短かった間違い
2日後。
オレはロッカーの荷物をまとめていた。
といっても、大したものも量もなく、掃除がメインだったけど。
そう。
オレは今日でメイド喫茶を辞める。
課長からの電話は会社の建て直しが想定よりも早く終了したということだった。
週明けから会社は元通りの営業に戻るため、もし別の場所で働いているのであればなるべく早く辞めてほしいとのことだった。
掃除が終わると、カバンを掴み、オフィスに向かう。
それにしても、連絡が急だったな。
そのせいで執事喫茶の店長さんは、ものすごく残念そうだったし、悪いことしちゃったな。
罪悪感にかられながら、オフィスに入り、置いてあるパイプ椅子に座る。
この1ヵ月半、なんかあっという間だったな。
まさか、オレがメイドやるなんて……
思わず、苦笑してしまう。
と、ちょうどその時、店長がオフィスに入ってきた。
「お、ここにいたか」
「あの突然辞めることになってすいません…」
オレはイスから立ち上がり、頭を下げた。
「いやいや、仕方ないって。元々短い間だけって契約だったしね。それがちょっと早まっただけじゃない。気にしないでよ。ね?」
店長は笑いながら手を上下に振った。
「あ、そうそう。忘れないうちにこれね。向こうの分も入ってるから」
言いながら机の引き出しに入っていた封筒を差し出してくる。
「あ、ありがとうございます」
給料か、さてさて、今月はいくらかなぁ。
と、思いながら封筒を受けとると。
「!!?」
封筒を掴んだ瞬間、オレは目を見開いた。
そして慌てて中身を確認すると。
な、な、な、なんだ、この分厚さ!!!
そんなオレを見て店長が口を開いた。
「いやー、あの一件以来、智花ちゃんにはだいぶ稼がせてもらったからね。そのお礼も込めて。あ、あとこれも良かったら持って帰ってね」
紙袋に入った何かを手渡してくる。
「は、はい……」
震える手でそれを受けとる。
中には店長愛用と高級化粧品一式が入っていた。
「い、いいんですか!?これ確かものすごく高いんじゃ……」
オレが特製のメイド服を着る時だけ、店長が貸してくれたんだが、海外の輸入品らしく、1つ何万とする化粧品なのだ。
「いいのよ、智花ちゃんには、何かとお世話になったしね」
言いながら優しく微笑んでくれる店長。
「あ、ありがとうございます!」
オレは改めて深々と頭を下げた。
「またいつでも来てね。お客さんとしても、もちろん、メイドとしても」
「ふふ、次はお客さんとしてきますね」
クスリと笑いながらオレはオフィスを出ていった。
その帰り道。
二度とメイド服を着ることなんてないんだろうなぁ。
ふと、そんなことを思う。
いや、家にあるな。クローゼットに入ってるじゃないか、あのとき貰ったメイド服が。
もしかしたらあのとき、メイド服を貰ったのはメイドとして働くことになる附箋だったのかもしれない。
一連の流れを思い出して、そんなことを感じ取るのだった。




