ブラームスはお嫌い
ブラームスは嫌いだとその女は言った。
オレが窓際でサガンを読んでいた時に。
クラスで一番カワイイ子が言い放った。オレにではない。
彼女はオレに背を向けながら、ヤンキー男に言ったのだ。
髪をアッシュに染めたそいつはピアニストくずれだ。
単車でコケて手首を折った。それ以来グレて、それこそ手が付けられない。
目の色が変わる。クラス一のマドンナの肩越しにマイナスのイオンじゃない、オーラが突き抜けてくる。こいつはガンマ線なみだ。
オレはカッコ付けているけどキモオタニート引きこもり予備軍、いやもう片足を突っ込んでいるような奴なので女のカゲに隠れる。
あいつ、クラッシックとかまだ好きだったんだな。あきらめてなかったのか。
ハハッ、あんな顔してら、ダッセー。
男は本気だった。怒っている。怒髪天を突くとはこういうシチュだ。
オレが女ならどう切り抜けるかを想像する。
「いつまでも過去にとらわれてバカみたい。私はあなたにあなた自身の道を歩いて欲しいの…
「バカヤロー、俺の失ったものの重みが分かるか?
「分からないわそんなモノ。でも今のあなたは見ていられない
「キレイな面しやがって、二度と鏡が見れないようにしてやろうか?
「かまわないわ。それであなたが満足ならば。 …それであなたの心が癒えるなら
「くらえ!!
ザシュッ!! 傷つけられながらも男をひしと抱きしめる女。
「何故…?
「かまわないわ、こんな傷。だって私はあなたの事を…
ザシュッ。 痛た!!
「テメー後ろでニヤニヤしやがって」
ブン殴られたのはオレだった。
前歯が折れて、今まで以上に見られない顔になったのも、