間違いに終わりなし。その2
「なるほど、どうしても欲しい賞品があると……」
特設ステージから少し離れたベンチに2人向かいあって座る。
「そうなの。海外のブランドが出してる化粧品なんだけどさ、ものっすごく値段が高くて滅多に買えないんだけど……」
グッと拳を握る香織さん。
「それってどの部門で手に入るんですか?」
男女部門ならなんとかなるかも知れないけど、ラブ度対決って名前が不安しか感じさせないな…
「女性部門……」
「たしか出場資格って2人1組ですよね。それなら諦めるしか……」
諦めるしかない。そう言いきる前に。
「ふ、ふふふふふ……」
香織さんが怪しい笑みを漏らす。
「か、香織さん……?!」
ど、どうしたんだ、いきなり……
そう思った瞬間。
香織さんが手をワキワキさせて迫ってきた。
「あ、あの~、香織さん……?なんで手をワキワキさせてるんですか?そしてなぜ、ゆっくり近づいてくるんですか……?」
イスから立ち上がり、たまらず後ずさり。
「大丈夫、大丈夫、痛くしないから……」
嘘だ!!だってこの人!完全に目がイッテル!!!!
って、そんなこと思ってる場合じゃ……
しかし、時すでに遅し。
「つっかまーえた……」
虚ろな目をした香織さんの手に捕まる。
「ひっ……ひっ、いや~!!!!」
真昼間のプールに断末魔の叫びが響き渡った。
そして10分後。
「うっ、うう……」
泣くしかなかった。
「うんうん、やっぱり似合ってたな」
腕を組み、満足気に頷く香織さん。
「に、似合いたくないですよ!こんな、こんな……女性ものの水着なんて!!」
顔を真っ赤にしながら抗議する。
そう。オレは今、女性ものの水着を着ている。
つまり香織さんはオレを見た目だけ、「オンナ」にしたわけだ。
今のオレはセパレートタイプの水着を着ていて、下は性別がバレないように女装用のサポーターを履いて、その上から水着を着ている。
女装用のサポーターなんてあるんだ……と思い、びっくりしたが、それ以上にびっくりしたのは香織さんがそれを持っていたことである。
「必要になるかなと思って」って言ってたけど、まさかコンテストなんて無くても元からオレに女性ものの水着を着せるつもりだったんじゃ…と勘ぐってしまう。
ちなみに水着は貸し出してるやつを借り、ウィッグは無しで化粧も時間がなかったのでナチュラルメイクに近いにも関わらず、未だ誰にも怪しまれていない。
オトコとしてこれは泣くべきところだよな、絶対に……
「さぁて準備も整ったし、さっさと受付済ませてくるね」
香織さんは、意気揚々と受付まで向かっていく。
「もう好きにして下さい……」
床にへこたれ、やさぐれMAXのオレ。
最悪だよ、今日くらいは女装無しで思う存分、遊べると思ったのに……
やっぱり強引にでも断れば良かった……
でも、そうやって断ればきっと香織さんはものすごくがっかりすんだろうな。
女装をしてくれないオレに対してなのか、それとも賞品をゲットできないとわかったことへのがっかりなのか、微妙なところではあるけど……
ああ平和な時よ、さらば……
心の中で嘆く。
エントリーをギリギリで済ませ、会場から少し離れたテーブル席に二人揃って座る。
女性部門の開始は4時からで、今は1時30分過ぎ。
今は男性部門の対決を行っている。
腕自慢という名目だったから腕相撲とか腕に関する競技で対決するのかと思ったら、なんと意外なことに料理対決だった。
エントリーしたのは25組だったが、内容を知ってから棄権したのが18組もいたので7組になった。
観覧希望のお客さんの中からランダムで10名選び、それぞれ得点として1点を持っていて、作った料理を食べてもらい、点数の高かった上位3組に賞品が送られるらしい。
続いて2時30分から始まる男女部門の対決はラブ部門。
それぞれ得点の違う2つのお題を出され、制限時間5分の中でより高得点を取った上位2組に賞品が送られるらしい。
例えば。
例)ポッキーを仲良く食べる時。
1.お互い1本ずつ食べる(1点)
2.左右から食べ合って最終的にキス(3点)
例)相手の頬にご飯粒が付いている。
1.指で取ってそのまま口にイン(1点)
2.直接、口で取ってあげる(3点)
とまぁこんな具合だ。
そしてこれこそがラブ部門の見所というべきか、答えるだけなら簡単だが、出されたお題への解答として実際にその行動をやらなければならない。
つまり、周りに大勢のギャラリーがいる中、賞品ゲットのために、恥を覚悟でラブい行動をするのか、それとも賞品はゲットできずとも、安全な方を選ぶのか、ギャラリーは興味津々といった様子で見守っている。
時折、大歓声が湧き上がってくるのでラブい行動をしてるカップルがいるんだなぁ……と感心してしまう。
香織さんがこれに出よって言わなくて本当に良かったと心底思う。
少しもったいない気もするが……
そして最後に始まる女性部門の対決はミスコン。
と言ってもミスコンなんて言ってるのは方便で実際の内容は、コスプレ対決だった。
1対1の対決を2回行い、それぞれお題として出される衣装を着る。
そしてどちらがより衣装を着こなしているか、観客100人に判定してもらい、最終的に合計得点の高かった方が勝ちというシステム。
ちなみに香織さんが欲しがっている化粧品は準優勝の賞品だった。
優勝は無理かもしれないけど、準優勝くらいならイケるかもしれないなと意気込む。
時刻は3時50分。
今は、男女部門の後片付けと女性部門対決のために会場の小道具の入れ替えが行われている。
それをのんびり見ているはずだったのだが……
イスに座りながらガックリと肩を落とすオレと、その横でバンバンとテーブルを叩きながら隠し笑いを堪え切れてない香織さんがいた。
「ハッ……ヒィ……笑い過ぎて脇腹痛い……」
言いながら香織さんは脇腹を抑える。
「笑い過ぎですよ……」
笑い転げてる目の前の人物をムッと睨む。
「いや、だってさ……あ、あんだけナンパされるって中々ないよ……あ、だめ……思い出しただけで笑いが……」
「……」
そう。香織さんが笑っているのはそれが原因だった。
ここのテーブル席に座ってからというものの、オトコに頻繁にナンパされるのだ。
しかも、香織さん目当てではなく、オレ個人目当てで。
この後、コンテストに出場するから遊べないと断るとその後でもいいからと粘る輩もいて大変だった。
まぁそうなった時には香織さんが上手く断ってくれたから良かったけど……
でもなんでこんな目に……
「はぁ……」
全く泣きたい……




