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間違いは続く

間も無く冬になろうかというある日の休日。


「あのさぁ…」


履いているヒールを地面にカッカと叩きつけながら苛立ちげに、口を開く彼女。


「はい……」


対するは、すっかり縮こまったオレ。


「なんでその姿なワケ?」


「いや、あのですね…これには深いワケが……」


オレはなんとか彼女を落ち着けようと頭を働かせる。

だが。


「言い訳なんかいらーーーん!!!」


もし、目の前にちゃぶ台があったら間違いなくひっくり返してるであろうボルテージで彼女はキレた。


「ご、ごめんなさいぃぃ!」


オレは反射的に思いっきり、飛び上がり、震え上がった。

大のオトコが情けないと思うかもしれないが、こればかりは勘弁してほしい。


「買い物に行きたいって行ったよね?!結構大荷物にもなりそうだ。とも言ったよね?なのに、なのに……なんでオンナの格好なのよ!??」


まるでどこかの名探偵かのように彼女は人差し指をビシッとオレに向けてきた。


「あ、あのですね、これは話すと長いんですけど午前中にちょっと会社に用があって、で、家に帰ってきたら待ち合わせの時間に遅れそうで、仕方なくこのままの格好で来た次第でして……」


すっかり肩身が狭くなってしまったオレは下げた頭を上げることもできず、声も次第に小さくなっていった。

そんなオレを相変わらず、苛立ちげな目で見る彼女だったが、諦めがついたのかハァ。とため息を一つ吐いた。


「はぁ、まぁいいわ。無理を言って付き合ってもらってるのはこっちだし……」


「ゆ、許してくれます……?」


オレは恐る恐る顔を上げる。


「ええ、まぁ今回だけね」


彼女はそっぽを向きながらそう言ってくれた。

その言葉を聞いてオレはホッとした。

よかった……

これから買い物するのに雰囲気が最悪だったらどうやって過ごせばいいかわからなかったよ…

今日は彼女が生活必需品の買い出しに行きたいとメールをしてきて、せっかくならと、ついでに周辺の建物やお店などを案内しようと思った次第である。


彼女というのはこの前会った香織さんである。

最初は島田さんと読んでいたが、向こうから下の名前で呼んでほしいと言われたので、それ以来、香織さんと呼んでいる。

そんなことを思い出しながら2人で並んで道を歩いていく。


そして歩くこと数分。

駅前の大きなショッピングモールにやってきた。

早速、ショッピングモールの中に入っている大きなスーパーに向かおうとした。


だが。


「ちょっと待って」


彼女からの静止が入った。

横を歩いていた彼女が急に立ち止まったのでオレは慌てて歩みを止めた。


「あれ?行かないんですか?」


「買い出しは後にしない?荷物持ったまま、中を移動するのは結構しんどいと思うんだけど」


「あ」


確かにその通りだ。

せっかくいろんなお店を案内するって言ってるのに荷物持ちながらだと辛いよな。


「そうですね。じゃ、買い出しは後ってことで」


そう言うとオレは彼女と並んでエスカレーターへと乗り込んだ。

エスカレーターを1つ昇ると一つ目の目当てのお店を見つけた。

まずは、最近テレビでも取り上げられ、有名になっている輸入雑貨店。


オーストラリアだか、スウェーデンだか、スイスだか忘れたがヨーロッパからの輸入品を扱うお店。

輸入品だから高いと思われがちだが、実はものすごく安い。

ほとんどのものが500円以内で買えるのである。

それに女性ウケする商品も沢山あるのも魅力の一つ。

それにしても、女装のおかげ(?)ですっかり感覚が女性寄りになったなぁ。

なんか悲しい気がするけど……


そんな沈んだ気分のオレとは裏腹に彼女は店に入るなり、興奮した様子で商品を見て回っていた。

そんな表情を見てると連れてきてよかったなと心から思えた。


「おーい!智花ちゃんも一緒に見ようよー!!」


少し離れた場所から彼女がこちらに向かって左手を左右にブンブンと振っていた。

オレはそんな彼女を見て苦笑しながら店の中へと入って行くのだった。


そして1時間後。

結局、輸入雑貨店で大量に品物を買ってしまったので、それは配送してもらうことになった。

よかった、配送してくれて。

もし、持ってくれとか言われたどうしようかとドキドキしながら待ってたよ。

オレは胸に手を当て、心の底からホッとした。


「どうかした?」


そんなオレを見て彼女は首を傾げた。


「い、いえ、なんでも」


オレは慌てて首を左右に振る。

だが、彼女はオレの心を見抜いたかのように口元を釣り上げた。


「ふふっ、持たされるかもって思ったんでしょ?」


「あ、そ、その、まぁ、はい……」


「バカね、そんなことさせるわけないじゃない。いくらオトコの子でも」


「そ、そうですよね…!」


「持たせるならもっと重いものにしないと……」


「!!?」


ボソッと聞こえた最後の一言をオレは聞き逃さなかった。


「なんてね。ウソよ」


「あ、あははは……ヨカッた」


何故だろう。

全く冗談に聞こえない。


心の中でかなりの不安を感じながら次のお店へと向かうことに。

雑貨屋さんからエスカレーターに乗り、1つ上へと上がり、やってきたのが服屋さん。

最近出来たお店なのだが、リーズナブルな上に、安さを感じさせない作りになっており、若者を中心に人気あるお店だ。

早速、2人で店に入り、店内を物色していく。


「へぇ……」


思わず、声が漏れてしまう。

確かに立派な作りだ。

それなのに安い。お札を1枚出しても僅かだが、お釣りがくる。

そういえば、そろそろ冬服の用意も必要だよな。

古くなったのが結構あってこの前、まとめて捨てちゃったし。

オレは近くにあったカゴを手に取ると、気に入った服をカゴの中に入れつつ、頭の中でいくらかかるか計算していく。


と、少し経ってから気づく。


あれ?

香織さんは?

慌てて周りを見渡すが、姿は見えない。

どうやら、買い物に夢中になっていたせいで、すっかりはぐれてしまったようだ。

とはいえ、とてつもなく広いわけでもないし、出入口も一つしかない。


先に会計を済ませて待っておくか。

そう思うとオレはレジへと向かっていった。

その時。


「あ、よかった!まだ居たのね!!」


右の角から香織さんが飛び出してきた。


「あ、はい。でも、もうお会計しようかなと思って……」


「その前にちょっと付き合ってよ!」


彼女は興奮した様子でオレの腕を取って再び店の奥へと進んでいった。


こんなに興奮してどうしたんだ?

オレは心の中で疑問を感じながら彼女に引っ張られるまま、試着室の前へと連れて来られた。


「え、えーーーっと……」


どういうこと??

その疑問を取っ払うかのように彼女はあろうことかオレの腕を掴んだまま、試着室へと入ってしまった。


ちょ、ちょっと!?

何やってんだ、この人?!!

心の中で激しく動揺するオレに対して彼女は何やらニンマリと悪い笑みを浮かべた。


あ、これはやられる……

直感でそう感じ取った。


「とも君ってさ、スタイル良いよね?」


ちなみに香織さんはオレのことを人前にいる時は智花ちゃん、2人しかいないところでは、とも君と呼ぶようにしている。


さて、そんな説明はさておき。


「い、いや、普通だと思いますけど……?」


彼女の問いに対し、オレは明後日の方向を見つめながら、なんとかはぐからそうと試みた。

が、もちろんそんなものは無駄な努力なわけで。


「んなわけないじゃん!オンナの私が言うんだから!いいからさ、これ着てみてよ!!」


彼女は有無を言わさず、いつから持っていたのか、ハンガーにかかっている服をオレに押しつけてきた。

ま、まぁ試着くらいならいいか。

それでこの空間から抜け出せるなら。

というか試着させるくらいなら別に一緒に入る必要なかったじゃん。

しぶしぶ彼女から服を受け取りながら心の中で文句を並べていく。

と、ハンガーにかかっている服を取りながら気づく。


ん……?


やけにスカートも長いな。それに純白で。

肩のところなんかフリフリがすごいな。


あれ、これ、どっかで見たことある。

ってこれ!

メイド服じゃねーか!!!

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