間違いに終わりなし。その4
5分後。
衣装に着替え、全員が試着室から出てくる。
ぜ、前言撤回……全然楽勝じゃねぇ!!
な、なんだよ、このお腹周りのスースー感…!!
なんでこんなに短いんだよ!
ビスチェって女性ものの服があるが、あれより丈が短いぞ……!
しかも、スカートもやたら短いし……!
水着の上から着てるとはいえ、恥ずかしいものは恥ずかしい…
オレは両手で左右の肩を抱き、上半身を隠すようにしながらゆっくりとステージの中央へと進んでいった。
チラッと他の人達の服装を見てみるが、オレと同様にかなり衣装が短かった。
なのに、肌を露出することになんのためらいもないようで、観客の声援に応えるようにポーズを決めたりしている。
これがホンモノのオンナとニセモノ(?)の違いなのか……?
よくよく考えれば女性の水着もかなり露出あるよな。だから露出に慣れてるのかな。
そうであればオレも海パン履いてたらから慣れてるはずなんだけどな……
とかなんとか色々と頭の中でグルグルと考えてしまう。
早く審査終わってくれ~!
と、心の中で切に願うが、こういう願いは大抵、神には通じない。
オレが相変わらず、恥ずかし気にモジモジしていると、司会進行のスタッフがマイクを持ってステージに現れた。そして驚きの一言を。
「さて、皆さん、出揃ったところで最後の逆転チャンスを皆さんに!ということで、アピールタイムといきましょう!!!」
あ、アピールタイム~!!?
なんつーはた迷惑なことを!!
オレは一刻も早く元の服(海パン)に着替えたいのに~!!
ガックリと肩を落としながらゆっくりと時が過ぎていく。
目の前では、3組目の女性がアピール中。
みんな、それぞれ魅惑的な言葉で観客を魅了している。
はぁ、アピールってなにを言えばいいんだ……
後ろを振り向き、香織さんの方をチラッと見るとグッと親指を立てられた。
全てはお前にかかってる。頑張ってこい。もし、ヘマしたらどうなるかわかってんだろうな?
って意味かな。
はぁ、全く逃げ場がない……
まるで覆ることのない判決が下った死刑囚のようにオレはその場でうつむくことしかできなかった。
やがて、運命の時が。
「それでは最後の方にアピールしてもらいましょう!!」
司会進行のスタッフがやたら元気良く、張り切っている。
今はその元気を分けてほしいよ……
と、心の中で思いながらゆっくりと中央へ歩み寄る。
ううう……!
中央へ来た途端、急に緊張が走る。
み、みんながオレを見ている。
てかこんな姿のオレを見ないで!恥ずかしい!
は、早く適当になんか言って戻ろう!
そう思って口を動かそうとするものの。
あ、あれ?
ヤバイ、恥ずかしさと緊張し過ぎで口がパクパク動くだけで何も言葉が出ない!
このままじゃ、なんのアピールもできないまま、戻ることになる。
そうなれば、香織さんに何をされるかわかったもんじゃない!
なんでもいい、早く言うんだ!!
すると、ゆっくりと口が動いた。頬を染めてモジモジしながら。
「や、優しくして下さい……」
と、一言。
えっ……何言ってんだ、オレ……
優しくって何を……
そう思った瞬間。
「「うおおおおーーー!!」」
観客(オトコ共)の声が湧き上がる。
ええええええー??!!
なんでこんなに湧き上がんの!!?
オレのその疑問をステージのすぐ下にいるオトコ達が説明してくれた。
(まさにこのシュチュエーションは、放課後の部室…憧れの先輩と二人っきりで…初めての行為に戸惑う彼女……そしてそこで始まる二人のランデブー)
って、い、今の一瞬でそこまで考えられるのか!!?
オトコの妄想力ってすごいな。
って呑気に感心してる場合じゃない!!
こんなに盛り上がって、投票は……!
「優勝はE組のお二人!!おめでとうございます!」
ステージ上にいるオレ達に向けて、スタッフ一同と観客から拍手が送られる。
「…………」
しかし、喜びどころかオレの心は沈みっぱなしだった。
や……やってしまった。
優勝の商品は海外旅行券。
普通なら嬉しいはずなんだけど。
目的はそれじゃないんだよ……
香織さんも、さっきから一切口を開かないし……
あとで何をされるのか……怖すぎる!
オレはあまりの恐怖にステージにいる間、ずっと、うつむいてブルブルと震えていた。
プールの奥まったところにあるベンチに二人揃って座る。
ちなみに今のオレの服装は女性もののセパレートの水着のままである。
本当は元の海パンに戻したいんだけど、この状況で「着替えてきます」なんて言えないし……
「………」
っていうかこの無言が辛い!
せめて大声で怒鳴るなりしてくれたらまだ楽なんだけど……
「ねぇ……」
そんなことを思っていると香織さんがようやく口を開いた。
「は、は、は、はいぃぃ?!」
背筋をピンと伸ばし、姿勢を正す。
キタ……ああ、心臓がものすごくドクンドクン言ってる。
「貰った海外旅行ってさ、二人一組だったよね」
「は、はい、そうです……」
「じゃあ一緒に行っていい?」
「べ、別にいいですけど……」
「そっか、よかった」
へ……?
そんだけ??
「あの怒ってないんですか……?」
拍子抜けしてしまい、思わず、聞いてしまう。
「怒るって何に?あ、もしかして優勝しちゃったこと、後悔してる?」
「はい、さっきから香織さん、ずっと黙ってたんでそれで怒ってるんじゃないかって思って……」
そのせいでどれだけ怯えてることか。
「別に怒ってないって。構えすぎだよ」
アハハ。と笑う香織さん。
な、なんだ、無駄に焦っちゃったよ。
あれ?じゃあなんでずっと黙ってたんだ?
「あの」
その理由を聞こうと声をかけようとしたが、香織さんはベンチからスッと立ち上がった。
「それじゃ、そろそろ出ようか」
「え?まだ6時過ぎですよ?お互い明日も休みだから夜まで居ようって言ってませんでした?」
「早くしないとお店閉まっちゃうでしょ」
あれ……な、なんか雰囲気がさっきと違うような……
「お、お店って?」
恐る恐る聞いてみる。
「洋服屋さんに決まってるでしょ」
表情を全く変えずに口を開く香織さん。
「よ、洋服屋さんって……ちなみに誰の服を買うつもりですか?も、もちろん香織さんが着る服ですよね?」
「もちろん」
「で、ですよね。あ、もちろん買い物には付き合いますよ……」
よかった。なんで急に洋服屋に行きたくなったのかよくわからないけど、この際、あまり気にしないようにしよう。
「あなたが着る服に決まってるでしょ……」
ホッと胸を撫で下ろしたオレに香織さんがポンと肩を叩く。
「えっ……」
「とことん付き合ってもらうから。イイお店知ってるのよ。ふ、フフフフ……」
「か、香織さん?」
なんだこの怪しい笑みは?
ってこの怪しい笑みは、まさかあの時の……
「逃がさないわよ……」
ガシっとオレの両肩を掴み、顔を覗き込んでくる。
「ひ、ヒィィ……」
背筋に悪寒が……
てか、め、目が怖すぎる!
それにやっぱり怒ってた
この後、オレは香織さんに連れられるまま、洋服屋さんに何軒も連れ回された。
もちろん女性ものの。
挙句の果てには、下着も選ばされるハメに。
何度か反論しようとしたが、笑顔なのに笑ってない顔の前には何も言えなかった。
これからしばらく香織さんには、逆らえない日々が続くんだろうか。
はぁ、頭が痛い……




