をパチクリさせる番だった。
「う、うん。見えてるよ?」
え、何々?
もしかしてこの子、幽霊とか?
ま、まっさかー……
こんなにくっきり、はっきり見える幽霊がいるはずないよな……
オレは慌てた両目をこすった。
そこには先ほどと変わらぬ光景が。
よ、よし。大丈夫。
そう自分に言い聞かせて再び、女の子へと視線を向ける。
「それより親御さんはどうしたの?」
「お父さんとお母さん、どっかに行っちゃったんだ……」
オレの言葉に女の子はシュンとした表情に変わり、首を下に下げた。
「どっか行ったって……」
いや、もしかしたら何処かではぐれてこの子を探し回っているのかもしれない。
だったら、近くの交番に行けば合流できるかもしれない。
「じゃあ、とりあえずお姉ちゃんとちょっと歩こっか」
そう言ってオレは右手を差し出す。
少しの間、オレの差し出した手を見ていた女の子だったが、やがてニパッと明るい笑みを浮かべてオレの手を握ってきた。
「そうですか。ありがとうございました」
警官に頭を下げて、お礼を言ってから交番を去る。
女の子、この子の名前は胡桃ちゃんという名前だそうだ。
胡桃ちゃんと交番を歩き回って既に3軒目。
それらしき、相談はないというのが共通しての答えだった。
「お母さん、見つかんないね」
「……」
オレの言葉に胡桃ちゃんは黙ったままだった。
やっぱり不安なんだろうな。
無理もない。まだ小さい子供なんだから。
そんなことを考えていた時だった。
ぐう~……
胡桃ちゃんのお腹が盛大に鳴った。
その音を聞いてオレ達は目を見合わせる。
胡桃ちゃんは少し恥ずかしそうにして俯いてしまった。
オレは咄嗟に腕時計で時間を確認した。
時刻は既に7時をとうに過ぎていた。
もうこんな時間か。
時間を確かめた途端、オレのお腹も空腹を激しく訴えてきた。
そろそろなんか食べないとな。
そうだ。
ちょうど、屋台が近くに出ている。
そこで腹ごしらえしよう。
「アタシもお腹空いてきたし、あそこでなんか食べよっか?」
オレは左手の人差し指で屋台の方を指差す。
オレの指先が示す場所を目で追った胡桃ちゃんはすぐさま、笑顔になり、オレと繋いでいる手をグッと引っ張ると走り出していった。
2人で屋台のたこ焼きや焼きそば、わたあめ、カステラなどを食べたあと、射的や金魚すくいをして遊んだ。
胡桃ちゃんはとてもはしゃいでいた。
何かある度に目を輝かせている。
本当に楽しそうだった。
思わず、こちらも笑顔になる。
だが時折、悲しげな表情を見せた。
オレはそれが少しだけ気になった。
やがて時間もだいぶ過ぎた頃、屋台の近くに笹が置いてあり、その付近のテーブルの上にはペンと紙も置いてあった。
そっか、七夕と言えば短冊だ。