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間違いってなんだろ

2月14日、バレンタインデー。

恋する乙女達は今頃、チョコを手に告白しに行くのだろうか。

かくいうオレは相変わらず、自宅でゴロゴロしていた。

別に作る必要もないし、渡す予定もない。

もらう予定もない。


まぁこんな姿のオレにチョコを恵んでくれる人なんていないしな。

なんて少しブルーな気分で浸っていた時だった。


ピンポンと家のチャイムが鳴った。

誰だと思い。玄関を開けるとそこには宅配のお兄さんが。

送られてきたのは小さな段ボールだった。

差出人は母さんからだった。

受け取った段ボールは思いの外、重かった。


なんだろ?

オレはリビングにあるテーブルの上に段ボールを下ろすと、ガムテープを剥がし、中に何が入っているのか確かめた。

中にはかわいらしいラッピングが施されたチョコと手紙が入っていた。


「はは……」


思わず苦笑する。

この歳になって母親からチョコをもらうなんてな。

けど、嬉しいな。

こうやって誰に想われているってのは。

微笑みながら、テーブルの脇にあるイスに座り、中に入っていた手紙を読む。

と、半分ほど読み終えたところで気づく。


あれ?

段ボールって結構重かったよな?

なのに中身がこれだけってのはおかしい。

そう疑問に感じ、再び段ボールの中に手を伸ばす。


すると底の方に何かが折りたたまれた状態で入っていた。

それを手に取り、取り出す。


こ、これは……!!

オレが手に取ったのはなんとフリフリの装飾が付いた可愛らしいワンピース。

な、なんでこんなもんが……

オレは衝撃を覚えたが、入っていたのはこれだけではなかった。


その下にはミニスカート、レギンスにニーソックス。

どれも女性ものの服や小物ばかりが入っていた。

テーブルの上に積まれた服を前に呆然とする。


な、こ、これそれあの……

もはや驚きすぎて言葉にならない。

と、そんな時に携帯が鳴った。


「ふえ……?」


フラフラとした足取りで携帯を撮る。

メールだった。

差出人は母さん。

ちょうどいい。一体何を考えているのか聞いてやろうじゃないか。


半ば怒りを覚えながらメールの内容に目をやる。

そこには「送った服を着て外に出かけているところを写真に撮って送りなさい。さもなくば性別を偽って会社で働いていることをバラす」と書いてあった。


こ、これは脅迫じゃないか……!


実の息子にする行動とは思えない。

まさに悪魔の所業……

いや、待てよ……

別に言うことを聞く必要はないじゃないか。

まさか本気で会社にバラすつもりもないだろうし。

我が子にそこまでする親もいないだろ。


そう思い、気楽になったオレはゴロゴロするため、こたつに入ろうとした。

そのとき、再び携帯が鳴った。


ん?

携帯のディスプレイを見ると見たことのないアドレスが。

誰だ?

アドレス変更のお知らせかな?

なんて思いながらオレは携帯を手に取り、メールを開いて内容に目に通す。


「!!」


内容に驚き、思わず近くにあったテーブルに膝をぶつけてしまう。

しかし、その痛みは全く感じなかった。

携帯を持っている手がワナワナと震える。

こ、これは……


どこの会社かは知らないが、水商売の勧誘メールだった……!

し、しかも女装しての、つまりニューハーフとして!!!


こ、これは……

会社にバラされるより精神的にグサッとくるな。

母さんのやつ、マジか……


これはある意味、脅しみたいなもんか。

おそらく拒否し続ける限りこんな感じの会社からのメールがくるんだろうな……

想像するだけでも辛過ぎる。


「はぁ……」


オレはため息を吐くとテーブルの上に置きっ放しだった服を手に掴む。

着るしかないか……

果てしなく気が重いが……


そして数十分後。

オレは母さんが送ってきた服に身を包み、街中を歩いていた。

上は長袖にカーディガンとパーカー、下はショートパンツにニーハイソックスと靴はブーツ。


はぁ、なんでこんな格好しなきゃいけないんだ……

しかも足元がめっちゃ寒い!!

世の女性はこんな服装で冬を乗り切っているのか……


うわ、目の前を歩いてる子なんてミニスカートにスニーカーじゃん……!


見てるだけで寒い……

オレは寒さに耐えながら適当に歩いていた。

とりあえず商店街まで行ったらさっさと写メ撮って帰るか。

そう思い、少しだけ歩みを早める。


そして数分後、商店街の入り口付近に到着。

オレは携帯のカメラを起動すると手早く写真を撮った。


くっ……

自撮りが恥ずかしい。

道行く人も少し変な目で見てるし……

そりゃそうだよな……


変に無愛想だと母さんに文句言われそうだからとりあえずピースして引きつった笑顔を浮かべつつ、自分を撮影してるんだからな……

と、とにかくこれでミッション達成だ。

一刻も早く帰ってコタツに入りたい。


この格好は寒すぎるし、何より周りの視線が痛い。

オレは家に帰ろうときびすを返そうとした。

だがそのまえに視界の端にあるものが映った。


あ、冬服のセールやってる。

部屋着が古くなってこの前捨てちゃったから新しいの少し欲しかったんだよな…

せっかくここまで来たんだし、少しくらい見ていくか。

20分後、店から手提げの袋を持って店から出てくる。


結構良いやつが安く買えたな。

それにあったかそうなパジャマも買えた。

思いっきり女性ものだったけど……

と、そんなことをぼーっと考えながら歩いていたせいか普段使わない道を歩いていることに気づいた。


ありゃ……

ここからだと少しまわり道になるな。

仕方ない引きかえそう。

オレがぐるりと回れ右をした時だった。


「ちょっとそこのお姉ちゃん!」


少し離れたところから少しチャラメなスーツを着たお兄さんが声をかけてきた。

あー、なんかの勧誘かな……


めんどくさいな。

早く帰りたいし、さっさと済ませよう。

そう頭の中で考えてる内にお兄さんがオレの近くまでやってきていた。


「いやーすいません、突然お声をおかけして。しかし、遠くから見ても可愛らしかったが近くで見るともっと可愛いですね!」


うっ、可愛らしいか……

なんか心が痛いんだが、気のせいじゃないよな……

オトコが可愛いなんて言われてもちっとも嬉しくない……

そんなオレに構わず、彼は言葉を続けていく。


「それに服もよくお似合いで!いや、違うな……この場合は……素材が素晴らしいと何を着ても最高ってことですね!!」


グサッ!!!


目に見えないナイフがオレの胸を刺し貫く!

まったくオトコとして情けない。

女性の服を着てそれが似合ってるだなんて……


くそ……

一体なんでこんなことに……

オレは心の中で泣いていた。

それはもう号泣だった。


お兄さんはオレが俯いたのでそれを照れていると勘違いしたらしく、チャンスとばかりにチラシをオレに見せてきた。


「お姉さん、可愛いからすぐに人気出ると思うけどなぁ~!!どう?ちょっとだけでも試しにやってみない?」


試しにって何を……

オレはまだ心が折れていたが、何をやるのか気になったのでなんとか顔を上げた。


「ぶっ!!」


だが、チラシを見た瞬間、思わず吹いてしまった。


チラシには女性の夜の仕事、いわゆるキャバクラが載っていた。

で、できるか、こんな仕事……!!

酒に酔ったサラリーマンの相手をして、状況次第では身体にお触りもさせるんだろ……?


うひぃぃぃ!!!

想像しただけで鳥肌が立ってくる……!!


「い、いえ結構です……」


オレは引きつった顔でなんとかこの場から逃れようと断りつつ、後ずさりした。

しかし。


「ええー!もったいないな!せっかくダイヤの原石がここにいるのに!ねっ!?30分だけでもいいからさ!?」


と、お兄さんは逃がすものかとめんどくさいことに粘ってきた。


「本当に結構ですので。すいません」


このままではらちが明かないと思い、オレは軽く頭を下げてその場から駆け足で逃げようとしたのだが。


ガッ!っと勢いよく、お兄さんはオレの腕を掴んできた。


「本当にちょっとだけでいいから!お願い!!ねっ?」


ほんと、しつこいな。

やらないって言ってるのに。

仕方ない。

本当ならやりたくないが、これでもしないとな。

オレはお兄さんに向き直り、オレの腕を掴んでる手を取り、胸へと触らせた。


「え!?ちょ……なにを………!!!って……あれ……え……固い?柔らかくない………??」


お兄さんはオレの胸に手を置きながら顔と胸を交互に見比べてきた。

そんなお兄さんにオレはわざと目を合わせてニッコリと微笑んだ。

その瞬間、お兄さんは思いっきり後ずさりし、そして。


「えー!!!オ、オ、オトコー!!!??うわーーー!!!」


絶叫しながらお兄さんはその場から一目散で逃げていった。

はぁ、やっと終わった。

とんだ災難に巻き込まれたな。

お兄さんが去っていくのを見ながらホッとする。


果たしてこれで良かったのかと思うが、ずっとつかまるよりはマシだろう。

今度からここの道、通らないように気をつけないとな。

頭の中でそんなことを思いながら家に帰ろうとした。

その時だった。

遠くの方から。


「マスター!!!すぐそこにダイヤの原石が!!本当に女の子にしか見えないんだよ!とにかくまずは一目だけでもいいから見てみてよ!!!」


って、この声さっきのお兄さん!!?

会話的に想像すると完全にそっち系なお店でオレを働かせる気か?!

正体がバレてしまった以上、さっきのようにはいかない。

は、早くこの場から逃げないと……!

そう思った瞬間、かなり遠くの方からお兄さんとマスターと呼ばれる人がチラと見えた。


「うわぁーーー!!!」


人物は違うが本日二度目の絶叫が響き渡る中、オレは猛ダッシュで家まで帰るハメになったのだった。

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