-勝負②-
葉山体会、当日。
「はぁ。こっちが緊張する…」
横には俺以上に緊張している優紀がいた。
それもそうだよな…
この勝負に負けたら俺はこの学校からいなくなる…
「ふんっ。よく逃げ出さなかったな。」
まぢ嫌味としか言いようがない満面の笑みを浮かべて蓮が話しかけてきた。
「はっ、それはこっちのセリフだ。俺をなめてると痛い目あうぞ!」
「おもしろい。それくらいじゃなきゃつまらないしな。今日でケリをつけてやる!」
「のぞむところだ!」
「もう、2人ともやめてよ!!楓も少しは周りに気をつけてしゃべってよ!」
「あっ、わりぃ…」
優紀が少し控え目ではあったがすごい形相で俺らを止めた。
やっぱり俺らはどうしても優紀には逆らえないらしい…
それに、周りを見回すと離れてはいるが色んな奴らがこちらを見ている。
ヤベェ…
さすがに離れてても危なかった。
優紀サンキュー!
そうこうしているうちにスタートの時刻だ…
「楓、頑張ってね…」
すごく心配そうな優紀。
「うん。大丈夫、信じて待ってて」
「わかった」
俺はスタートラインに立った。
「位置について、よーい…」
パンッ!!
晴れた空に響き渡るようにピストルの音が鳴り響いた…
俺は勢いよく飛び出した。
しばらくすると俺は先頭を走っていた。
後ろはかなり離れてる。
昔から走るのは得意だったし、陸部から勧誘されるくらい俺は速かった…
なのに…
「まぢかよ…」
俺の横にはぴったりと蓮がいる。
そういや自信ありげだったもんな…
「あれ?もうばてちゃったの?」
うわぁ。またあの笑顔。
腹立つ!!
「んな訳ねーじゃん。お前こそ、ばててんじゃねーの?」
「てめぇの目は節穴か?誰がばててるって?」
「うっ…」
確かに、蓮は息も乱れていない…一定の呼吸を刻んでいた。
まぢ、ヤバいかも…?
そのとき…
「なぁ、楓。」
「なんだよ!?」
「1つ聞きたいことがあるんだけど…なんで優紀だったの?」
「はっ!?どういう意味?」
一体何を聞きたいのか俺は理解できなかった。
「わざわざ、女装してまでこの学校来て。なんで好きになったのが優紀だったわけ?てか、そもそもなんで女装なんか…」
「あぁ、優紀から聞いてなかったんだ。女装してたのは単に前の学校がつまんなさすぎたから、刺激を求めてって感じかな?そんだけ。」
「…」
うわぁ、その目。
分かってるよ、自分が言ってることがおかしいくらい。
でも、それでも俺はこの学校に来れてよかったって思ってるんだって…
「優紀に興味を持ったのはあいつが兄貴と話してるのをたまたま聞いちゃったから。ただ、からかってやろうと思ったんだけど、優紀のこと知るうちに気付いたら好きになってた。それにあいつの苦しみから救ってやりたいと思った…」
「ってことは、中学の時の話知ってるんだ…」
「あぁ、ただ優紀が思い出すの辛そうだったから詳しくは知らないけどな。蓮、お前がいながらどうして優紀はあそこまで追い詰められたんだ…?」
俺は優紀に聞けなかったことを蓮に聞いた。
この話をした時の優紀は何かに怯え、体が強ばっていた…
だから、初めてこの話を聞いたとき以降もう2度と優紀には聞かないって決めたんだ。
「それは…」
ん?蓮の表情が変わった…
「なんだよ?」
「…お前は優紀からどう聞いたの?」
「クラスのリーダー的な女子が好きだった男子と仲が良くてそれを妬まれてって…」
「あぁ、その通りだ。ただその男子ってのが…実は…俺なんだよね」
「えっ!?でも、優紀はお前だけは味方だったって…」
まさかの展開だった…
「そうだ!!だから俺は言ったんだ!優紀とは幼馴染なだけで何も無いって…だけどその女の子は思い込みが激しくてわがままで、しかも国会議員の娘とかで誰もそいつには逆らえなかった。先生までも…俺が優紀をかばうといじめはさらにエスカレートしてった…しかも俺が見てない隙を狙って…だから俺は…ッ」
「もぅいい!!それ以上は…」
でも、蓮は話をやめなかった…
「…確かに味方だった。でも俺が守ることでさらに優紀を苦しめることを悔やんだ…自分のせいで明るかった優紀が変わっていくのを見るのが辛くて優紀から離れた。それでも、優紀は俺を責めなかったそれどころか今までどおりに接してくれた…」
「…」
「だから、高校は離れたけど優紀を前みたいに戻すのは自分だって思ってた…それにずっと好きだったからな。なのに、久々に会った優紀は昔のようだった。いや。むしろそのとき以上にいい顔をしてた…」
「…」
「…でその理由を知りたくなって俺は転校してきた。これが真相。」
俺はなんて言っていいか分らなかった。
「あっ…えっと…」
「いいよ、無理して何か言わなくても…それに分かったこともあるしな」
「分かったこと?」
「あぁ、優紀が変われたのはお前のおかげだ…だから、優紀からお前を奪うことはまた優紀を苦しめることになる…だから…優紀のことはお前に任せる。俺は今まで通り幼馴染のままだ!」
「えっ!?…いいのか?」
「あぁ、あの条件は取り消しだ!」
俺が想像もしなかった展開になってしまった…
でも、これで優紀を悲しませることはなくなった…
「…蓮、サンキューな…///」
少し照れくさいけど礼を言った。
「あっ!ただ、条件はなくなったけどマラソン勝負は続けるぞ!楓、お前は俺のライバルだしな(笑)」
「あったりめーだ!勝負は勝負だ!」
結構、話しながら走っていたらしくゴールが見え始めていた。
俺と蓮は楽しむようにゴールに向かって行った…
勝敗は…
「同着!!」
ゴールにいたタイム係から告げられたのはこの言葉だった…
「はぁ、はぁ…やるな、蓮…」
「はぁ、はぁ…楓もね…」
最後、全力で走ったのに蓮はやっぱり振りきれなかった。
さすが、俺のライバルだ…
「楓?大丈夫?」
そう声をかけてきたのは優紀だった…
思わず抱きしめたくなったのをすっげぇ我慢した。
「大丈夫だよ。…それとあの条件は無くなったから…」
「えっ!?」
優紀は目をまん丸くして驚いている。
あたりまえだよな…
すっげぇ、心配して待ってたのに帰ってきたら無くなったって言われたら誰だってそうなるよな。
「あとで、ちゃんと話すから…帰り一緒に帰ろ?」
「…うん。」
―優紀サイド―
レースから帰って来た楓から条件は無くなったなんて言われてあたしは喜んでいいのかちょっと複雑だった…
確かに、楓のことがばれる心配はなくなったわけだし…
でも、どういういきさつでこうなったのか理解できない。
しかも、ケンカ調ではあるが2人とも仲良くなってるし…
もぅ、訳わかんない!!
なんか振り回されてる感じがする!!
「もぅ、帰りに楓からみっちり聞きだしてやる!」
―帰り道。
「…でどうしてこうなったのか教えて?」
帰りまでの時間が長く感じて楓に会うなり聞いちゃった。
「ん~?簡単に言うと、走ってる最中に話してて…気づいたら解決しちゃった。」
「えっ!?それだけ?」
「そうだよ!」
色々、考えてたのに…それだけなの!?
「本当に!?なんか隠してるでしょ?」
「何も隠してないよ~!まぁ、1つあるとしたら2人とも優紀のことが好きすぎたってとこだな!」
「…っ///」
思わず赤面してしまった。
なんかこれ以上聞いても恥ずかしくなることしか言わなそう…
「あっれ~?優紀どうしたの?」
「…どうもしないもん!」
結局、詳しいことは聞き出せないまま帰宅した。
でも、本当に楓がいなくならなくてよかった…