間違いをとことん進む
年末になり、今年もあとわずか数日となったある日の休日。
「………」
オレはベッドの上で身体を休める。
う~、身体ダル……
頭もなんかガンガンするし、こりゃ風邪ひいたな……
ベッドから起き上がり、のそのそとリビングまで向かう。
救急箱の中に体温計あったよな。
しかし、ここ数年、風邪なんてひいてなかったのに完全に油断したよ。
なんとかリビングにたどり着き、救急箱から体温計を取り出し、脇に挟む。
その10秒後、アラームが鳴る。
脇から体温計を外し、表示されている数値を見てみる。
37.8℃
ああ、やっぱり。
風邪薬がないかと救急箱をゴソゴソと探るが、目当ての物は何一つなかった。
仕方ない。薬局行くしかないか……
ちなみに病院には行かない。というか行けない。
何故ならば保険証が河野 智花で作られているから。
診察の時に服巡ったら、オトコだってバレるからな……
外に出られる程度の格好に着替え、徒歩数分のところにある薬局で薬などめぼしいものを買う。
「……」
ああ、ダメだ。ちょっと歩いただけで頭がクラクラする。
早く帰って寝よう……
半ば意識朦朧になりながら、なんとか家にたどり着き、買ってきた薬を飲んでから、額に冷えピタを貼り、すぐさまベッドに潜り込む。
ベッドに入ってすぐに薬の副作用からか猛烈な眠気が襲ってき、オレの意識は瞬く間に闇の中へと沈んでいった。
「んん……」
やがて、目を覚ます。
どのくらい時間が経ったのか、突然、リビングから聞こえてくる物音に目が覚めた。
なんだ?
あれ、なんかいい匂いが。
漂ってくる匂いに鼻をクンクンとすする。
あ、そういえば帰ってきてから玄関のカギ、閉めてなかったかも。
まさか泥棒……なんてことはないよな……
慌ててベッドから飛び起き、忍び足でリビングへ向かう。
そして深呼吸をしたのち、恐る恐るリビングの扉を開けた。
すると、そこには。
「あ、ごめんね。起こしちゃった?」
慣れた手つきで台所でエプロンを着け、何かを作っている侑芽ちゃんだった。
「いやぁ、最初に来たのがアタシで良かったよ。これで強盗とかに入られたら終わりだよ?」
出来上がったばかりのお粥を寝室まで運んでくれた侑芽ちゃんから、クギを刺される。
「頭ボーッととしてて、つい面目ない……」
ベッドに横になりながら、とりあえず謝る。
「それにしてもなんで侑芽ちゃんがここに?」
来てくれたのは非常に有難いが、気になるのはそこだ。
「なんでって今日、2人で忘年会やろうって言ってたじゃん?携帯に連絡しても、ピンポン押しても返事無くて何かあったのかなって思って中に入ったら苦しそうに寝てたからさ」
「あ」
そういえばそんな約束してたかも。
侑芽ちゃんには悪いけど、すっかり忘れてた…
「ごめんね。せっかく約束してたのにこんなことになっちゃって」
全くこんなタイミングの悪い時に風邪をひいてしまうなんて。自分の身体が恨めしい。
「いいって、別に。それに病気の時って家にいるのが自分1人だけだとすごい寂しいから、ある意味、タイミング良かったかも」
食べやすいように小皿にお粥をよそいながら、笑って言ってくれる侑芽ちゃん。
「侑芽ちゃん……」
良い子だなぁ。それにお粥も美味しそうだし、きっと良いお嫁さんに………
いや、違うか。お婿さんか。
侑芽ちゃんの性別をうっかり忘れるところだった。
「ふわぁぁ」
侑芽ちゃんの作ってくれたお粥を食べ終わると、ほどよい満腹感からか早くも眠気が襲ってきた。
「ごめん、侑芽ちゃん。ちょっと寝るね……」
そう言うと返事も聞かず、オレはたちまち夢の中へと沈んでいった。




