間違いに終わりなし。その3
ついに時刻は4時となった。ミスコンの参加者は20組40名。
トーナメント制の予選を2回繰り返し、残った上位5組で最終戦を行う。
また上位5組には何かしらの賞品が出るらしい。
「さ、がんばろ!」
ステージの袖でドン!と背中を押してくる香織さん。
「はい……」
ついにきてしまった。この時が。できることなら、今すぐこの場から消えてしまいたい。というか、とっとと負けてしまいたい。
そう思いながら、挑むが、無惨にも1回戦を勝ち進む。
「……」
ステージの袖で浮かない顔のオレ。
オトコなのに女性に方便とはいえ、ミスコンに勝つなんて……
しかもまだ接戦なら良かったのだが、30:70くらいで割と圧勝ペースなのだから、もう……
ステージの袖からは香織さんの笑い声がクスクスと聞こえてくるし……
やっぱりロクなもんじゃない!
心の中の心境とは裏腹に順調に2回戦も勝ち上がり、いよいよ最終戦に。
しかし、オトコが女性に連続で勝つ。なんて問題は今は置いといて真の問題はここからだ。
この最終戦では準優勝を狙わなければいけない。
圧倒的でなく、他の組との接戦になる程度の絶妙なバランスが必要なのである。
だが、最終戦では今までの1対1と違い、一つのお題に対して5人同時にステージに出る。
そして投票が終わり次第、ペアのもう1人と交代し、別のお題を出され、5人同時にステージに出て観客から投票される。
つまり今までと違い、投票が全く入らない、あるいは投票が大部分入ってくるなどのイレギュラーも発生する。
香織さんもそれが分かっているのか、いつになく真剣な表情だった。
司会進行のスタッフによる各組の紹介が終わったところで、まずは1回目のお題が。
そのお題とは。
「CA」
キャビンアテンダントか。
香織さんに目配せし、アイコンタクトを取る。
香織さんもオレの意図が分かったのか無言でコクリと頷くと、スッと前に歩み出た。
童顔のオレがCAの衣装を着るより、大人っぽい香織さんが着た方が票を取れると思ったからだ。
ま、別に着ても良かったんだけどな……
って何考えてんだ、オレ!!
すっかり雰囲気に毒されてしまった……そして、いつのまにか真剣にミスコンに出てるし……
それぞれのペアから衣装を着る代表が決まり、ステージに用意された個別の試着室へと入っていく。
そして5分後。
シャッと仕切られていたカーテンが同時に開き、中からCAの衣装に着替えた人達が出てくる。
「おお……」
と、思わず声が漏れてしまう。
衣装が違うだけでこんなに雰囲気が変わるんだな。なんか大人の色気が出てる気がする。
その中でもオレの目を引くのは香織さんだった。
普段はおちゃらけてるけど、こうして見ると大人なんだよな。
何気にスタイルもいいし。
観客も歓声を上げながらステージ上のCAコスの人達を見ている。
せめて20票くらい取れれば……
と、心の中で願う。
しかし、その願いも虚しく、パネルに表示された数字は。
17:21:25:20:17。
オレ達の組はE。つまり5番目だ。
「17票か……」
思わず、そう呟いてしまう。
決して低くはない。が、有利なわけでもない。
次のお題にもよるが、オレにとって不利なお題はたくさんある。
だからこそ、なるべくここで票を取っときたかったんだけど……
「ごめん、もうちょっとイケると思ったんだけど……」
審査が終わり、ステージの中央からステージの端にいるオレの隣に戻ってくるなり、香織さんはそう言った。
「まだ負けたわけじゃないですよ」
香織さんの肩をポンと叩き、安心させるように微笑む。
そうだ。まだ負けたわけじゃない。
オレ次第で逆転できるんだ。
それぞれペアの相方が衣装を脱ぎ、再び水着に戻ったところで間髪入れず、2つめのお題が出される。
なるべくハードルの低いやつでお願い……!
心の中で祈る。
が、お題が発表された瞬間、思わず、顔をしかめてしまった。
どうリアクションしたら良いのかわからないのだ。
そのお題とは。
「チアリーダー」
「ち、チアリーダーって……」
あれだよな?
漫画とかアニメによく出てくるミニスカ履いて手にポンポン持って運動部を応援する女の子……
って、つまり……
あの衣装着ろってことか!!
このお題には他の参加者も意外というか想像してなかったらしくて、困惑している様子だった。
ん、でもなんとかなりそうじゃないか?
これなら童顔のオレでも十分勝負できるだろうし。
衣装的には多少恥ずかしいと思うが、着れないわけじゃないし。
案外、準優勝を狙うなんて楽勝かも。