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それも間違ってる

穏やかな風とともに暖かい日差しが輝いている。

季節はめぐり、春。

春といえば………桜。

桜といえば………そう!花見!!!

ということでオレは連日、花見をしていた。


大学の時の同期達や、中学、高校の同級生と久々に再会し、懐かしい思い出とともにお酒を飲みつつ、桜を眺める。

昼間に見る時と違って夜の桜はどこか幻想的だった。

などと、詩人のようなことを思いながら花見を満喫していった。


そんな中で唯一、ショックだったのは友人の何人かに仕草がオンナっぽいと言われたことだった……

自覚していなかった分、そのショックは大きかった。

そんな事件(?)を挟みつつ、花見三昧の毎日が過ぎていった。


ちなみに会社はというと長期休暇に入っている。

特に大型連休があるわけでもないのだが、何故かウチの会社は独特な休みがたまにある。

その割に年々、業績は上がっていっているのだから不思議なもんである。

そして連休最終日、オレは昼過ぎから地元で有名な花見の場所取りをするため、大きなレジャーシートを持ってやってきていた。

普段なら場所取りなどというめんどくさいことはやらないのだが、今日は会社主催の花見(飲み会)なのだ。


というわけで私服なのだが、もちろん女性ものだ。

この前、母さんが女性ものの服について書かれている雑誌を何冊も送りつけてきた。

まぁせっかく送ってきてくれたのだからと思い、試しに読んでみたのだが思いの外、ハマってしまった。

読みながら、「あ、これ可愛い」と女声で言ってしまった時は自分自身に絶望してしまった。


そのおかげで女性の服には多少詳しくなったのだが、果たしてそれは良いことなのか。

むしろオトコとして間違っているのではと色々と悩まずにはいられなかった。

とまぁ、そんなことを悶々と考えながら時間は過ぎていった。

ていうかいい感じの日差しだからなんか眠くなってきたな……


ちょっとくらい寝てもいいよな。

そう思いながら、気を緩めると一気に眠気が襲ってきた。


……………


さん……


お……さん……


……姉さん………


お姉さん……


ん?誰か呼んでる?

ていうかオレはお姉さんじゃないぞ。

れっきとしたオトコで。

しかし、その間もオレは「お姉さん」と呼ばれ続けた。


だからオレはお姉さんじゃないって。

信じないのなら今、証拠を。

はっきりしない頭でそんなことを思いながら上着を脱ごうと手をかけた。

オレが上着を脱ごうとした途端にオレのことを呼んでいた声が大きくなった。


「ちょっと、お姉さん!?」


そのおかげかオレはようやく、意識がはっきりしてきた。


「え……あ?」


一瞬固まる。

そんなオレの目の前には少し赤面している絵里ちゃんがいたので、オレは慌てて上着から手を離す。


あっぶな!!!!

もう少しで正体バレるとこだった……

軽率な行動は慎まないと。


人生終わるとこだった。

ていうかなんで絵里ちゃんがここに?

オレは心を落ち着けながらようやく上体を起こした。

そんなオレの思考を察知してくれたのか彼女が口を開いた。


「あ、実はわたし大学のサークルの集まりでここの花見にきていて、で、少しはしゃぎ過ぎちゃって少し酔いを覚まそうと思って道を歩いてたらたまたまお姉さんが……」


「あ、そうなんだ………って!!」


今、何時だ!?

オレは瞬時に腕時計を見た。

腕時計には19:28と表示されていた。


ここにきてから4時間以上経ってる。

なんでこんなに寝てしまったんだろ……

確かに日差しは暖かくて気持ちよかったけど。


それよりオレの寝顔が花見にきていた人達に見られていたのか……

そう思うとなんか恥ずかしくなってきた。


ていうか会社の人達は?!

オレはどでかいレジャーシートに自分と絵里ちゃん、2人しかいないことに気づいた。

オレは立ち上がり、辺りをキョロキョロと見回した。


すると少し離れたところに見慣れた顔が見えた。

どうやら寝ているオレに気を使って別の場所で花見をやってくれたらしい。

本当、ウチの会社は出来た人ばっかりだな。

と、苦笑しつつ、再びその場に座る。

さて、これからどうしようかな。


と、そこで昼から何も食べてなかったのでお腹がクゥ~……と鳴った。


「「あ」」


二人同時に声を出す。

なんか恥ずかしいな……

そう思い、オレが少し俯くと絵里ちゃんがオレの手を握ってきた。


「えっ……」


彼女は少し頬を赤らめながら立ち上がり。


「よ、よかったら何か買いに行きませんか……?」


オレは手を握られたことで少しの間、ポカンとしていたがすぐに我に返り、彼女と一緒に屋台に食べ物を買いに行った。

途中、可愛い女子2人にはサービスしなきゃバチが当たると屋台のおじさん達が色々と食べ物や飲み物をサービスしてくれた。

おかげでお金を全く使っていないのに2人で食べきれないくらいの食料を抱えていた。


ていうかオレはオトコなんだよ。

しかも女性ならまだしも女子って……


うう………

なんか泣けてくる。

心が傷つきながらも小一時間ほど、屋台を巡り、ようやく元の場所へと帰ってくる。

あー、もうお腹ペコペコだ……

早いとこなんか口にしないと。

オレは無言のまま、レジャーシートに素早く座り、早速焼きそばを頬張る。


うーん、美味い!!


少し冷めてるけどそれでも美味い。

なんで屋台で食べる焼きそばってこんな美味いんだろう。

焼きそばを完食すると次はたこ焼きを食べる。


こちらも冷めていたけど美味!!

やっぱりソースが市販のものと違うのかな?

とか考えながらあっという間に完食。

ソースものばかり食べてたからなんか甘いものほしいな……

ということでオレは割りばしの先がビニールに包まれたものを取り出した。


そう、みんな大好きわたがし!

うーん、やっぱり甘い!!

久しぶりに食べるとなんか懐かしいな。


子供のころ、よく食べたっけ。

顔中、べちゃべちゃにしてたよな……

そういえばあの頃も屋台のおっちゃんに女の子と間違われたっけ。


と、腹が少し落ち着いたところで絵里ちゃんが大人しいことに気づく。


あれ?

どうしたんだろ?

オレが食べるのに夢中だったから黙っててくれたのかな?

それなら余計な気を使わせちゃったな。

オレは少し申し訳ない気持ちになりながら彼女に近づいた。


と。


「飲んれますか、お姉はん」


オレが近づくより先に絵里ちゃんが背後からしなだれかかってきた。

柔らかい感触が背中に触れる。


これは…………いいね!!


「ってこの匂いは?!」


絵里ちゃんの体からほのかに漂ってくる匂いは、ひょっとして?


「お姉は~ん、えへへ~」


やたらと身体を押し付けてくる絵里ちゃん。


「ちょ、ちょっと…!どうしたの?なんか変だよ、絵里ちゃん?」


「らいじょうふ、あたひ、飲んれないらすよ」


ぷはぁと息を吐き出す絵里ちゃん。

普段は少し大人しい感じなのに別人みたいだ。


「あたひが飲んだのはお水れすよ。屋台のおじさんがこれは水みたいなもんだから一気にいけって……ひっく」


「ってそれってもしかして?!!」


オレは絵里ちゃんが飲んでいた紙コップを拾いあげて匂いを嗅いだ。

やっぱり、透明だからわからなかったみたいだが、焼酎だ。

普通なら口に含んだ瞬間に吐き出すと思うのだが、アルコールによっぽど弱いのか口に入れた瞬間に酔っ払ったみたいだな…


「なんかすごひいい気分なんですよね~……もっと飲みたいからおかわりもらってきまふね~」


千鳥足で屋台の方に向かおうとする絵里ちゃん。


「ちょ、待って待って!!」


オレは慌てて彼女を抱きとめる。


すると。


「あ~、お姉さんだいたーん。えへへ~……」


大胆って何が……

と、そこでオレはようやくその意味に気づく。


あ……!!!

道のど真ん中で女の子を後ろから抱きしめてしまった……!!

これじゃまるで、こ、こ、こ、恋人みたい…


「でもお姉はんならいいですよ……ちゅー」


言いながらオレの方に振り返り、キスしようと唇を突き出してくる絵里ちゃん。

ぷるんとした唇がオレの唇のすぐ傍まで近づき。


「ってダメダメー!!」


間一髪で不意打ちのキスから逃れるオレ。

こ、こんな公衆の面前でキスなんてできるか……!!

そもそもオレたちは女の子同士で……

………って違う!!

オレはオトコ!!

それを忘れたらダメ!!!

でも周りから見たら女の子同士に見えて、けど実際は男女だから何の問題も無くて。


でもでもでも………

オレがそんなことを頭の中で延々と悩んでいると周りから黄色い声が聞こえてきた。


(わぁ~…ここでやっちゃうのかな?)


(でも女の子同士でしょ……?)


(いやいや、愛に性別なんて関係ないって……)


まずい!!

ここにいると変なことになりかねない。

とりあえずこの場を離れよう。

オレは絵里ちゃんの手を握ると駆け足でその場を去った。


「ハァハァ……」


少し走ったところに運よくベンチがあった。

ちょうどいい。

絵里ちゃんの酔いが抜けるまでここで休んでおこう。

オレも体力の限界だし……


まさか少し走ったくらいでここまで息がきれるとは…

かなり体力が衰えてたんだな。

ちょっとショック……

少しヘコみながら、隣にいる絵里ちゃんの様子を見る。


「すぅ……すぅ……」


ありゃ。

酔いの影響か眠ってしまったようだ。穏やかな寝息を立てている。

夜ももう遅いし、仕方ない。

家まで送るか。

少し面倒だが、さっきの酒乱(?)状態よりはマシか。

と、そんなことを思いながらオレは苦笑した。


「よいしょ」


彼女を背負い、太もも部分に手をかける。

同時に柔らかな何かがオレの背中に当たる。


「………!」


なんとも表現し難い、柔らかな感触がオレを襲った。

多少なりとも、女性経験はあるが花見の時といい、相変わらずこの感触には慣れない。

オレはなるべく歩みを早めながら無心で道を進んで行った。

と、無心になっていたせいで一切気づいていなかったことがあった。

オレ、絵里ちゃんの家までの道知らねぇ!!!!


どうしよ…

起こすしかないか……

ちょっとだけ申し訳ないけど、仕方ない。

オレは後ろに回している手で彼女の背中を叩いた。


「絵里ちゃん、絵里ちゃん」


「ん~……」


彼女はまだ眠そうな声を出しながらゆっくり目を開いた。


「ごめんね、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


オレは道の端で立ち止まると彼女に話しかけた。

と、同時に。


「あ、お姉はん、今日はありがとうございまひた……」


という言葉とともに柔らかな唇がオレの頬に当たった。


「え……?」


不意を突かれたため、全く反応できなかった。

絵里ちゃんは再び眠気に襲われたのか、そのまますぐに寝てしまった。


「………」


オレは手で頬を触りながらぼーっと突っ立っていた。

そして。

バターン!!!

その場に気絶してしまった。


結局周りにいた人がオレ達に気づいて救急車を呼んでくれて家まで送ってもらった。

何故、気絶してたのかと聞かれた時はどう誤魔化そうか焦った。

まさか女の子に頬にキスされた程度で気絶したなんて口が裂けても言えない……

そんなことより、唇同士だったらどうなってたんだろ。

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