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間違いという恐怖。その3

時間は過ぎて、お昼休み。

お弁当は作ってこなかったので、出勤前にコンビニで買ったパンとコーヒーを食べる。

ボーッとしながらモグモグと食べていると、デスクに置いていた携帯がブーと震えた。


メール……?

そう感じた瞬間、背中に悪寒が走る。

携帯のディスプレイには知らないアドレスが。

ドクンと心臓が脈打つ。

い、嫌……

恐怖に支配されそうになりながら、見なければいいのに、まるで操られているようにゆっくりとメールを開く。

そのメールには。


いま、他社からの乗り換えがオトク!!


め、メルマガ……?

な、なんだ……


「はぁ~……」


盛大に安堵の息を吐く。

良かった……

しかし、知らないアドレスにいちいち怯えてたら心臓が持たないぞ……

そう思っていたその時。


ブーブー


再び携帯が震える。


連続でバイブということは誰かから電話がかかってきている。

そしてディスプレイには。


非通知。


非通知……

絶対に電話に出るな。そうオレの脳が危険を感じている。

だけど、もし相手がストーカーなら一発ガツンと言ってやるチャンスかもしれない。

警察にも相談してるぞ!って言ってやればストーカー行為もしなくなるかもしれない!

オレはゴクリと喉を鳴らすと勇気を振り絞って電話に出た。


「も、もしもし……?」


少し間があって、スピーカーから。


「僕のケーキは美味しかった?」


「………!」


相手の声を聞いた瞬間、オレの背筋は凍った。

電話に出る前は何か言ってやろうと思っていたが、今は口はパクパクと動くだけで、声が出ない……

オレは震える手でなんとか携帯の通話を切った。


ああ、震えが止まらない……

両手で自分を抱きしめるようにしながらデスクの上に置いた携帯を見る。

メアドに続いて電話番号までバレてる………

もうどうすればいいんだ……


その後は、どうやって過ごしたのか覚えていない。

忘れようと思っても先ほどのやりとりが頭からこびりついて離れない。

電話をかけてきたのはオトコだった。

声の低さからそれはわかった。

ボイスチェンジャーのような変声機も使っていなかった。

でも聞いたことのない声だった。

ずっと、考え事をしているうちにいつの間にか退勤の時間になっていたので、イスからよろよろと立ち上がり、社内の階段を下っていく。

そして階段を降り、会社を出たところで誰かに肩を掴まれた。


「!!」


思わず、ビクッと肩を震わせる。


え、まさか……直接……?

血の気が一気に身体中から引いていくのを感じながら、まるでガチガチに錆びたロボットのようにゆっくりと後ろを振り向いてみると。

そこには。


「課長……?」


そして、思ってもみない言葉を放たれた。


「ありがとうございました……」


タクシーから降り、一礼するとタクシーはそのまま来た道を引き返して行った。

オレの顔色があまり良くないことに気づいた課長がわざわざタクシーを呼んでくれて家まで送ってくれたのだ。

正直ものすごくありがたかった。

タクシーだと誰かに後をつけられる心配もない。

ホッとしながらカギで玄関のドア開けた時。


ブーと携帯のバイブがカバンの中で響いた。

もし徒歩で帰っていたならば、ディスプレイに表示されているアドレスをしっかりと確認しただろう。

だが、誰にもつけられていないという安心感からか、オレはなんの確認もなしにいつものくせで携帯を開いてしまった。

メールにはたった一言。

一緒にタクシーに乗っていたオトコは誰だ。


「………」


もはや固まるしかなかった。

見ていたのだ。ストーカーは。

オレが課長と一緒にタクシーに乗っていたところを。

タクシーから降りた瞬間を見たという可能性もあるが、課長はずっとタクシーに乗っていたし、その可能性はかなり低いと思う。

つまり、ストーカーはオレのメアド、電話番号、自宅だけでなく、どこの会社に勤めているかを知っているということである。

クローゼットから適当な寝巻きに着替えるとオレはすぐさまベッドに潜り込んだ。


もう何も見たくない……

自宅から出なければとりあえず安全なんだ……

そう思いながら布団の中でギュッと拳を握りしめた。

テーブルに置いていた携帯のバイブが時折響き渡るのに嫌気が差し、電源を切った。

どれぐらい時間が経ったろうか。


ピンポンと突然玄関のチャイムが鳴った。


「………」


まさか……ストーカーがやってきた……?

メールや電話に出なかったから直接やってきたのか……?

で、でも家の中にいれば安全なんだ。

しばらく居留守でやり過ごそう。

何度かチャイムが鳴ったが、一切応答せずにやり過ごしていると、チャイムが鳴らなくなった。

帰ったか?


「はー……」


口からため息を思いっきり吐いたその時。


ガチャ。

玄関のドアが開く音がした。

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