表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/66

間違いに終わりなし

秋ももう終わりかけたある日、オレは都内にある大型温水プールにやってきていた。


「あー!プールなんて久々だわー!!」


まるで子供のように目を輝かせ、ケガをしないようにプールサイドで念入りにストレッチをしていく香織さん。

そう。今日、オレは香織さんと一緒にプールに来ていた。

なんでも最近、リニューアルオープンしたそうで割引券が付いたチラシが郵便受けに入っていて、それに興味を惹かれてやってきたというわけだ。


もちろん、プールといえば水着。

オレは女性用の水着を着て……いなかった。


まぁ、当たり前といえば当たり前である。

女装する必要なんて無いんだから。

着替えの時に香織さんが「一緒に来ないの?」なんて言ってきた時は、心底ガックリしたもんだ……


そもそも家を出る時から女装はしてなかった。

さすがにカワイイと定評のあるオレでも女装無しで女子更衣室に入るのは無理がある。

まぁ女装したところで、女子更衣室に入るつもりはさらさらないが……

リニューアルオープンしただけあってプールには人がかなり沢山いた。


しかも、チラシには入場券割引だけではなく、プール内にあるフード施設の割引もできることになっており、その影響もあってか、お昼どきになるとどこのフード施設も長蛇の列になっていた。


施設内にある時計を見ると時刻はPM0:24。

まだプールに来てからまだ1時間ほどしか経っていないが、そろそろお腹が空いてきた。

でもなぁ……


目の前にできている列をチラッと見やる。

この調子じゃ食べ物買うのに30分以上は、かかりそうだな。

しかし、香織さんもきっとお腹を空かせているはず。


ここはオトコのオレが行くべきか……

そう心で決めて列に並ぼうとすると。


「あ、ちょっと待って」


後ろから香織さんに呼び止められた。


「どうしました?」


動きを止め、香織さんの方に振り向く。


「そこらへんに座っててくれない?ちょっと取りに行くものがあってさ」


言いながら、人差し指で空いているテーブル席を指差す。


「財布ならオレ、持ってきますから払いますよ?」


プール利用者なら誰でも使用できる無料ロッカーの中に財布を入れてることを思い出す。


「いや、財布じゃなくてね。ま、とりあえず取ってくるから」


香織さんは苦笑しつつ、きびすを返し、更衣室へと戻って行った。


なんだろ?

とりあえず言われたとおり、空いているテーブル席に座り、待つこと1分ほど。


「お待たせ」


その声に顔を上げると香織さんが布に包まれた何かを手にぶら下げていた。


「おかえりなさい。って、その手に持ってるのは?」


「ふっふっふ……」


よくぞ聞いてくれた。と言わんばかりにニヤリと笑みを漏らす香織さん。


「それはね……これだぁー!!!」


盛大に声を上げると同時に布を解く。


「こ、これは!!」


お弁当?


「実はさ、ネットで食料の確保が大変だっていっぱい書いてたからさぁ。だったら作って持っていった方がいいかなって。お金と時間の節約にもなるし」


「か、香織さん……」


なんて気の利く人なんだ。

心の中でジーンと感動する。


「ま、まぁお弁当なんてあんまり作ったことないからさ…味の保証はできないけど……」


その言葉が恥ずかしいのか、頬をぽりぽりとかく。


「せっかく作ってきてくれたんです。例え不味くても完食しますよ」


香織さんに向かってニッコリと微笑む。


「……!!」


その瞬間、香織さんは慌てて目を逸らした。


あれ?

オレなんかおかしなこと言ったかな?

まぁいいや、それよりせっかく作ってくれたんだから早速食べよう!

頬張るようにオレはおかずを次々と口に運んでいった。


「ご馳走様でした!」


10分ほどで完食し、勢いよく手を合わせる。


「いやぁ、ものすごく美味しかったです」


「そう?だったら作ったかいがあったね……」


空になったお弁当箱を再び布で包みながら香織さんはそう言う。

さて、香織さんのおかげでお腹も落ち着いたし、一休みしたらまたプールに入ろうかな。お昼休憩で遊んでる人少ないし、思いっきり泳ぐチャンスだし。


そんなことを思いながら買ってきたジュースをぐびっと飲み、周りを見てみると少し離れたところで何やら人集りができていた。

なんだ?あれ?

気になったので香織さんと共にその人集りができている場所にやってきた。

そこには大きな特設ステージがあり、何か行われるのか専用のジャンパーを羽織ったスタッフさんが何人かいた。


「まもなく受付終了でーす!参加希望の方はお早めにーー!」


プラカードを掲げてスタッフさんが辺りを練り歩く。


なんの受付なんだろ?

そう思った時、足元に何かが落ちているのに気がついた。


「ん?」


これ、チラシだ。でもこんなところでチラシ?

疑問に感じてそのチラシを拾ってみる。

そこにはこう書かれていた。

何々、コンテストに出て優勝、準優勝で豪華賞品をGET?


2人1組のペアを作って出場か。

あ、男女のペアだけでなく、男性同士、女性同士でもいいのか。

男性部門、女性部門、男性部門でそれぞれ賞品が違うのか。

男性部門のコンテストは腕自慢対決、男女部門はラブ度対決…?


んで、女性部門は……ミスコンか。

掲載されてる賞品は確かに豪華だけど、オレ達には向いてないな。

そもそも男女でプールに来てるんだから出るとしても男女部門しかないし。


「香織さん、受付の正体、これでしたよ」


言って、持っていたチラシを香織さんに渡す。


「コンテスト?ふーん……」


受け取りながらチラシを眺めていく。

まぁ香織さんが参加しようなんて言うはずないよな。


と、思っていたその時。


「とも君!!」


香織さんが思いっきり腕を掴んできた。


「へ?」


あまりの力にびっくりする。

そして次の一言には、もっとびっくりした。


「これ、出よ……」


「え……」


えええええー!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ