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やっぱり間違ってた

17:24。

昨日同様、タクシーを使って旅館に到着。

朝から歩き回って疲れたので早めに戻ることにした。

さて、部屋に戻ったらまた露天風呂に入ろうかな。

今日で入り収めだし。

そんなことを思いながらロビーを抜けようとした時、オレは女将さんに呼び止められた。


そこでオレは最悪の現実を突きつけられた。

それはオレにとってまさしく死刑宣告にも等しいものだった…


それから30分後。

オレは自室にある露天風呂ではなく、旅館の外にある宿泊客が共有できる露天風呂へと来ていた。

なんでこんなことに……

心の中で嘆きながら、ゆっくりと服を脱ぐ。


さっき、女将さんが話した最悪の現実というのはオレの部屋の露天風呂が使えなくなったということだった。

なんでも急にお湯が出なくなったらしく、代わりに夜はここの露天風呂を使ってくれと頭を下げられたのだ。

正直、いつ他の女性が入ってくるかわからない。

正体がバレる可能性が非常に高い。


それに風呂に入らなくても1日くらいなんとかなる。

が、観光地を歩き回ったおかげで汗をかいており、全身が気持ち悪かった。

オトコとして入れればよかったのだが、あいにくここで使えるように発行された券にはオレの女性としての名前が記入されていた。


入りにきたのがオトコと分かれば何をされるかわかったもんじゃない。

なので仕方なく女性として風呂に入るしかなかった。

服を脱ぎ終えたあと、すばやくバスタオルを全身に巻く。


だ、大丈夫……

こうしていれば怪しまれることもないし、サッと入ってサッと上がれば済む話じゃないか……

オレは激しく揺れる心をなんとか落ち着かせながら露天風呂へと入っていった。

そして、慎重に扉を開けてまずは中を見る。

幸いにもまだ誰もいなかった。


ふぅ、良かった。

オレは安堵の息を吐きつつ、湯船に浸かった。


「あぁ~……」


あまりの気持ちよさに思わず、声が漏れる。

部屋でのも良かったけど、こうして解放されてるのもまた違った良さがあるな~…

オレはそのままブクブクと下へ潜っていった。

まさにその時だった。


ガラッと露天風呂へ入る扉が開いた。


「!?」


完全に油断していたのでビクッと肩を揺らしながらゆっくりと水面に浮上しながらそちらへと振り向く。

そこには髪の長いスレンダーな女性が立っていた。

もちろん、バスタオルを巻いて。


ひとまず安心。

これで裸だった時は、一目散に露天風呂から出ていたところだ。

しかし油断はできない。

オレはなるべく距離をとりつつ、湯船へと浸かっていた。

あとちょっと経ったら髪だけ洗って出よ……

髪といってもウィッグなので洗ったうちに入らないのだが、髪も濡れてないのに露天風呂から出ていくのは不自然かと思ったのだ。


そして数分後。

よし、そろそろ出るか。

そう思い、オレが湯船から出ようとした時だった。


「!?」


なにやら生温かい視線が背中に注がれた気がした……

オレはゆっくりと振り返り、その視線を追っていく。

というかオレに視線を送れるのはこの場にたった1人しかいない。

案の定、オレに視線を送っていたのはオレの後に入ってきた彼女だった。


ゆっくりと振り向き、オレが彼女の顔を見ると彼女はニッコリ微笑んだ。

対するオレは苦笑いしか浮かべられなかった。

しかし、綺麗だ。

これが大人の女性の色香ってやつか……


……って!

いかん、いかん!

何を考えてんだ。

オレが邪念を振り払おうとブンブンと頭を振っているといつの間に彼女はオレのすぐそばに来ていた。


「あ、あの、何か……?」


オレは少し上ずった声で聞いてみた。

すると。


「あなた、名前なんていうの?」

と聞かれた。


「と、ともかです……」


オレは少し、どもりながらもなんとか口を動かした。

とりあえず今はなるべく早くこの場から抜け出したかった。

いろいろ探られて変に疑われるのだけはごめんだ。


「ともかちゃん……か」


そんな心の中で焦っているオレとは正反対に彼女は知ったばかりのオレの名前(本名じゃないが)をゆっくりとつぶやいた。

そしてうっすら笑みを浮かべ、舌で唇をペロリと舐めると彼女の手がオレの首筋に触れた。


「ふえっ?!」


オレは予想外の行動に驚き、思わず声を上げてしまった。

えっ!?ちょ!?

この人、何やってんの?!

オレは予想外の事態にたじろいた。

そんなオレに構わず、彼女はオレの首筋に置いた手を横にずらしていく。


「綺麗な鎖骨……」


まるで宝石を手にしたかのように眼を輝かせながら小さくつぶやく。


ちょ、ちょっと~!!

オレの心臓はもうバックバクだった。

一刻も早く逃げなければ…


だが、彼女はまるでオレの心を見透かしたかのようにゆっくりと、今度は正面へ移動してきた。

そしてオレの太ももにそっと手を置いた。


「!?」


言葉にならない悲鳴が出そうになった。


だ、ダメだ……

驚きの連続で完全に身体が動かなくなった……

そんなオレを見てか彼女はポツポツと話をし始めた。


「実はアタシさ、女の子にしか興味ないんだよね。特に可愛い子にはもう目がなくてさ。でもまさかこんなとこで理想に会えるなんて思わなかったな……」


かろうじて動く頭で考える。


え?それって……

つまりそっち系?!

この前のウェディングドレスの時といい、なんでオレの周りにはそういう人間ばっかり集まるんだ~!!!

そしてゆっくりではあるが、彼女は指を上に這わせていき、ついに身を守っているバスタオルに手をかける。


「ね、これ邪魔じゃん。取っちゃおーよ…」


そう言いつつ、バスタオルを取る手にグッと力が込められる。

そ、そこだけはだ、ダメ~!!

オレは心の中で叫び、慌てて両手でバスタオルを掴もうとするが、身体は未だ動かず、時すでに遅し。


お、終わった……

心の中で諦めかけたその時だった。


フッ………と突然、風呂の中の電気が一斉に消えた。


「!?」


これはもしかして、停電?!

オレのバスタオルを剥がそうとしていた女性も突然の事態に驚いたのか一瞬、手が止まった。

い、今がチャンスだ……!

オレはバスタオルを両手で掴みながら、一目散に露天風呂から出ていった。


「あ!ちょっと!!逃げることないじゃない……!」


後ろからそんな声が聞こえてきたが、立ち止まるわけにはいかない。

そして走りを早めようとした瞬間。


「ふふ、カワイイ……じゅる……」


と、舌なめずりの音が聞こえて、背中に悪寒が走ったが、なんとかそれを堪えて脱衣所に駆け込んだ。

そして、素早く服に着替えると一目散に自分の部屋へと逃げた。


「はぁはぁ……」


心臓があり得ないくらいバクバクいっている。

変にドキドキした上に全速力で走ったのだから仕方ない。

オレは部屋にあった座椅子にドカッと座るとガックリとうなだれた。


まさかこんなとこに来てまでこんな目にあうなんて……

今年は厄年か……

いや、女装を始めた瞬間から毎日が厄日か……

そんなことを考えながら、最後にドタバタを交えつつ、京都の旅は終わっていった。


ちなみに余談だが、帰りの電車で背中に生温かい視線を受け、悪寒が走ったのだが、それはなるべく気にしないことにした。


一緒の電車かよ……

勘弁してくれ……


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