表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/66

どこも間違い

メイドとして働き始めてから早10日余りが過ぎた。

週の勤務日数は4日、1日の労働時間は5~7時間の間。

もちろん、休憩時間もしっかりと確保されている。

なので、疲労困憊になることはない……はずなのだが……


なんとか玄関のドアを開けてフラフラとした足取りでベッドまで向かう。

そしてベッドの前までやってくるとそのまま突っ伏した。


「はぁ~~……」


つ、疲れた……

主に肉体的ではなく、精神的に。

まず、お店のメニューの名前がわけわからん。

にも、関わらず、お客さんはスラスラと言ってくるから覚えるのに必死だよ……


んで、1番苦手なのが、あ、愛を込めての儀式……


「美味しくなぁ~れ、萌え萌え、キュン(はぁと)」


ってリクエストがある度に言わなきゃいけないなんて……!!!!

オレ、オトコだよな?

途中からヤケになってやらなきゃ、心がおかしくなりそうだった。

時給の高さで思わず、引き受けちゃったけど早計だったかも。

いや、かもじゃない。確実に早計だった……


でも、意外な発見もあった。

来店するお客さんがオタクだけではないということだ。

結構、幅広くてカップルや女友達の集団や、男女のグループ、大学のサークルメンバーっぽい人たちもやってくる。

そしてオレと同じ、メイド仲間さんも普通な人ばっかりで。

マンガとかアニメの話にはあんまり付いていけないけど。

なんてことを考えていると疲れていたせいか、いつの間にかオレの視界は真っ暗になっていった。


そして、あくる日。

オレはオフィスにいた。

早いもので今日は初の給料日。

ここのお店では、月末締めの翌1日に手渡しで給料が渡されるらしい。

なんでも銀行振込だと個人情報が漏れるのが怖いというのが理由だそうだ。

ちなみにオレがお店の前で会ったのがここの店長だった。

メイド達の間で社員さんのことを妖精さんと言うらしい。


何故、妖精なのかは知らないけど。

ボンヤリとそんな事を考えていると、オフィスのドアが開いた。

入ってきたのは、もちろん店長だった。

そして、ツカツカとオレの前へとやってくる。


「慣れないメイドさん、毎日お疲れ様。短い付き合いかもしれないけど、これからもよろしくね」


そう労いの言葉をかけてくれると茶封筒をオレに渡してきた。


「あ、ありがとうございます!」


ぺこりとお辞儀をして封筒を受け取る。

と、受け取った指先から違和感が。


ん?

なんか妙に分厚くないか……?

疑問を感じ、恐る恐る、中を見てみると。


んな!!!??

カミナリに撃たれたようにオレの身体は衝撃を受けた。

思った以上の金額がその中には詰まっていた。

持った先から思わず、指先がプルプルと震える…

月の途中から働き始めたから時給が高いとはいえ、結構少ないと思ってたのに…!

そんなオレの様子を見て店長が肩を叩いてきた。


「ちょっと…どうしたの?」


「い、いや、あの、あのですねぇ……こ、この給料の金額は一体?」


衝撃が大き過ぎて、どもりながら尋ねる。


「え、何かおかしかった?ちゃんと計算したはずなのに、少なかった?」


「い、いやいやいや!そんなことは!!むしろ貰い過ぎな気が……」


これで少ないとかあるのか?!


「貰い過ぎ?ああ!!」


合点がいったという感じで店長は手をポンと叩いた。


「ちゃんと説明してなかったわね。ウチでは、この分の売り上げも給料に含まれるのよ」


そう言いながらカゴに入った大量のグッズをドカッと机の上に置いた。

こ、これは。

オレはカゴの中身のグッズを手に取った。


これはタオル?

んで、こっちはタペストリー?

あ、ブロマイドもある。

そして、それら全てに共通しているのは。

オレのメイド姿の写真が印刷されている!!!!!


「な、なん、何ですか、これ!?」


さっきとは違う衝撃がオレの身体を駆け抜けた。

そんな興奮状態のオレに対して店長は実に冷静だった。


「ほら、初日さ、写真撮ったじゃん?」


写真?ああ!

お店に飾るからとかなんとか言われて撮ったな。

なんか、よくわからんポーズを要求された上に、必要以上に撮られた記憶があったが、これのためか!!


「その時撮った写真を貼り付けて商品として売ってるのよ。新人なのに智花ちゃんのグッズ、結構売れててさ」


クスリと笑いながらそう話す店長。


「そうなんですか。あ、あはは、あはははは……」


もはや、乾いた笑いしか出てこない。

そして気付いた。

お見送りしたお客さんがやけに愛おしそうにタオルを抱きしめてる光景を何度か見たことあるが、そういうことか。

しかも、あの中にオレのメイド姿タオルもあったのか。


「はぁ……」


全くため息しか出ない。

オレは肩をガックリと落とした。


「大丈夫?なんかガッカリしてるけど……」


「だ、大丈夫です。もう慣れたんで……」


「?」


不思議そうな目でオレを見る店長。

だが、理由を説明できるわけもない。

とりあえず、そういうことならこの給料も納得だ。

まぁ。精神的苦労と引き換えってことで受け取っておこう。

でも、これだけあればヘアドライヤー買えるな。

帰りに家電屋さんに寄るか。


そして、オフィスを後にし、近くにある家電屋さんへ向かうのだった。


「~~~♪」


1時間後。

上機嫌で街を歩く。

いやぁ~、良いの買えたなぁ♪

しかも、家電の街と言われるだけあって定価より安かった。

これでウィッグの手入れがだいぶ、楽になるぞ。

と、ルンルン気分でいたせいか、危うく通行人とぶつかりそうになった。


「あ、すいません……」


オレはすかさず頭を下げる。

だが、相手はオレに見向きもせず、そそくさと立ち去っていった。


ん、なんか嫌な反応だな。

ま、何かの事情で急いでいるのかもしれないし、気にする必要はないか。

色んなことを考えていたせいで、遠くでサイレンが鳴っていたと思うが、この時はよくわからなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ