間違いは、いずれバレる。その2
課長達の会議が終わり、その中の一人が加藤さんに呼ばれた。
呼ばれたのは最近、入ってきた新人だ……
遠巻きにその様子を伺う。
加藤さんは今度から発注などの雑務は担当の人間が行うからと、その新人にくぎを刺していた。
早めに原因がわかって良かった……
オレは心の中で安堵しつつ、自分の仕事をこなそうとイスから立ち上がった。
そして昼休み。
カバンからお弁当を取りだし、包みを取り、早速手をつけようとお箸を持ったときだった。
「河野さん」
後ろから誰かに呼ばれた。
あれ……あの後から見なくなったからてっきり本社に帰ったと思ったんだけどな。というのも、オレを呼んだのは加藤さんだった。
「どうかしましたか?」
イスから立ち上がり、加藤さんの元へと歩いていく。
「この近くでご飯食べれるところとかないかしら?」
恥ずかしそうに頬をかく。
あ、そっか。本社の人ならこの辺りには普通こないよな。
「少し離れたところに喫茶店がありますよ。良かったら一緒に行きましょうか?」
「え、でも、あなた、お弁当持ってきているじゃない?」
加藤さんはオレのデスクの上にあるお弁当箱へと目線を動かした。
「大丈夫ですよ。お弁当はいつでも食べれるので、晩御飯にでもしますよ」
加藤さんに軽く笑ってみせる。
「そう……じゃあお言葉に甘えようかしら」
オレの笑いに誘われたのか、加藤さんは頬をほんの少し緩めて笑った。
あれ?
その笑顔を見て少しだけ目を見開く。
初めて会ったときも思ったけど、やっぱりどこかで会ってる気が……気のせいかな……
少しだけもやっとしたものを抱えたまま、オレ達は会社を出た。
「それでさ、まじでそれはないなって思ったわけよ……」
「アハハ!確かに!!」
会社から少し離れた喫茶店で二人仲良く談笑する。
しかし、見た目からは想像付かなかったけど、加藤さんは意外と話せる人なんだな。上司の悪口とかはっきり言うし、ちょっと誤解してたかも……
「あ、そろそろ休憩時間も終わりね。ちょっと化粧直してくるわ」
言って加藤さんは席を立ち、トイレの方へと向かっていった。
あ……!一応(見た目は)女性なんだし、オレも一緒に行った方がよかったかな?
いや、一緒に席を立つと周りから怪しまれそうだし、あとで行くだけ行っておくか。
そう考え再び、ソファにもたれ掛かったとき、加藤さんがテーブルに置いていった携帯のバイブが鳴った。
その音に反応し、反射的に顔を向ける。
携帯にはどうやら友達からであろうメッセージが表示されていた。
「雪恵の予定っていつ空いてる?」
加藤さんの下の名前は雪恵って言うのか。
あれ、待てよ?
加藤、雪恵……あ!!もしかして……!
「ごめんね、お待たせ」
その直後、トイレから戻ってきた加藤さんがソファに座る。
「あ、携帯鳴ってましたよ。で、すいません。アタシも化粧直してきます……」
言いながら入れ替わるように、そそくさと席を立ち、トイレへと向かう。
「はぁ……」
トイレに入って早々、洗面所に両手を付きながら、ため息を吐く。
まさか、こんなとこで再会するなんて。
彼女……加藤さんとは中学の時の同級生だった。
特別に何かがあったわけではないが、なんか気まずい……
にしても、随分見た目、変わったな。
中学の時はメガネもかけてなくて、目立たないイメージだったのに、喋ってみると意外と気さくだったし。
って見た目が変わってるのはこっちも同じか……
むしろ、オレは性別まで偽ってるくらいだし……
なんか無駄にへこむ……
ま、まぁ、とにかく経費の謎も解けたし、彼女もそろそろ本社に戻るはず。
あとはこのまま、何事もなく終われば大丈夫だよな。