間違ってないのかもしれない
秋になった。
秋といえば、食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋
様々な秋があるが、働くオレにとっては関係ない。のは昨日までの話だった。
オレは今、旅行用のカバンを持って電車に揺られている。
今日から二泊三日で京都に旅行に行くのだ。
なんでこうなったのかと言うと話は数日前に遡る。
駅前の商店街の福引で見事、2等を引いたのだ。
そしてそれの景品が二泊三日、京都の旅。だったのである。
会社の有給の期限も切れそうだっし、ちょうどいいと思い、こうなった次第である。
旅行に行くに辺り、避けられない問題が一つあった。
それは……
女装して行くか行かないか!!
見知らぬ土地なのでオトコの格好でいっても誰かに会う可能性も極めて低いし、格好的に非常に楽。
それに旅行も気兼ねなく楽しめる。
だが、宿に予約する際、仕事で電話をかける時と同じように癖で「智花」と名乗ってしまった。
ちなみにオレは女装している時は「河野智花」と名乗っている。
智花と名乗ったのに泊まりにきたのが、オトコとなれば不審に思われるかもしれない。
オトコでそういう名の人はいるかも知れないが、オレの場合、嘘をついてまでオトコの格好で「河野智花です」と名乗る勇気がない。
なので、結局オレは女装していくことにした。
まぁいつもの格好だからとくに気にすることはない。
それにしてもこれにも慣れたもんだよな。
心の中でそんなことを思いながら、オレは初めて行く土地に少しワクワクし、変わりゆく景色を窓から眺めていた。
そして電車に揺られること、数時間、ついに京都に到着。
改札を抜けたところで思いっきり伸びをする。
「んん~!」
長時間座ってたから身体が少し固まった感じがするな。
いや、それより。
オレは、スーッと深呼吸をしてみる。
うん、やっぱり空気がおいしい気がする。
都会とは違うのかな。
なんてことを考えつつ、オレは秋の京都を観光することにした。
京都の観光地は沢山あるが、時間が限られているので特に行きたいとこだけ、ピックアップすることにした。
まずは金閣寺!!
修学旅行の定番の観光地としても有名。
実はこの建物、建造当時のままというわけではない。
大半の建物は応仁の乱などで焼失し、北山文化唯一の遺構であった金閣も昭和25年(1950)、一人の学僧の放火により焼失してしまい、現在の建物は昭和30年に再建されたもので、昭和62年には金箔が全面張り替えられ、さらに平成15年には屋根の葺き替えも行われ、きらびやかな姿に蘇ったそうだ。
う~ん、中々、歴史が深い。
お次に行くのは清水寺!!
これまた、修学旅行定番の観光地。
本堂からは京都市街を一望できるほど、高く建っており、初めて見た時はあまりの高さにギョッとしたものだ。
さらに本堂の裏手には、縁結びの神様として若い女性に人気の地主神社がある。
たっぷりと清水寺を堪能したオレは帰り道の途中、清水焼と甘味屋に目を奪われてついつい寄ってしまった。
う~ん!
美味い!!
あんみつを頼んだのだが、程よい甘さで非常に美味い。
甘いものって普段も食べるけどこういう所で食べると味が格段に違う気がするな。
やっぱり観光には食べ歩きも必要だよね~。
なんて思いながら日が沈んでいくのだった。
そして時刻は18:12。
オレは今日と明日、2日間お世話になる宿へと向かっていた。
送られてきたパンフレットには昔からある老舗の旅館らしいのだが、最近大規模なリニューアルを行ったらしく、なんとそれぞれの部屋に個別の露天風呂があるらしいのだ。
人の目を気にせずに入れるなんて最高だよな~。
正体がバレる心配もないし。
早くも楽しみだ。
ついつい笑みがこぼれそうになりながら旅館までタクシーで向かうことにし、乗り込むのだった。
数十分後、タクシーを降りると旅館が見えてきた。
なるほど。
見た目からでも分かるくらいオーラがある旅館だ。
早速中へと入り、チェックインを済ます。
そしてそのまま泊まる部屋へと案内されていく。
だが、そこで一つ驚くべき、光景に遭遇した。
それは、なんと旅館の中にも関わらず、部屋まで人力車で運んでくれるのだ!
これは、女性のみのサービスらしい。
女装してて良かったと少しだけ思えた。
それから案内された部屋に入ってひとまず辺りをぐるりと見渡す。
う~ん。
いい雰囲気の旅館だなぁ。
畳張りで、窓ガラスからは外の風景が見ることができる。
カバンを適当なところに置いたところで思い出す。
そうだ。
ご飯が来る前に露天風呂入っちゃお。
オレは部屋に置いてあった寝巻きとタオルを取ると早速、露天風呂へと入っていった。
「いやぁ、極楽、極楽……」
肩まで浸かったところで、ついついお年寄り臭いことを言ってしまう。
タダでこんな良いところに泊まれるなんてバチでも当たりそうだな。
なんてことを考えながら京都での一日目が過ぎていくのだった。
「う、んん……」
聞こえてくる小鳥のさえずりと共に目を覚ます。
「ふあぁぁ……」
寝ぼけ眼であくびをしながら枕のそばに置いておいた携帯を手に取り、時計を見る。
7:02と表示されている。
まだこんな時間か。
ってそろそろ起きないと会社に遅刻する!!
勢いよく布団をガバッとはねのけたところで気付く。
あ、そういえば旅行に来てるから会社行かなくていいんだっけ。
平日に休むなんてかなり久しぶりだから、ついうっかりいつもの癖が出てしまった。
半分起き上がったところでう~んと悩む。
どうしよう……
目が覚めてしまったから二度寝は難しそうだな。
朝ごはんは8時に運んでくれるってことだし、それまで時間があるし、近くを散歩でもするか?
と、そこで一つ良いことを思いつく。
そうだ。
せっかくだから露天風呂入っちゃお。
朝から露天風呂に入れるって最高だな~。
オレはカバンから着替えを取り出し、タオルを手に取ると昨日と同じように露天風呂へと入っていった。
そして露天風呂を堪能したあと、朝ごはんをしっかり食べたオレは身支度を整えて早速2日目の観光へ行くことにした。
今日行く場所は京都の名所、嵐山!!
有名な観光地として有名で、一回は行ってみたかったんだよな~。
オレは旅館の近くに停まっているタクシーに乗ると嵐山駅まで向かってもらった。
15分後、嵐山駅に到着。
タクシーを降りて少し進むと早速、目の前に渡月橋があった。
ちなみに名前の由来は「月が橋を渡るように見えたこと」から。
亀山上皇が命名した嵐山のシンボルでもある。
しっかし……長いな。
渡りきる頃には息が上がってそうだな。
そんなことを思い、苦笑しつつ橋を渡っていく。
橋を渡りながら、これからどこに行くか考える。
悩んだ結果、やってきたのは竹林の道。
いや~、すげー。
圧巻だわ。
まっすぐに伸びた竹林が天龍寺北側から大河内山荘付近まで、約100mにわたってトンネルのように続く。
一歩足を踏み入れると、竹のさわやかな香りが出迎えてくれる。
夏場でもひんやりとしているため、涼を求めて訪れる人もいるらしい。
さて、この先に目的地があるんだ。
オレは周りの景色に目をやりながら竹林の道を進んで行くのだった。
そして、歩みを進めること約10分。
最初の目的地に到着。
常寂光寺に着いた。
小倉山の山中に建てられた名刹で、なんと重要文化財にも指定されている、高さ約12メートルの多宝塔を備える。
紅葉の名所として良く知られていて、しかも季節ごとの葉を見れるらしい。
オレは持参していたデジカメで紅葉をパシャパシャ撮っていく。
あ~、綺麗だなぁ……
春になったら桜に変わるのか。
花見とかやってみたいなぁ。
そこで団子とか食べて。
ふとそんなことを考えているとグ~と腹の虫が鳴った。
結構歩いたからお腹空いたな。
そういえば女将さんが旅館を出る時に美味しいわらび餅を食べられるとこがあるって教えてくれたっけ…
ある程度、写真を撮って満足したところで小腹が空いたのでオレは女将さんオススメの店へ向かうことにした。
道を戻ること約15分。
お目当ての店に着いた。
なんとこのお店、明治41年から続く、老舗和菓子店なのだ。
しかも、店内奥の茶房では庭を眺めながら季節の和菓子と抹茶を堪能でき、さらにここで食べられる本わらび餅は注文を受けてから作るというのだ!!
ということで早速本わらび餅を注文する。
少し経ってから本わらび餅が運ばれてきた。
う、うわぁ~……
すんごいモチモチだよ……
や、柔らか……
餅ってここまで柔らかくなるのか…
あまりの柔らかさと美味さに思わず、頬が落ちそうだった。
はじめてだよ、こんなの……
「本」の名前は伊達じゃないな…
「ふぅ~」
お腹が落ち着いたところで一服する。
あー、美味かった。
美味し過ぎてついついおかわりしちゃったよ。
これが女性なら明日からダイエットしなくちゃ…とかなるんだろうけど、オレには関係ない。
それに元々太りにくい体質なのでどれだけ暴飲暴食しても体重に一切、変化がみられないのだ。
これを大学の女友達に言ったらめちゃくちゃ睨まれたっけ…
「女の子は体重500g落とすのに血へどを吐くような想いをしてるのよ!あんたはそれをわかってない!!」
とかやっかまれたっけ。
まぁ別の部分で女性の気持ちをよ~く知ることになったけど……
と、昔の懐かしい(?)思い出に浸りつつ、店を出た。
お店を出てから道を歩くこと約7分。
オレは嵯峨野トロッコ列車に乗りにきた。
嵯峨野を基点に保津川渓谷に沿って走るノスタルジックなデザインの観光列車であり、ゆったりと流れる保津川を眺めることができるらしい。
料金も往復で1200円とさほど高くない。
オレは早速列車に乗り込んだ。
列車に揺られながら、見る景色も綺麗だった。
何より車掌さんのアナウンスが面白かったなぁ~。
サービス精神溢れるっていうか、口が上手いっていうか、とにかくすごかった。
また乗りたいな。
感慨深くなりながらオレは列車を降りて道を戻っていった。
街に戻ってきてからは、お土産を物色していた。
その途中で買い食いもした。
行く先々で美味しそうなものが並んでいるので、ついつい足がそっちに向いてしまう。
湯豆腐に八ツ橋、京抹茶を使ったソフトクリーム…全部が美味しかった。
それに都会では食べられないものばかりだったのでお土産も近いものにした。
お土産を手にぶら下げながら思う。
また来れたらいいな。
次はオトコとして。